[BlueSky: 5267] 「針葉樹人工林」が悪いのではなくて、その「管理手入れ不適切」が問題

[From] "佐藤仁志" [Date] Thu, 31 Jul 2003 20:50:38 +0900

弥富の佐藤です
「虫は虫なりに一つの考え・・・・土石流災害に思う」について参考になればと思
い、只木良也名誉教授と「四万十川源流域・かわうそ通信」　第１６号を許可を得て
転送します

長いのは迷惑だとは解っているのですが針葉樹人工林に対する誤解を解くには
ついつい長くなってしまいました
私自身は林業者ではなく、一介のユーザーの立場ですが
本当に人工林をほっておくと大変なことになってしまうと思うのです

関心の無い方ゴメンナサイ、削除してください

「針葉樹人工林」が悪いのではなくて、その「管理手入れ不適切」が問題

　　---産んだ子は、まともに育てるのが親の責任--　　　　　　　　只木良也

　水土保全と針葉樹林・広葉樹林の関係は、後半の「四万十川源流域・かわうそ通
信」　第１６号中の、有光一登元高知大学教授のコメントが適切です。彼は土壌学者
で、この問題のトップクラスの専門家です。以下は、私の追加コメントです。

　水源かん養能力に優れた森林とは、どんなものでしょうか。森林の水源かん養能力
は、要するに土壌の水浸透能力に基づきますから、簡単にいえば、団粒構造が発達し
た林、正常に落葉があり、その分解がスムーズな、したがって、植物現存量大きく、
低木層も発達し、土壌動物・微生物も豊富な林ということになります。それじゃ落葉
が分解しやすく団粒構造化も速い広葉樹林、と決めてしまうのが一般です。間違いで
はないのですが、その一方で、スギなどの針葉樹人工林の能力はゼロのごとくに短絡
的に結論されがちなのは危険なことです。

なぜなら、針葉樹の落葉も、速度は多少遅くとも分解するのは当然だからです。ある
程度の時間を経た、適切に保育手入れされてきた壮齢期以上の人工林ならば、水源か
ん養能力も十分といえます。天竜川の金原明善の例のように、過去の水源林造成に使
われたのはほとんど針葉樹(スギ)で、それで充分目的を達してきました。

　それに加えて、水源かん養能力を比較するのに、針葉樹人工林は生態系として未成
熟のまだ若い林が、広葉樹林はすでに成熟した天然林がモデルになりがちであったこ
とも、広葉樹林絶対優位の印象を与えてしまうことになりました。この両者を比べれ
ば、優劣は最初から判っているともいえるからです。(PREC Study Report
8:22-31,2002)

　確かに人工林は増えました。わが国の人工林は、ほとんど全部がスギ、ヒノキ、カ
ラマツなどの針葉樹ですが、それが今、植え過ぎ、モノカルチュアの弊害、水土保全
能力の低下、はては花粉症・・と評判が宜しくなく、人工林は自然破壊という発言も
あるほどです。大戦後から昭和30・40年代までの木材不足の時代に国策としての人工
林化でしたが、その頃には過剰な人工林化を懸念する声はあっても、人工林を自然破
壊などとする過激な非難はありませんでした。その後、山村の過疎化や外国産材圧に
押されて国内林業は低迷に追い込まれました。しかしそうであっても、林業は山の持
ち主として国土を守り、公共へ環境を提供する責務を負っています。

　針葉樹人工林、造ったからには正常に育てることに全力を尽くさねばなりません。
森林面積の4割強、国土面積の3割弱までに拡大した人工林にも、自然環境保全に参加
してもらわないと、森林を基調とするわが国の自然環境は崩壊してしまいます。

　最近話題の二酸化炭素と森林、その収穫物である木材の問題の要点は、次のように
整理できます。

①その吸収体としての活力ある森林の造成維持

②炭素貯留の場としての高蓄積森林の長期維持

③放出源としての森林破壊の停止

④木材として炭素貯留のままの長期利用。

　この二酸化炭素問題では、森林とくに人工林の果たす役割は大きいと考えられま
す。何しろ、人工林は、わが国森林の、面積では4割ながら、成長量の8割を占め
(①)、その管理によって高蓄積森林への誘導可能(②)、経営計画が立て易く(③)、木
材収穫効率が良い(④)のですから。

