[BlueSky: 5867] 農薬などの河川への流出について


[From] "Yamaguchi" [Date] Fri, 5 Mar 2004 08:23:02 +0900

MLの皆さん

卒論生の一人をたきつけて干潟生物の予備的な調査を行いました。
沖縄本島北部で環境負荷となるものの流出が少ないだろうと思われる場所と
南部で河川流域にサトウキビ畑と人家が密集している場所の地先です。
両方で春と夏の二回、方形枠内の砂から底生動物をふるいだしました。

その結果、二箇所の砂質干潟では多毛類は似たような出現状態でした。
目だった差異は、南部で甲殻類が極めて乏しく、特にアミ類が少ないこと
でした。二枚貝類にも若干の差があり、南部では優先種となるべき種類が
1種出ませんでした(二枚貝は変動が激しいので良い指標にはなりにくい)。

サトウキビ畑で使われている主な農薬は、MEPとDCMUだそうです。
アミ類の薬剤耐性については、アメリカでは盛んに調べられている
ようですが、日本では沿岸環境を気にしていないのでしょうか、まるで
やっていませんね。魚類など水産資源の幼稚仔を干潟で養っている
重要な餌生物の一グループなのですが。それはともかく、小型甲殻類
に対するMEPの素晴らしい急性毒性データを見ていると、これが怪しい
かもしれないと疑いたくなります。

MEPは30mg/L程度の水溶性があるというデータを見ました。もしも
雨に洗われて畑からこの飽和濃度で干潟などに流出したら甲殻類は
いちころですが、実際にはどのくらいの濃度で出てくる可能性が
あるのか、想像してもなかなか難しく、手がかりが弱くて論議できない
ままです。実際にはいったい何桁くらい濃度が落ちるのでしょうか。
日本でそのような研究は、されている、わけないですかね。

沖縄では農薬を施す時期に雨が降りやすいという傾向がある
ようです。農地改良事業といって、機械化できるような大規模な
畑の区画に作り直して、肥料と薬剤を(多分)より多く使い出した
頃が1980年代後半でしたが、その頃から南部の干潟で貝類が
消えて、砂干潟では潮干狩りもできなくなりました。ここで貝類の
分布調査を毎年の学生実習として繰り返しやっていたのでしたが、
貝類の消滅で場所を移す必要に迫られました。同じように貝類が
消えた干潟が中部にもありました。後の祭りですが、甲殻類の
分布調査はまったくやっていなかったのが残念でした。

ただし、この干潟で行われていた小型定置網の(維持)操業が
中止された時期も大体一致しています。魚やカニなども減って
しまったのでしょうか。

本島内で、サトウキビ畑を流域に持っている河口の砂浜では
貝類と甲殻類の出現が非常に乏しいことは、定性的にですが
数箇所で見ています。外海に面していて、海水による希釈が
大きいだろうから、流出しているかもしれない農薬の影響は
少ないだろうと昔は思っていましたが、だんだんと疑念が強く
なっています。

スポンサーもなく、研究費もなしで自腹を切りながらの調査です。
現場の海水に含まれる化学物質の濃度を測定するようなことも
今の段階ではまかなえないので、状況証拠をまず集めている
わけです。来年度はこの問題をやりたい学生もいませんので
当分棚上げです。

MLの皆さんから、何かコメントをいただければ、特に海辺に
流れ出る農薬の濃度について思考実験を一緒にやってもらえ
ないかなと期待しています。今一番やってみたいのは現場に
指標となりそうな生物を怪しい時期においてみたらどうなるか
を見る現場のバイオアッセイです。

山口正士
903-0213 沖縄県中頭郡西原町千原1
琉球大学理学部海洋自然科学科


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