[BlueSky: 5504] ReBlueSky:5273] Re:5267 「針葉樹人工林」が悪いのではなくて、その「管理手入れ不適切」が問題


[From] "佐藤仁志" [Date] Thu, 30 Oct 2003 20:06:26 +0900

弥富の佐藤です

別便で投稿したように明日31日に名古屋でシンポをします



8月2日のゲンゴロウさんへの回答が遅くなったことをお詫びします

遅くなった理由は、私が教授のご高齢に遠慮して、

教授への転送を留めておいたのが原因です

(教授はメンバーではないので)

昨日、教授がインターネットの検索で8月2日の投稿を発見され

http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/mllogs/bluesky/5273.html

教授のほうから

以下のようにまとめたので、代わりに投稿してくださいと送っていただきました。



私としては

最近、別の自然系のメーリングリストで議論が堂々巡りをしているのを見ていて

やっぱり、顔をあわさずに議論するのはよくないなー

現場で、じっくり観るのがいいよなー、と思い始めています

答えは現場にある、っていうじゃないですか





ゲンゴロウさんの発言の主旨は、

木質バイオマスエネルギー利用ネットワークでも

かなり議論になり、イイ刺激になったと

感謝しております



長い文ですが、とてもいい読み物になっています



この件に関して、関心を持たれた方は

よろしければ直接ご連絡いただければ幸いです

見学地なり大学なり、可能な限りナビゲートさせていただきます



佐藤仁志

imowoarausaru@yahoo.co.jp

http://mypage.odn.ne.jp/home/isewan

 

〜〜〜ここから只木教授からの返答です〜〜〜〜〜〜〜



ゲンゴロウさん ある人が相手に説明した場合、納得しない者がいる原因は、説明者が間
違って可能性もあるのではないですか? あるいは、説明のしかたが悪い可能性もあると
思います。その可能性を考えずに、相手(私)の考え方を「固定した思い入れ」と決めつ
ける考えは、短絡過ぎるように私は思います。

-----わたしの説明の仕方が悪いのでしょう。でも今まで大抵の人は判ってくれましたの
で、ゲンゴロウさんは「固定した思い入れ」が強いと感じてしまいました。



ゲンゴロウさん ○教授からすると、「源五郎は針葉樹嫌い」になっているようですが、
私、知識はなくとも、この話の内容が好き嫌いの話ではないのは承知しているつもりで
す。

○私は、「今、植えられている針葉樹人工林はもう放置せよ!」とは考えていません。
「針葉樹人工林の放置は、放置されてしまう状況が、問題の中にあるのでは?」と仮定
し、疑問をもって考えています。○そして、私が疑問を持つ原因は、私が「放置」を重く
受け取っているからです。「放置していい」とは意味が違います。○もう一つ、私は「人
工林はダメ」と言っているのではなく、「針葉樹の人工樹林がダメなのではないか」と
言っております。

-----了解。ただし、問題は「放置されてきた」ことなのです。まだ間に合うものは救い
たいのです。また、人工林は管理が前提です。これは針葉樹でも広葉樹でも同じです。



ゲンゴロウさん 教授は上で ”当方は、「広葉樹天然林はだめ」とか「針葉樹人工林万
能」と言っているのではありません。”とおっしゃってますが、その、教授ご自身がおっ
しゃっていることが条件です。なぜ、私がこれを「条件」と厳しく言うかといいますと、
教授の主張が、教授の意に反して、他者に違って伝わるからです。教授がこの前置きを抜
いて、”「針葉樹人工林」が悪いのではなくて、その「管理手入れ不適切」が問題”と言
うのであれば、それは、まるで、「針葉樹で大丈夫、十分だ!」と、他者に取られかねな
いからです。

-----「管理手入れが十分ならば」針葉樹人工林でも大丈夫とわたしは思っています。た
だしこれは広葉樹林を否定しているものではありません。不人気の針葉樹人工林は擁護し
てやります。