なお、1995年現在、

　　全日本の森林蓄積　：34.8億m3　→全樹木炭素換算量　9.4億トン

　　　　　　　　　　　　　　(わが国放出炭素　3.4億トン/年の280%)

　　　　　　森林成長量：6920万m3/年　(その85%は人工林)

　　　　　　　　　　　　　　→根を含む吸収炭素量　1633万トン/年

　　　　　　　　　　　　(わが国放出炭素　3.4億トン/年の4.8%)

　　　　　　収穫量　　：3443万m3/年　→炭素換算　581万トン/年

　　　　成長量＋収穫量：炭素換算　2214万トン/年

　　　　　　　　　　　　(わが国放出炭素　3.4億トン/年の6.5%)

これまた　弥富の佐藤さんの「どうやって説明していいのか途方にくれています」
の「虫は虫なりに一つの考え・・・・土石流災害に思う」は、ちょっと思い入れが大
きすぎるようです。

【日本の針葉樹林】は、広葉樹と針葉樹を逆にとらえているみたい。一般に、土地を
選ぶのは広葉樹で、土地が悪いところでも根を張って生育できるのが針葉樹。針葉樹
人工林で、根張りが悪いのは、手入れ不足の競争激化のため、樹木間の競争の影響
は、地上部よりも地下部に激しく現れます。

【針葉樹と広葉樹と雨】も逆。書いてあることは人間の感覚(錯覚)で、実は、針葉樹
林の方が土地面積あたりの葉量・葉面積が大きくて雨もよく遮断します。

【土石流災害】も、人工林だからというのは言い過ぎでしょう。集中豪雨で、水を一
杯に含んだ土砂がその重みで崩れ落ち、流れるのですから、広葉樹林で土石流がない
とは言えません。

ついでながら。

「環境時代」となった今日、広葉樹、天然林がもてはやされています。スギやヒノキ
の針葉樹林よりも、広葉樹林の方が環境保全的効用に優れていると一般に信じられ、
「効用樹林」としてかなり安易に広葉樹造林が云々されます。

わが国にも広葉樹造林の歴史はあります。大正時代にちょっとした流行があったよう
で、今もその頃のケヤキなどの造林地が残っていますし、昭和30年代にも成長が速い
外来のアカシアやユーカリ類造林のブームがありました。しかし、これらが一過性で
あったのは、その造林施業体系が針葉樹ほど確立しておらず、立地条件対応も曖昧の
まま造林が先行し、期待通りに行かなかったためでしょう。一般に広葉樹は土地を選
び、つまり針葉樹ほど立地に対する許容度が大きくないことが、広葉樹造林の進展を
妨げたといえるかも知れません。

　その点、針葉樹造林には、奈良の吉野林業500年、京都の北山林業400年を筆頭に歴
史的技術があり、経済的にも保証されて、安心して造林できました。「信用樹林」
だったのです。

　万葉時代、地名山城にかかる枕詞に「つぎねふ」というのがあり、18世紀に本居宣
長は、山の木を伐った跡に植え継ぐ苗(継苗生)のことと解釈しています。万葉時代に
植栽造林があったはずはないのですが、江戸時代には「森林を伐採したらすぐに造林
する」という林業鉄則が、宣長先生を錯覚させるほど定着していた、とも見られま
す。これはもちろん針葉樹造林です。

(森林インストラクター会報45:9-11,2001/9)

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「四万十川源流域・かわうそ通信」　第１６号

ＮＯ．０１５　川と森のシンポジューム・その１
　　　　　　　　　　　　　　　　　（四万十の日実行委員会）
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■川に望ましい森林の姿は？

　川に望ましい森林の姿は？をテーマに、川と森林シンポジューム
が、高知県中村市で開催されました。四万十の日実行委員会の主催。
参加者からの質問に対して、有光一登元高知大学教授、及び森林総
合研究所の垰田支所長、加藤調整官が回答しました。一般の方から
の素朴な疑問に対して、森林が専門の各先生方が大変分かりやすく
解説しています。そのうち、森林に関わることについて「Ｑ＆Ａ」
という形で、シンポジュームの一部をご紹介します。（編集局）

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Ｑ１＝
　人工林は自然林に比べて保水力が低いと思っていました。保水力
は土壌がキーワードということですか？

