[BlueSky: 562] Re:560 集団生物とことば


[From] Minato Nakazawa [Date] Mon, 23 Aug 1999 19:25:55 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 560] 集団生物とことば Re:343, 371,413に於て)
Mon, 23 Aug 1999 18:46:08 +0900頃,SUKAさん:
> ***(生物学に特に興味があるひとのための余談)***
> Moritz & Southwick (1992)Bees as superorganisms.という本
> によると、1928年にWheelerがsuperorganismということばを使
> っているそうです。日本では今西錦司が『人間以前の社会』(1951)
さらに余談ですが,人類学では,superorganismといえば,
クローバーが1917年に書いた論文で提唱された概念で,
「超有機体」と訳されます。

当時の人類学界では,社会進化論が主流を占めていて,
生物進化の法則が同時に社会をも支配しているのだという
アナロジーが当然視されていましたが,クローバーの
超有機体論は,これに反対するもので,
「文化は生命現象とはレベルを異にする自律的,閉鎖的な
現象,したがって超有機体的現象であって,個々の人間の
パースナリティの偶有性は超有機界自体の偉大な力のまえ
ではほとんど無意味な存在と化する」という主旨のものだ
そうです。
(出典:松園万亀雄「クローバーの理論」,蒲生正男[編]
『現代文化人類学のエッセンス』ペリカン社, 1978年)

クローバーは,女性のスカート丈の変化を例に挙げ,ロング
の流行50年の後にはショートの流行50年が続き,およそ100年
で一周期を終えるように見えることから,個々の人間の意図
とは無関係に,文化現象のレベルでの規則的な運動,つまり
超有機体としての文化が存在すると論じています。
クローバーの意味でのsuperorganismは,げんごろうさんの
いう集団生物とか精神生物に近いですね。

ちなみに,クローバーの見解は,当時の学界から極度の異端
とみなされたために,考え方そのものだけが批判の的になって
しまい,論理としての正否は十分な議論をされたことがない
そうです。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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