[BlueSky: 5705] Re:5703 個人と社会


[From] "suka" [Date] Tue, 27 Jan 2004 12:51:24 +0900

荻野さん ゲンゴロウさん みなさん
                       須賀です。

荻野さん:
>  [5701]で須賀さんが書かれた国立公園のレンジャー氏の場合、
> その個人が直接問題に対峙するというより、
> 問題に取り組んでいることになっている組織の一員として
> 組織の仕事を処理する、という形になっているのでは。
>  個人で問題に対処しようとすれば、組織を辞めて、
> そこの住人になって自主的にパトロールをするとか?

なるほど。そうすればひとつの筋の通った生き方になりますね。

ただ、それだけだと、一方では次のような問題が残ってしまいます。
国立公園の管理(公園計画及び公園事業)をおこなうのは国(環境省)
であると自然公園法で定められています。その管理主体の職員として
現場に精通したレンジャーが必要なだけ配置されるシステムになって
いないという現実です。

国立公園を例にあげたので、国だけを槍玉にあげるような格好に
なってしまいましたが、国定公園や都道府県立公園に広げて考えれば
同じ問題を都道府県もやはりかかえているということになります。
(「国定公園に関する公園事業は、都道府県が執行する。」と
 自然公園法に書かれています。)

長野県には自然保護レンジャーという制度があります。これは、自然
公園などのパトロールをボランティアのみなさんに委託しているものです。
ただし、法制上の権限などをあたえられているわけではありませんので、
(そのおひとりおひとりのご意思はすばらしいものですし、意味のない制度
だとは思いませんが)制度として中途半端な感じがすることは否めません。

荻野さん:
>  たぶん、問題に個人が直接取り組む。
> 最終的な現場の裁量権をその個人に与える、ということが
> 大きな意味を持つ・・ような気が・・しますが・・・

国立公園、国定公園など法律で定められた自然公園の場合、ちょっと
文脈がずれてしまうかもしれませんが、こうした制度の枠のなかで
考える場合にも、現場をよく知るひとたちに大きな裁量権をあたえる
というのは大事なことだとわたしも思います。

前のメールでご紹介した加藤則芳『日本の国立公園』(平凡社新書、
2000年)には、米国と日本とでは国立公園の制度的な枠組みが
大きくちがうことを断ったうえでですが、次のような記述がなされて
います。

“アメリカでは、国立公園局という独立した組織が内務省の中にある。
環境行政一般を司る環境庁とは別組織だ。彼らには強大な権限と
人と予算がある。日本の環境庁にはそのどれもがない。”

“ちなみに、現在、国立公園二八に対してレンジャーの数は二○五人
(平成一二年)。たとえばアメリカの、ヨセミテ国立公園一つだけで
四○○人という、充実した体制と比べるのも、ばかばかしくむなしい。”

“大雪山や尾瀬を重点的に守れというと、他の国立公園との関係が
あって、そう簡単にはいかないのだ、と関係者たちはいう。が、まち
がった固定観念だと思う。制約の中でもできることを探ればやりかた
はある。手遅れになれば、後悔する。
 日本の国立公園は、質の差が大きい。ピンからキリまである。ひど
い質の国立公園に遠慮して、すぐれた国立公園の質を低下させる
のは、まちがっている。個々での対応を検討すべきなのだ。”

そういえば、昨年の4月におとずれた中米コスタリカのグアナカステ
国立公園(住民参加型の運営体制や地元の生徒たちへの野外学習
プログラムの提供など先進的な試みで世界的に注目されている)でも、
管理運営の権限を現場にどれだけ移せるかをめぐって中央政府との
あいだに熾烈な対立を経験したという話をききました。

……もっとも、地球温暖化の生物多様性への影響を予測した例の
ネイチャーの論文によると、こうした地域指定型の保全対策が
温暖化による気候変動の影響でダメになってしまう可能性が
あるということですので、別の頭のいたい問題に今後なってくるかも
しれないのですが。↓
http://www.nature.com/nature/links/040108/040108-1.html
http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20040114303.html

(そうはいっても、そうした保護区が周囲の別の場所から移動してくる
種の逃げ場所になる可能性もあるので、まったく無意味ということには
ならないと思いますけれど。)

ゲンゴロウさん:
> 研究者は、HPを持って、どんどんと自分の研究結果を発表しないと
> いけませんよね。で、その時、学術研究者用と、一般者向けの、二つ
> のHPを作って下さらないと、いけない。という法律を作ってほしい。

この点では、今のところわたしはまったく失格ですね。
近い将来、改善に着手したいと思います。

ゲンゴロウさん:
> ただ、、、演奏者だけでなく、演奏を愛する人々が存在するのも
> 一つの方法なのでしょう。。聴衆が、Symphony(環境)を愛する。

そうですね。この点を見失わないようにしたいと思います。

それではまた。

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 須賀 丈(すかたけし)
 長野県自然保護研究所
 電話: (026)239-1031
 Fax: (026)239-2929




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