Ａ（有光）＝
　森林の保水力は人工林が自然林に比べて低いということはありま
せん。人工林、自然林を問わず保水力を左右するのは土壌の孔隙組
成と深さです。

　自然林の方が土壌の孔隙組成が良好だとか、土壌が深いというこ
とはありません。人工林、自然林を問わず土壌の孔隙組成が良好で、
深ければ洪水調節・渇水緩和のはたらきは大きいと言えます。これ
が森林の保水力です。

　一方、流出量について言えば、森林からの蒸散量が河川の流量を
大きく左右します。蒸散量は人工林・自然林の違いではなく常緑樹
林・落葉樹林の違いによって変わってきます。

　また、樹齢や森林の葉の量によっても違ってきます。落葉広葉樹
林の方が年流出量は多くなります。針葉樹の人工林なら、間伐・枝
打ちをして葉量を少なくした方が年流出量は多くなるとみられます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

Ｑ２＝
　山の保水力をつけることが川の再生や自然保護のためもっとも大
事と思うのですが、そのための有益な整備がいまだになされていな
いように感じています。

Ａ（有光）＝
　山の保水力をつけるための森林の整備が進んでいないのはご意見
のとおりです。山村の過疎化、高齢化が進み山で働ける人がいない
こと、安い外材に押されて国産材が売れないために森林業への投資
ができないこと、日本の森林の三分の一を占める国有林が大赤字を
抱えて経営が行き詰まっていること、などのために整備できずに放
置されている森林が多いのです。

　森林が木材資源を供給する産業としてだけでなく、水源涵養はじ
め多くの公益的機能をもっているという認識から、神奈川県、高知
県、福岡県など幾つもの自治体が基金や税金などの形で森林整備・
管理のための財源を作ったり、住民の森林に対する意識を高める動
きをはじめたりしています。

　一般市民の関心も高くなり、ボランティアで森林の間伐や枝打ち
をする事例も増えています。こうした動きとは別に、国や自治体は
森林の整備のための予算をもっと増やすべきであることは言うまで
もありません。

　降雨時に水がどっと出て、すぐに川の水量が減る、これは狭い国
土に急峻な山地をかかえるわが国の自然条件として避けがたいこと
は、シンポの時に外国の河川と比較してお話したことです。ですか
ら、森林を整備したら洪水や渇水が起こらなくなるかというと、残
念ながらそうではありません。

　どんなに立派に森林を整備しても日本の自然条件では洪水も起こ
るし、渇水も起こります。しかし森林を整備することによってでき
るだけ洪水や渇水の程度を軽減しようという努力が必要なのです。

Ａ（加藤）＝
　森林土壌の高い保水力を維持するためには、表層土壌を悪くしな
いことと適度な孔隙組成を持つ厚い土層を維持することが必要です。

　侵食などで表層土壌が流出したり、踏み固めて表層土壌の孔隙組
成が悪くなると、雨の受け入れ口にふたをすることになり、大雨の
時に十分に雨を土壌中に浸透しにくくなります。

　この点については、広葉樹林、針葉樹林に関わらず、適切な間伐
などを行って林内に陽光を入れ、草や低木を繁茂させることでかな
り対処できます。

　一方、多量の雨を一時的に貯留し徐々に流出させるには、土層の
厚いことが必要ですが、人為的に土層を厚くすることは事実上不可
能です。

　土壌を悪くすることは簡単にできますが、良い状態にするには気
の遠くなるほどの年月がかかります。高知県のように雨の多い地域
では、特に土壌の荒廃を防ぐ森林の取り扱いが必要です。

ＮＯ．００２－002　大正町の作業道（続々）
　　　　　　　　　（松崎武彦・（財）高知県産業振興センター）
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

■森を生き返らせる道です！

　川竹知事特別秘書のお誘いで大正町に行き、町役場産業課長の
田辺由喜男さんに森林の作業道（通称、田辺林道）を案内して頂
きました。この作業道は、木材の搬出を目的としたもので、２ト
ン車や林内作業車が、最長12メートル長の木材を積んで下れるよ
うに設計されています。

