[BlueSky: 5872] Re:5867 農薬などの河川への流出について


[From] "Yamaguchi" [Date] Sat, 6 Mar 2004 08:04:48 +0900

葛貫さん、おはようございます。

> 沖縄の沿岸域の水生生物に農業が与える影響というと、今迄、目に
> してきたのは、赤土流入問題に関する文献がほとんどでした。

そうなんです。赤土と一緒に流れている(はずの)肥料や農薬について
誰も調べていない、というのがすごいですね。もっとも赤土問題でさえ
1980年代後半までは取り上げて問題視することが行政上のタブーに
なっていました。農地改良(土木)事業が圧倒的に重要視されていた
からです。沿岸養殖や小型定置網漁業などに赤土被害として顕在化
していたのにもかかわらず、漁民の声は押さえられていました。
皮肉なことに、オニヒトデの食害で壊滅的になっていたサンゴ群集が
赤土流出とリンクされてマスコミがあおりたて、その結果赤土条例が
誕生しました。

> フガシティモデルについては、「本田財団レポート No.100
> エコ・ケミストリー 環境保全と化学物質利用の調和に向けて」
> http://wwwsoc.nii.ac.jp/hf/pdf/hofrep100_j.pdf
> に概説されていました。

1980年代からDDTなど生物濃縮されるタイプの(水溶性が低く、
環境残留性が高い安定な)化学物質が使われなくなってから、
環境流出、つまり水溶性が高く自然環境でより早く分解・消失
する(はずの)物質群と交替しました。上のメッセージは過去の
問題を総括したものであって、この交替によって起こっている
現実にはほとんど役に立たないものでしょう。最近の問題は
ひき逃げ事件みたいなものではないか、つまり沿岸生物が
影響を受けるのは一過性であり、事件が起こっても犯人は現場に
いないのでわからないという姿をしていると感じています。

化学物質の流出の影響があっても、それによって影響を受ける
のは生物群や種による大きな差異があります。例えばMEPの
急性毒性データを参照してください。
http://w-chemdb.nies.go.jp/n_oyaku/n_d.asp?n_d=1&n_d1=%93%C5%90%AB

干潟などでは澪筋という、流出河川や間隙水が樹状に流れる水路が
できますが、このような場所に流出の影響が集中すると思われます。
そして、そのような場所に潮間帯生物の重要な構成員が集中して
いるし、貝類などの稚仔が時期的に集中分布します。陸上の生物活動
と沿岸生物の活動が温度の影響で似たようなサイクルを持っているので
殺虫・除草などの農作業の時期に海でも繁殖活動が高まります。

死亡につながらなくても、化学信号などを介して繁殖行動などに影響を
与えるかもしれませんし、流出土壌に吸着された物質が淡水と海水に
交互にさらされて吸着平衡がどうなるか(じわじわでてくる?)など
懸念されることは多々ありますが、誰も気にしていなかったらしく、
情報がみつかりません。(勉強不足かもしれませんが)

> 最近、「一般的に水質は海水が流動的であるために短い時間スケー
> ルの変動を示すのに対し,底質は堆積物の流動性が極めて小さいた
> めに,その海域の平均的・累積的な性状を示すことが知られている。
> 底質の性状を明らかにすることにより,その海域の過去から現在に
> 至る平均的な漁場環境を評価することができる。」というような
> コメントをみかけました。
>
> どこか適当な(撹乱の少ない)場所を見つけて、底泥をボーリング
> して層別に分析することで、流入した土に吸着している農薬濃度の
> 経年変化のようなものを見るということもできないでしょうか。

現在のように、多種多様な化学物質が沿岸海域に放出されている
状態で、それらの相乗作用などもわかっていない時に、個々の物質
の影響を実験室で簡単なテストだけで調べられた結果をもとに想像
しても結局わからないままになるのではないかと思います。そこで
現場での生物群集の応答を詳しく観察することが大切でしょう。

環境残留性の高い物質の影響を調べるならば、おっしゃるように
地層調査みたいなことも意味があるでしょうが、すでに使われて
いない、過去の物質を気にするよりも、現在使われているものの
影響をしっかり調べるべきですね。もちろん過去の物質群もまだ
残留していますので無視はできません。専門家も含め、多くの
人々が過去の問題のイメージで化学物質の環境問題をとらえて
いるようです。赤土のように目に見えるときはわかりやすいのですが
じわじわと周囲の生物群集がおかしくなって行くような現象には
なかなか関心が向けられません。

砂浜に貝殻が打ち上げられなくなり、潮干狩りの人たちの姿が
消え、見慣れていた生物が少しずつ減っては消えるなどを目の
前にしてきましたので、その背景で何が起こっているのか解明
しなければならないと考えています。

山口正士
903-0213 沖縄県中頭郡西原町千原1
琉球大学理学部海洋自然科学科








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