ゲンゴロウさん 「広葉樹人工林への移行」と同時並行で、「針葉樹林の管理・手入れ」
で、というご意見ならば、私にはまったく異論はありません。

-------わたしは、繰り返しそう申し上げているつもりですが。



ゲンゴロウさん 「責務者」について、教授は「林業は山の持ち主として国土を守り、公
共へ環境を提供する責務を負っています。」とありますが、なんか妙な感じを受けます。

-------山の所有者としての責任です。環境提供、土地保全など土地所有者としての責務
は多いと思います。市街住宅地の土地所有者でも、庭の大木が近隣の人々に憩いの場所を
与えるとか、自分の敷地から火事や騒音・悪臭を出さない責務があるのと同じことです。



ゲンゴロウさん 「放置」の考え方ですが、「放置」は、必然的に結果として起きている
のではないですか?どうしようもないから起きているのに、それが問題であると、問題に
するのは、それこそ問題を放置することになりませんか?

------「放置、すなわち過去人工林に適切な管理ができなかったこと」その反省の下に、
緊急に処置していこうということ、まだ間に合う(それが大半)から。なお、わたしは人工
林の「管理・手入れ」を軽く考え、「管理・手入れをすれば大丈夫」などとは考えていま
せん。人工林の管理は大変なことです。これは、針葉樹人工林、広葉樹人工林の別はあり
ません。



ゲンゴロウさん 教授は、「現在の針葉樹人工林の管理・手入れ」について、どうお考え
なのでしょうか。

------先にも言ったとおり、まだ間に合うものが大半ですから、積極的間伐の推進。上木
の健全化とともに、下層植生の導入、これで水土保全力を増しながら、明るくなった林内
に進入してくる広葉樹を育成して、針葉樹・広葉樹混交林化をはかる。必要経費は、現状
では個人所有者に賄いきれないから、「環境保全用」としての公的補助金を投入せざるを
得ない。過去の「管理不十分」は、林業という産業を中心にしていた時の流れで「個人財
産のために公的補助金は出せない」と言う財政当局の見解のために間伐補助金等がなかな
か認められなかったことにも依ります。今後は「環境用」の視点が強化されます。針葉樹
人工林間伐推進の動きは、全国あちこちで進行中です。N県では土木作業員を森林作業員
に切り替えることもやっています。



ゲンゴロウさん 私は「管理・手入れ」それに限界があるから「管理・手入れ」がされて
いないのだと考えます。それで、「管理・手入れしなければ立ち行かない針葉樹人工林
は、ダメなのではないか?」と考えています。そして、その考えから、教授の「管理・手
入れ不適切が問題」という発言は、強調して言えば、「遅い!甘い!逆行している!」な
どと感じてしまいます。

-------「管理・手入れしなければ立ち行かない針葉樹人工林は、ダメなのではないか
?」 繰り返すようですが、人工林(針・広とも)には管理手入れが必要です。「管理・手
入れ不適切が問題」なのではなくて「管理・手入れが過去不適切であったことが問題」、
あるいは「管理・手入れが適切に行えなかったことが問題」なのです。



ゲンゴロウさん 「管理・手入れ」が出来ないから「管理・手入れ」されていない時、解
決すべき問題は、「管理・手入れの仕組み作り」より以前に、他の道の模索であるかもし
れず、その時点で、「管理・手入れをすれば大丈夫」は、他の道の模索を阻むことにもな
りかねず、大変にまずいのではないですか。

------管理手入れが遅れたから、今積極的に取りかかろうと全国的に動き出しています。
「他の途」とは「広葉樹に植え替える」ことですか? これはまず無理。それではなく手、
針葉樹・広葉樹混交林化をはかるのは全国的な動き、その前提手段として、現在の針葉樹
人工林の間伐なのです。



ゲンゴロウさん 先輩の指導の元、一生懸命に立たせようとしたが、結果として倒れてい
る櫓(やぐら)があるとします。

------倒れたら立て直さないといけません。それは再造林(針でも広でも)・治山造林で
しょう。しかし、倒れかけている櫓には手当が必要です。立て直すなら立てなおし、補修
できるなら補修です。人が作ったものは、常にメンテナンスが必要です。創建1400年の法
隆寺でも常に補修の手が入っていることはご承知の通りです。