　至る所、景観や自然環境を壊さない配慮がされており、セメン
トなどの資材の外からの持ち込みは一切せずに、その場にあるも
のを使って作られています。あらかじめ設計図などは作らず、大
体のルートを決めてその場所の状態をみて最適なルートを尾根の
部分を利用して山の頂上まで延ばしていきます。

　道の側帯（谷側）には工事で抜かれた植物を植栽したり又、
雨水の排水を考え外カントのカーブを設置したり雨水が山に吸収
されるようさまざまな工夫がされています。この作業道にかかる
費用の内補助金は１メートル当たり1500円ということです。こ
れは森林所有者にとって魅力的な道だと思います。　

案内されたのは中津川沿いの町有林の森林でしたが、このよう
な作業道が、国有林や民有林、町有林を含めて大正町内の森林に
張りめぐらされています。５月末には、市ノ又渓谷の奥に、樹齢
２００年位のヒノキの大木が林立する国有林にまでとどくという
ことなので、楽しみです。

　町には現在この道づくりの組が３（４？）セットありますが、
今や大人気で、休日には県外を含む各地からの要請でこのような
作業道を作り歩いているそうです。これらの人達は身分は町の臨
時職員ではありますが、何年もの経験からコツを取得したのであ
り、今は完全なプロ集団となっているように思えます。

この作業道は、木材の搬出を目的として作られたものですが、
間伐の作業、間伐材などの搬出にももちろん使われますし、そ
のまま自然散策のためのハイキングコースとしての利用価値も高
いもので観光客の誘致にも役に立ちます。

　実際、途中にしゃれた休憩小屋も作られていました。もちろん、
道づくりのために切った丸太だけで作ったログハウスです。今で
は、この作業道とプロ集団は大正町の誇りです。この作業道は、
森を生き返らせる道です。

　この作業道は、森林バイオマス利用を目的としたものではあ
りませんが、日本のバイオマス利用の中で最も困難な課題である
バイオマス資源の搬出問題を解決できる可能性を与えていると思
います。

なお、大正町産業課発行のパンフ「大正町の作業道」には、
作業道開設の詳細が解説されていますので、興味の或る方は取り
寄せてみてください。（私も１部持っています。）

▽大正町役場▽
　http://www.town.taisho.kochi.jp/

ＮＯ．０１６　四万十川条例への意見　（須崎林業事務所）
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
（四万十川条例の「森づくり」関連条項について）

◆いわゆる「線引き」について
（第１１条、第１２条）

　条例の及ぶいわゆる「線引き」については、面的な範囲として
重点地域を定めています。重点地域については、回廊地区、保
全・活用地区、共生モデル地区、原生林保全地区に区分され、そ
れぞれは重複しないとされています。

　しかし、イメージ図で示された面的な「線引き」の問題点とし
て、森づくりにおける、その対象の大部分を占めるであろう主要
支川以外の支川の源流域の森林が殆ど重点地域からはずれること
になり、「行為の制限」もないかわりに、どのような森づくりを
すべきかを示すことになっていない、ということがあげられます。

◆森づくりにおける人間の行為の制限について
（第１３条、第１４条、第１６条）

　「人間の行為の制限」については、条例は、まず「制限があり
き」のことが多いものですが、本来はどのような森づくりをする
べきかを先に示し、その森づくりを行うために「人間の行為」を
どのように制限するのかを決めてゆくべきものと考えます。

　そのことからすると、条例制定の前段に、「四万十川の森づく
りの憲法（宣言）」があってしかるべきと考えます。

　各地域の森づくりに関連する具体的な「人間の行為の制限」は
以下のようになっています。

　１．原生林保全地区
　　　立木の伐採の禁止　
　　スギ、ヒノキの植樹の禁止

　２．回廊地区
　　　天然林の伐採の禁止　
　スギ、ヒノキの植樹の禁止

　３．共生モデル地区、保全・活用地区
　　　特に制限はなし

　伐採については、「天然林」を禁止することは卓見と思います
が、「立木」となるといかがなものかと思わざるえません。

　原生林保全地域には、いわゆる人工林は殆どないとは思います
が、天然林を含めて、憲法で保証されている個人財産（特に人工
林は、多額の資本を投入して作られた動産）の使用権、処分権と
の整合性はどうなるのか？禁止に対する損失補償制度が必要では
ないか？ということを思います。

