[BlueSky: 529] Re:523 コードンコンウェー教授のモンサント社での役員会でのスピーチの要旨


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 20 Aug 1999 17:57:05 +0900

中澤@東京大学人類生態です。こんにちは。

(件名:[BlueSky: 523] コードンコンウェー教授のモンサント社
での役員会でのスピーチの要旨に於て)
Fri, 20 Aug 1999 12:02:43 +0900頃,yuichiro komiyaさん:
> はなく、冷静に、なにがどう危険なのか、また、倫理的にも
> どういった問題があるのかを議論する必要があるんでしょうね。
これは,大事なことだと思います。
感情的に騒ぐ前に,自分はどうしてそういう感情をもつのか,
と一段掘り下げて考えてみると,議論できる形で,問題が
見えてくると思います。

コンウェイ教授の論全体からすると枝葉末節への
コメントですが,看過できない点があります。

> ている。イネに異なる遺伝子を挿入すると、鉄分の含量を3倍に増やすことができ
> る。世界中で、約20億人が、鉄分の不足から起こる貧血症に悩んでいる。
ここに関しては,注意が必要です。鉄欠乏性貧血の有病割合は,
こんなに高くありません。鉄欠乏以外の原因(葉酸欠乏とか,
タンパク欠乏とか,いろいろあります)による貧血もすべて
ひっくるめても,貧血の有病割合は全人口の1〜6%ですから,
どんなに多めに見積もっても,2億人未満です。
20億人は,どう考えてもおかしいです。

また,植物に含まれる鉄は非ヘム鉄なので,含量が3倍になったと
しても吸収が3倍にはなりません。仮に吸収が良いものを組み換え
で作ったとすると,今度は過剰症が問題になります。
この辺り,詳しくお知りになりたい方は,
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/i0.htm
(とくにi2.htm,i3.htmとi7.htm)をご覧ください。

鉄供給を増やそうとする学者が良く採用する論理に,
鉄を追加供給すると血中ヘモグロビンレベルが上昇することから
潜在的に鉄が不足していたのだ,というのがありますが,一般に
物質Aが律速段階であることを,それが欠乏していると読み変え
るのは,どう考えても拡大解釈です。
低鉄血症適応仮説というのがあって,「感染症の多い地区では,
寄生体が鉄を利用できなくするように人体が適応して,
循環鉄を減らして貯蔵鉄にシフトしているから,見かけ上
鉄欠乏に見える人が多いのだ」,という人もいます。
(Old Dominion UniversityのSusan Kentなど)
それからすると,途上国で,遺伝子組み換えで鉄含有量を
増やした食物を供給するのは,感染症の発症率をあげる
危険すらあります。

> コンウェー氏は、技術の健康に与える影響に関して、監視・公開・討論といった新し
> い取り組みが必要であると述べた。
これには同意しますが,「予測」もつけくわえたいです。

===以下は,やや横道コメントですが。

> あると述べた。発明ではなく、知識について、知的所有権を確保しようとすることは
> 危険である。さらに、発展途上国でこのような技術を評価する場合、科学的な視点に
> 加えて、経済的な視点からも、その影響を研究する必要がある。
アルゴリズムに特許(画像フォーマットのGIF)というのはおかしいと
思っていましたが,塩基配列に特許というのはもっと変だと思います。
というか,知的所有権という思想は,ぼくは嫌いです。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。