[BlueSky:06118] 遺伝子と選別教育


[From] "IWAO, Keisuke" [Date] Fri, 17 Sep 2004 13:06:57 +0900

みなさん、こんにちは。
いわおです。

しばらくROMしておりましたが、
葛貫さんの引用されたこれ↓に反応しました。

Y.kuzunukiさんが[BlueSky:06113]に書きました:
>『人格』より『人材』づくり ヒトゲノムで選別も?
>http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040729/mng_____tokuho__000.shtml
>*********
>・・・・・・前略
>二〇〇〇年に教基法「改正」の答申をした首相の私的諮問機関、 
>教育改革国民会議の江崎玲於奈座長は同年、ジャーナリスト斎藤貴
>男氏のインタビューにこう答えた。
>
> 「遺伝情報が解析され、持って生まれた能力がわかる時代になっ
>てきました。(中略)いずれは就学時に遺伝子検査を行い、それぞ
>れの子どもの遺伝情報に見合った教育をしていく形になっていきま
>すよ」(『機会不平等』文春文庫)後略・・・・・
>********

元記事を見ると、上記江崎氏や宇宙飛行士の毛利衛氏その他、
こういう事を言っている著名人がどうも増えているようです。

もちろん、それは差別ではないか、優生思想の復権ではないか、
という批判が出るのですが、
それよりも私が怖いと思うのは、

 ヒトの知的優秀さが遺伝子で決まっていて、
 本人の努力ではどうにもならないものがある、

ということが、もう当然のことのように信じられ始めている、
ということです。ノーベル賞を受賞した科学者ですら! 
自分は優秀な遺伝子の持ち主であると信じているのでしょうかね。

ゲノムプロジェクトによって
遺伝子のいろいろなことがわかってきてはいますが、
知能を向上させる遺伝子などみつかっていません。
むろん、
「まだ」見つかっていないだけでいずれ必ず発見されるだろうと
信じる科学者(とくに物理系)は多いのかも知れません。
しかし、私はそんなものは存在しないと確信しています。
知能のようなものに「関係」する遺伝子はあるとしても、
それがあるだけで天才になれる遺伝子などというものはまずないでしょう。

まだよくわかっていないことになぜそれだけ確信がもてるのか、
自分でも少々不思議なのですが、
遺伝子がそれを持つ個体の「おもて」にどのように現れるかを考えると、
はっきりわかる気がするのです。
遺伝子は、タンパク質を合成する指示書にすぎません。
それがその生物の「おもて」に影響を与える過程には、
ものすごくたくさんの環境要因が入り込みます。
その生物がどんな性質を持つかは、

 遺伝子と環境の相互作用の産物

であり、
遺伝子の効果だけでほとんど決まってしまう性質もあれば、
環境の効果が圧倒的に大きくて遺伝子の効果などほとんど問題に
ならない性質もあります。
知的優秀さなどという性質は、後者である可能性が非常に高いと思えます。

そもそも、知的優秀さってなんなのか?知能とは?
なにがどうならそうなるのか?
まだわかっていないということではなく、
さんざん議論され研究されてきたのに手がかりすらないこの性質が、
遺伝子の効果をダイレクトに受けている可能性はゼロだと断言していいと思います。

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うまく説明できているか自信がありませんが、長くなるのでここでおきます。
それにしても、教育改革がこうした人々の手にゆだねられているというのは
まったく空恐ろしいことです。


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巖 圭介(いわおけいすけ)
桃山学院大学社会学部
iwao@andrew.ac.jp
http://www.andrew.ac.jp/sociology/teachers/iwao/


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