ゲンゴロウさん ところで、お聞きしたいことがあります。もし、ほとんど管理・手入れ
されないのならば、広葉樹人工樹林と針葉樹人工樹林とどちらがいいのか?です。あるい
は、広葉樹人工樹林と針葉樹人工樹林のどちらが管理・手入れしやすいか?です。

------管理手入れしなければ、どちらも駄目です。管理手入れのしやすさは、作ろうとす
る林の型によるでしょう。単純な林ならば、それは針葉樹林です。



ゲンゴロウさん 肝心なこととは、「日本の林業が衰退するということを念頭に入れ

なかった。未来予測の失敗だった」ということではないですか。・・・その肝心なことを
言わないので、次の段階に大きく前進できないのではないでしょうか。・・・そして、山
は放置し続けられる。もっと言ってしまえば、「放置」こそ、失敗の中から生まれてし
まったことなのではないでしょうか。

------その通り。昭和50年代から指摘されてきたことです。当時は、間伐の遅れを憂慮し
間伐を奨めるのは先見的意見でしたが、手当不十分のまま今日に至りました。げんざい、
情勢は変わりつつあります。「適切な管理・手入れ」は、今、ますます緊急に必要なので




ゲンゴロウさん 私が、考える策は、結果的に広葉樹林に植え替える方向に向く。・・・
その育った針葉樹を伐採し、それなりの木材にし、売却し、いかばかりでも、その金で、
植林をする。少しずつ。もちろん、植林する木は広葉樹にする。なぜなら、広葉樹林の方
が針葉樹林よりも管理・手入れの手間がかからないと思うからです。

-----広葉樹林への植え替えは、とても労力的・金銭的にできない相談。前述の間伐-広葉
樹導入が現実的。なお、広葉樹林でも人工植栽林は手間はかかるものです。



------以下、貴文書に対して同様の回答の繰り返しが続くようです。まとめて、わたしの
論点と、現在全国的に動きつつある方向とを再録します。

 昭和30-40年代の大造林(拡大造林)時代、造林地は将来ずっと「適切に管理」されるこ
とが前提でした。それが高度成長時代の流れで、山村労働力不足、国内林業低迷。「管理
されないまま」に置かれました。それを今からでも修復しようと言うのが、現代の考え方
です。先輩たちが生んだ森林を、現代人が育てるのです。「植えすぎた」認識は誰もが
持っています。失敗箇所も多いのは事実ですが、まだ全面失敗とは言えません。大半は修
復可能なのです。針葉樹・広葉樹の問題ではなく、まずは森林の維持なのです。同時に広
葉樹林化なのです。

 1000万ha の人工林を 広葉樹天然林にすぐ切り替えることはできません。それにはより
多額の税金をつぎ込むことになり、これだけの面積を一斉に切り替えるのは非常に危険な
ことです。また、未来永劫人工林なんてことは、誰も言った人はなく、現在批判の対象で
ある「植え過ぎ」「モノカルチャーの弊害」を是正するように動いています。森林のこと
ですから、急激な変化は避けねばなりません。徐々に時間をかけて間伐を繰り返しながら
広葉樹林化する計画は全国で進んでいます。なにも間伐や枝打ちだけが「管理」ではない
のです。森林管理とは「森林健全化の手段」すべてです。しかし、いずれにせよ、目下
もっとも急いで必要なのは大多数の人工林の間伐による健全化です。これは広葉樹林化す
るにも、まず必要なことです。広葉樹林に戻せば自然になるとおっしゃいますが、それに
はそれで手を加えることが必要です。



ゲンゴロウさん この先、日本の針葉樹が利用されるのでしょうか。

------見通しは難しいことですが、国産針葉樹材は利用される時代が来るはず、またそう
でなければならないと言うのが一般論です。その利用推進の動きもあります。使用木材の
80%以上輸入は異常ですし、その一方で、環境資材としての木材利用促進の動きも強く
なっています。これは国産材でないと意味がありませんが、その主役になるべきものは、
やはり針葉樹なのです。



ゲンゴロウさん なぜ、今、現在、広葉樹に植え替えがなされているのでしょうか。その
理由は、管理が比較的、針葉樹よりも安価だからではないのないですか?