高知県の気候風土下では、天然林を伐採しても樹木が消滅する
ことはありません。樹木が生い茂る状態を「良好な状態」とした
としても、天然林の伐採禁止だけで、ことは足るというものでも
ありません。

　原生林はともかく、普通の自然林（天然林）も適度に人間の手
がはいってこそ、「健全な森」になると主張する学者もいます。

　スギ、ヒノキも樹木です。植樹行為そのものを禁止するのは、
いささか的外れの感がします。スギ、ヒノキばかりを大量に植え、
その後、予定調和の管理がなされなくなった所が問題であって、
スギ、ヒノキを含め植樹行為そのものは、生態系、環境の保全に
必ずしも悪しきものではありません。

　スギ、ヒノキの植樹を一律禁止するのではなく、「健全な森づ
くり」には、どのような植樹をすべきで、また、どのような管理
をすべきか、ということに基づく規制とするべきです。

　さらに、天然林以外の森林の伐採に何ら制限がないのも問題で
す。混みすぎたスギ、ヒノキの人工林は、伐採を促す制限が必要
と考えます。

◆県がなすべき森づくりの処置について
（第１３条、第１４条、第１５条、第１６条）

　各地域の森づくりに関連する「県の講ずる措置」は以下のよう
になっています。

　１．原生林保全地区
　土地の買い取り促進　

　２．回廊地区
　　自然植生の回復を図るため人工林の間伐の適正な実施、
　　　その他の措置
　　　土地の買い取り促進

　３．共生モデル地区、保全・活用地区
　人工林の除伐及び間伐の適正な実施
　　　混交林の整備
　その他の措置

　ここにあげられた措置は、当然県において予算を伴って行われ
るものと理解します。回廊地区の間伐は、「自然植生の回復」が
目的とされていますが、共生と保全地区にはそれがないのは、
何か理由があるのでしょうか？

　「自然植生の回復」とは、人工林内への雑木（主として広葉樹）
の侵入を意味するものと思われますが、通常の間伐で自然植生の回
復が図れるのでしようか？「間伐の適正な実施」ではなく、自然植
生の回復が見込まれる「適正な間伐の実施」とするべきではないで
しょうか。また、その「適正な間伐」がどういうものかを示す必要
があります。

　さらに「その他の措置」が具体的にどのようなものかも示す必要
があります。少なくとも、自然植生の回復を図るための「その他の
措置」なのか、「別な目的のための措置」なのかも明確にすべきで
す。共生と保全地区では、その目的さえ記載されていないのも問題
と考えます。

　共生と保全地域での措置として「除伐の実施」とありますが、林
業用語的には除伐というのは、人工林の中に侵入した雑木（自然植
生）を排除する行為です。

　共生と保全地区では、人工林における自然植生の回復は目的とし
ないということなのでしょうか？これでは現在の予定調和を前提と
する森づくりより、さらに後退した「森づくり」になるのではない
でしょうか？

　四万十川流域の森林は、経済的機能を最大限追求する「従前の森
づくり」とは、きっぱりと決別すべきと考えます。

「混交林の整備」とはいったい何をするのでしょうか？人工林に
も、自然林にも混交林がありますが、いずれの森林も対象とし、同
じ措置をするというのでしようか？

　条例では人工林はスギ、ヒノキを植林したものと定義されていま
すが、自然植生が侵入したものは混交林になるのでしょうか？どれ
くらいの侵入で混交林となるのでしょうか？混交林の定義が曖昧す
ぎるようですので、目標として掲げるならば、もう少し明確にする
必要があると思います。

　定義はともかく、人工林はすべからく、混交林に誘導するべきで、
県はそのための措置を講ずる、という考え方が適当と思えます。

「土地の買い取り促進」を掲げていますが、健全な森づくりに土
地の買い取りは直接関係がありません。土地を買い取る、というこ
とはその土地で公共機関が考えている「健全な森づくり」を促進す
ることができる、ということですので、土地を買い取った後、どの
ような「森づくり」を目指しているのかというような、土地を買い
取る目的を明示するべきと思います。

◆共生モデル地区内における協定について
（第１５条）

保全に関する協定ということですが、「管理の方法、及び目標」
に、「森林の管理及び森林整備の目標」ということが含まれるので
しょうか？もう少し具体的に何を、どのような方法で管理し、何が
目標なのか、イメージが湧くように表現して欲しいと思います。

