[BlueSky:06399] Re: 環境権


[From] SUKA Takeshi [Date] Fri, 04 Mar 2005 10:22:51 +0900

小宮さん

ご返事ありがとうぎございます。

小宮さん:
> ジュゴンを守るためとか、森林破壊を止めるためにリゾートの
> 建築をやめさせるとかいった、自然や将来世代の権利を規定する
> のはなかなか難しいのではないでしょうか。例えばリゾート建築
> の場合でも、それで生計を立てている人が多くいるわけで、その
> 人達の権利と対立することになると、どうしても弱いように思え
> ます。

確かに、弱いかもしれませんね。そして、弱いということのなかに
は、今の法律や制度やそれをささえている価値観のもとでは弱い、
ということがふくまれているように思います。その相対的に弱いと
いう現状のバランスを少し変えることに、環境権のひとつの意義が
あるのではないでしょうか。

笹山さんの論説によると、
http://www.sasayama.or.jp/opinion/S_21.htm
1970年4月1日、世界ではじめて提出された環境権の法案は、
「エイプリル・フールのジョーク」と呼ばれたそうです。そのなかみは、
「大気・水・土地・その他の天然資源または、天然資源に関する
 公共信託に対する汚染・損傷・破壊について、市民・法人・団体
 等は、訴えることができる」というものだったそうです。
                
それが、上の論説が書かれた2000年2月 21日まで時点で、
「憲法上に環境権または環境保全条項を規定している主な国」
 として49カ国。、
「州憲法に環境権にかんする条項を設けているアメリカの主な州」
 として6州が挙げられる状況まで広がっているそうです。ですから、
そういう考え方が受け入れられる条件がととのえばできないことでは
ないのでしょう。

もっとも、
「憲法に環境規定を明記している諸外国のうち、この規定を、裁判上、
 直接適用している国は、ほとんどない」
ということです。といっても、
「では、環境権は抽象的権利であるかといえば、そうでなく、憲法上
 に環境権を明示することによって、司法から立法・行政に対し、環
 境権を無視し得ぬ、強い規範を示すことになる。
 この強い規範性により、立法過程において、環境権の精神が、実定
 法に反映されてくる。」
ということらしいのです。

自然や将来世代の権利については、わたしもそれほどよくわかっている
わけではありません。個人的には、自然の権利という考え方にはちょっと
感覚的にわかりにくいところがあり、どちらかといえば将来世代の権利と
いうアイデアの方が、すとんと胸におちると感じるところがあります。

ジュゴンのような生物については、美術品や遺跡のような文化財と同じ
ようなものと考えたほうが、どちらかというと理解しやすいような気が
します。もしかしたらこういった考え方が、上の条文にある「公共信託」
という考え方のもとになっているのではないでしょうか。

将来世代は選挙権をもっていませんし、代議員を送り込むことも普通は
できません。それは人間以外の自然の構成員も同じですが、将来世代で
あれば、まだ想像力をはたらかせやすい気がします。今の世代が議論を
交わしたとき、将来世代のことであれば、意見の一致する範囲が比較的
大きいのではないでしょうか。将来世代の環境権という考え方をみとめ
ることには、そういうふうにして、現世代のものごとの決定の仕方に、
新しいものさしを一本増やすという意味合いがあるのではないかと思い
ます。

もっとも笹山さんは、公共信託の考え方を環境権に取り入れれば、自然
や将来世代の権利をみとめるのと実質的に同じ効果があると考えておら
れるようです。その場合でも、「私権の制限など、憲法上の他の基本権
と相克する部分をどうするかが、課題としてある」ということになって
しまうわけですが。

ということで、これからこういう課題についてどんなふうに広く対話が
交わされ、どんなふうにそれぞれの価値観が変わっていくかにその将来
はかかっているということになるのでしょうね。

   須賀 丈




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