------広葉樹に植え替えの例は、そんなに多くないと思います。特殊用途の広葉樹造林は
よくありますが。植樹祭などでは、広葉樹を植える例が多い様です。最近の広葉樹人気ゆ
え。



ゲンゴロウさん 伐採し植林する間の土壌流亡も厳しい。確かに、難しい。これも大問題
ではあります。その方法を教授が考えて下さい!

------簡単です。皆伐(とくに大面積の)を避けることです。



-----「その4@、5@ゲンゴロウ 」では、落葉量の話、森林の葉量の話、蒸散、その他出て
参りました。ゲンゴロウさんは恣意的な数字ではないかお疑いのようですが、わたしを含
む多くの研究者たちが50年以上やってきたことのまとめですので、信用して貰うほかあり
ません。森林の葉量や落葉量の数字は、少なくとも数十、多いものでは数百の森林のデー
タからの結論ですから。実際の森林で木を切って、葉を一枚一枚むしって計ったデータで
す。



ゲンゴロウさん 針葉樹人工樹林ですが、広葉樹へ植林し直すこと、できるのでしょう
か。山の奥は、かなり崩壊がすすんでいます。

-----山崩れ跡などを除き、そこに土壌さえあれば植栽可能です。



ゲンゴロウさん 「放置」「放置されてきた」と、どうも「放置が悪い」と、物事をすり
替えているようにも思える。放置と言うことで、その責任を、所有者になすりつけようと
しているように思える。それを指導、監督し、牽引してきた人の責を隠しているように思
える。崩壊した森林。先輩たちが作ったものは、「植林し、育った木」ではなく、「崩壊
した山」なのではないのか。そして、その崩壊は放置のせいではなく、放置せざるを得な
い状況を造ったことが、最大の原因なのではないのか。放置は原因なのではなく、結果な
のではないのか。

-----管理手入れするのは所有者です。それを指導監督する立場の人も役所もありまし
た。しかし「放置」致し方なし、その責任の所在を追求することができないほど、社会の
急進展開がありました。高度経済成長でした。



ゲンゴロウさん そして、今、「管理・手入れ」と言っている。それは、実は、新しい策
ではなく、失敗の継続なのではないのか。そして、さらに「修理すれば大丈夫」と言って
いる教授も、実は、崩壊した山を造った、その責に長くあった人なのではないのか。これ
から生まれてくる人からみて、林業に近い場所にいて国家から指導を任されていた教授こ
そ、きわめて、その責に近い人ではないのか。「先輩の責」でもあることを、「功労」の
様に言う教授。何か、何もかもが、微妙にずれていないか。言う時も、言う事柄も。。先
輩がいて、後世代。その間に教授はいないのか。それとも、みんなで渡った赤信号なの
か。

私も一緒に渡ったのか。

-----ごもっとも、しかしこの憶測は当たっていません。拡大造林が始まったとき、林業
畠の学者も役人も多くはこれに反対しました。わたしはそのころ、学生から社会へ出た頃
で、拡大造林には体質的に危険を感じていましたが、いろいろ意見を述べられる立場では
ありませんでした。しかし、「もっと木材を」と言う社会の要求と政治の力で拡大造林計
画が進んだのです。年回りから「先輩の責」(「功労」と言った覚えはありません)の後始
末に当たるのが、われわれです。森林相手のことですから、急旋回はできません、拡大造
林の失敗を繰り返さないためです。それに加えて、「環境時代」の現在のです。ゲンゴロ
ウさんにとっては、無価値の失敗作かもしれないが、折角ある程度の段階まで来ている人
工林を、捨ててしまうのはもったいない、手当をしつつ活かして使おうじゃないか。それ
には、まだ今なら間に合う。と言うことなのです。

 「みんなで渡った赤信号なのか。私も一緒に渡ったのか。」よく言ってくれました、そ
の通り。当時、社会情勢がどうであったかを思えば・・・


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