[BlueSky: 5678] 個人と社会


[From] "suka" [Date] Wed, 21 Jan 2004 20:15:38 +0900

ゲンゴロウさん 荻野さん 葛貫さん みなさん

   須賀です。

しばらくメールサーバが故障していました。ウィルスを防ぐためのファイアー
ウォールがおかしいらしいというので、雪の下からスコップでこの煉瓦の壁
を掘り出してみたらひび割れができていて、そのすきまにてんとう虫が冬眠
するためにぎっしりつまっていました。それを割り箸でつまみだしたら八百
八十八匹もいました。

などというくだらない冗句はともかく、ゲンゴロウさん、荻野さん、そして葛貫
さんのメールをよませていただいていたら、社会と個人について思っている
ことを書いてみたくなりました。

たとえば地球環境問題や平和のような「大きな」ことについてだれかが語る
のをきくと、個人的で具体的なことが置き去りにされるように感じられること
があります(わたしもその置き去りをしょっちゅうしていそうです)。このことは
このメーリングリストでもくりかえし話題の水面下に(あるいは雪の下の煉瓦
のすきまに?)みえかくれしつづけているようにわたしは感じています。そして
このテーマは個人と集団、個人と組織といったテーマにかたちをかえてあら
われることも多いようにみえます。

さて、それでは、そうした(冬眠しているてんとう虫のように)個人的で具体的
で「小さな」ことは、(組織・集団・国際社会・地球温暖化などといった)「大きな」
ことと、どこまでも対立しつづけるほかはないのでしょうか。あるいは、そうした
「大きな」ことにかかわる場合に、どのように考えれば「小さな」こととのあいだ
にあるすきまを埋めることができるのでしょうか。

簡単に答えを出せるテーマではなさそうですが、このテーマを個人と社会
という土俵に置いてみるとき、環境教育・環境学習についての考え方の
なかに、わたしにとってはひとつのヒントとして感じられる考え方があるのを
思い出します。

“……環境問題の解決にとって、個人が育つことはもちろん重要なことで
ある。しかし環境問題の解決は、個人と個人が協力しあえる社会的関係
を集団が持つことによってはじめて可能になる。個人の能力育成も、個人
が問題解決に寄与することができる集団的な仕組みがあってはじめて意味
をもつ(陸、2001)。
 集団としての問題解決力を高めるためには、集団を構成する個人の力を
高める必要がある。その際に、環境教育では、さまざまな個人の力の中で、
集団としての力にうまく寄与するような個人の力に特に注目する。”(出典1)

“欧米の社会においては、個人が個々の状況に応じて「環境に責任のある
行動」をとるということの中には、社会的な対立を乗り越えて合意を形成し、
対策を立てて問題を解決することまで含んでいるのかもしれない。しかし、
現在の日本においては、個人の責任に言及しただけでは、社会的な問題
解決までは含まれないのではないだろうか。”(出典2)

実は、どちらもわたしの勤務先の同僚の環境学習担当者が書いた文章の
一部です。わたしは環境学習という分野でその専門の方々が論じておられる
ことをよく知っているわけではありません。ですから、この文章に書かれて
いることがどのくらい独創的な、あるいは逆に一般的な考え方なのかも
わかりません。身内の文章を引用したので、宣伝と受け取られるかもしれま
せんが、実際にはわたし自身がこの分野についてあまりくわしくなく、たまたま
身近なものが目にとまったというだけのことですので、他意はありません。

この文章の趣旨がわたしにとって新鮮なのは、個人と集団というものを単に
対立するだけのものとしてとらえるのではなく、集団に寄与する個人の力を
高めることによって社会の問題解決力を高めるというかたちで、両者をつなぐ
すじみちを示そうとしている点にあります。

みなさんなら、このような考え方についてどんなふうに思われるでしょうか。

そういえば、何日か前の朝日新聞のサイトのニュースで、フランスの科学者
5千人が任期制を全面的に導入するという政府の「改革案」に抗議して辞任
表明したという出来事が報じられました。このままいくとフランスの科学研究
は(他国への頭脳流出をまねき)マヒ状態におちいるおそれがあるとか。
かの国の知識人がもつ「個人と社会」についての意識のあり方を鮮やかに
示してくれたという意味で、わたしにとっては印象にのこるニュースでした。

それではまた。

(出典)
1.陸 斉. 2001. 環境学習プログラム編みなおしのための提案. 長野県
   自然保護研究所紀要. 4:1-10.
2.陸 斉. 2001. わが国の環境学習の現状と課題. 長野県自然保護研究
   所紀要. 4, 別冊5:5-17.

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 須賀 丈(すかたけし)
 長野県自然保護研究所
 電話: (026)239-1031
 Fax: (026)239-2929




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