　説明を受けなければ、理解できないというのでは、条例としてい
ささか不備ではないかと思います。また、森林を管理することが含
まれるとしたら、なぜ共生モデル地区だけでの協定なのかも、よく
分かりません。

◆保水力の向上について
（第１８条）

　県は流域の森林、農地の保水力を向上させ、豊かな水量を確保す
るため、次の３つの措置を講ずることとしています。

１．除伐及び間伐の実施、混交林の拡大等森林の適正管理の促進
２．保安林の指定
３．耕作放棄地の発生の防止等農地の適正管理の促進

　まず、第１番目の除伐等の適正管理の促進についてですが、「森
林の保水力」とは、雨水を地下にしみ込ませる林地の浸透能力のこ
とで、この浸透能力を向上させるためには、１．間伐を実施して、
林木の根茎を発達させる。２．混交林化により落葉層を発達させる、
ことですので、条例に明記されているこれらの措置は、保水力を向
上させるためには積極的に推進していかなければならないことです。

　ただし、この条例でいうところの「混交林」とはどのような混交
林を想定しているのでしょうか。多分、針広混交林のことだと思い
ますが、手法の問題として、針広混交林を拡大するのであれば、前
述の理由により、除伐は中止すべきことで推進すべきことではあり
ません。

　せっかく生えてきた広葉樹を伐採することは混交林化に逆行しま
す。また、除伐を実施し、スギ、ヒノキだけの林に仕立てた後に、
少々強めの間伐を行ったところで、混交林とはなりえません。除伐
をしないか、混交すべき樹種を残すといった方法を採らないと混交
林化は困難です。

　次に「保安林の指定」についてですが、保安林に指定されると、
皆伐の面積、主伐の年齢等伐採について制限が課せられますが、保
安林機能を向上させるために保育施業まで義務付けられる訳ではあ
りません。

　従って、保安林に指定されただけでは、直接、保水力の向上には
繋がりません。保安林に指定された後に、治山事業等公共事業を積
極的に導入し、森林を整備するといった具体的な方策が続かないと
保安林の指定だけでは、何も実効性が伴わないということです。

　最後に、「耕作放棄地の発生の防止等農地の適正管理の促進」に
ついてですが、林地は、樹木の根系が地中に蔓延っており、落葉層
に柔らかく受け止められた雨水は、根系を伝って地中のより深い箇
所まで浸透しています。

　森林の保水性は落葉層はもとより、樹木の根系によるところが大
きいと考えられています。農地、耕作地には森林のような根系はな
く、雨水を地中に沁み込ませる働きは小さいと考えられます。

　耕作地が放棄されると、カヤ場になり、やがて樹木が侵入して森
林に移行します。

　耕作地を放棄すれば森林に戻り、保水力が向上するというのが、
常識的な考えです。条例文をそのまま解釈すると、「耕作地を放棄
すると保水性が低下する」ということになりますが、常識的な考え
方を否定する、その根拠が何処にあるのかについては、条例文に記
載するかしないかは別として、説明する必要があると考えます。

　また、水田は、ダムの役割を果たしているという人がいます。こ
れは、水田がいつもダムのように、水を湛えているという短絡的な
「錯覚」です。代掻きが始まる５月ごろから稲穂が成長する８月ま
では、確かに、いつも満面に水を貯えています。

　いつも満面だからこそ、梅雨の時期に大雨が降っても、これを貯
留させる余裕はほとんどないのです。

　しかも、水田は水が地下に漏れない構造になっています。降った
雨は、地中には浸透せず、そのまま河川に流れてしまい、森林の保
水力とは全く関係がないのです。

　ただし、耕作地の放棄は、食糧の自給率の確保という別の意味で、
その発生を防止すべきものと考えますが、保水力の向上を目的とす
るには、そぐわないものと考えます。

▽四万十川条例▽
http://www.pref.kochi.jp/~shimanto/01/jyoubun.htm

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「四万十川源流域・かわうそ通信」　第１６号
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編集局：Ｅメール
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[BlueSky: 5267] 「針葉樹人工林」が悪いのではなくて、その「管理手入れ不適切」が問題

[From] "佐藤仁志" [Date] Thu, 31 Jul 2003 20:50:38 +0900

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