青空メーリングリストのみなさん
須賀です。
きのう、このような論文が発表されたらしいということをお知らせ
しました。
[BlueSky: 5652] 須賀:
> 地球の温暖化をともなう気候変動がすすむと、その影響で
> 今後50年間に生物種の大規模な絶滅が起こる可能性がある
> という論文が、1月8日づけのイギリスの科学誌ネイチャーに
> 発表されたそうです。
この論文の本文はまだ手元にありませんので、その内容について
論評することはさしひかえたいと思います(本文をよんだところで、
論評できるだけの知識がわたしにあるかどうかもわかりませんし)。
ただ、以前このメーリングリストで地球温暖化や生物の絶滅など
が話題になったとき、一般論だけではなかなかぴんとこないという
趣旨のご意見をうかがったことがあったのを思い出しました。そこで
この研究になぜわたしが関心をもったかについて少しお話します。
信州は高原や山の自然でよく知られています。こうした場所の動植物
のなかには、氷河期のように日本列島がまだ大陸とつながっていた
寒い時期にゆっくりと大陸から日本へと生活の場所をひろげ、その後、
氷河期がおわって気候がしだいに暖かくなるとともにこのような標高の
高い場所にとりのこされ、独自の進化をとげてきたものが少なくないと
考えられます。わたしがイメージしているのは、高山植物、高山蝶、
ライチョウなどです。
上のネイチャーの論文の対象地域には、日本はふくまれていないよう
ですが、地球温暖化による気候変動は(場所によってその度合いは
異なるものの)世界全体におよぶと考えられますから、信州の生物も
同じ原因で絶滅する危険があるということになります。特に高山の
生物は、もともと生息している面積がせまく、温暖化がすすんだときの
逃げ場所がありませんから、その影響をもろにうけることになるはず
です。
このような理由もあって、わたしは以前から地球温暖化による生物
への影響に関心をもってきました。このテーマの本として、すでに
次のものがあります。
堂本暁子・岩槻邦夫編『温暖化に追われる生き物たち:生物多様性
からの視点』(築地書館、1997年)
(余談ですが、編者のひとり堂本さんは今の千葉県知事ですね。)
しかし上のネイチャーの論文は、地球温暖化による生態系への影響
を予測したものとしてはこれまでになく本格的で大規模なもののよう
です。
コンピュータによる予測ですから、当然、モデル化にともなう単純化
などいろいろ不完全なところはあるでしょうし、その妥当性について
も議論されてしかるべきだろうと思います。けれども同時に、このよう
なアプローチによって、地球規模の環境変動がどのようなかたちで
地域の環境にダメージをもたらすのかについてこれまでよりも予想を
たてやすくなるという利点もあります。このように、グローバルな問題
がどのようなかたちでローカルな問題としてあらわれてくるかを想像
させてくれる点に、わたしにとってはこのような研究の価値があります。
予測は予測であって、このような不完全な情報で京都議定書のような
重大な政治的決定をすすめることに対する批判も当然あるでしょう。
どんなに科学が発展したところで未来を確実に知ることはできません。
それでも何らかの選択を日々していかなければいけない。
当然のことでもありますが、ちょっとなやましいところでもありますね。
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須賀 丈(すかたけし)
長野県自然保護研究所
電話: (026)239-1031
Fax: (026)239-2929
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