皆さん、おはようございます。
今週、続けて2つの「事件」があり、考え込まされています。
一つは学外からの電話相談で、マイナスイオン発生装置の中に組み込まれた
カートリッジに「風化造礁サンゴ」というものがあって効果の元とされているのだ
が、
実際にそのようなものが入っているかどうか調べてもらえないか、という依頼でし
た。
もう一つは、今の後学期にいわゆる教養番組として、文系学生対象で生物の
生活という大くくりの講義を担当していますが、その中間試験として受講生
がそれぞれ自分で情報を調べて、それを元に自分の意見を述べよという課題を
出しました。
「サンゴ礁がどのように人間に利用されて役立っているか」という問いを
一つ出しましたが、その答として一人の学生が「風化造礁サンゴ」の商品
宣伝サイトのキャンペーンを丸写しにしていました。答案に自分の意見が
全くなかったのにも困りましたが、私がサンゴ礁について基本的なことを色々
講義した内容を理解できていたら「なんか変だ」と気づくだろうと思えるのに
そのまま受け売りしていたので、自分の講義下手を嘆き悲しんだわけです。
確かに、商売にしている人には利用されて役立っているなー、と考えると
成績評価をどうするべー、と悩んでしまう(自分の意見が出ている事を評価
のポイントにすると宣言してあるので、高い評価は出来ませんが、ペケに
すべきかどうか?)。
前置きはこれくらいにして、本題です。マイナスイオン問題は東大生産研の
安井さんにお任せしておいて(昨日、山口大学でこのテーマのシンポジウム)、
私としては自分の研究領域にひっかかりが出来ている「風化造礁サンゴ」
については放置できないような気がします。実は、この言葉は今回初めて
聞いたので、ビックリ仰天したのです。造礁サンゴとは30年以上付き合って
来た私が聞いた事がなかったのです! あわてて、ネット上で調べました。
出てきた情報は見事なステレオタイプでした。これは一般人の勘違いと
錯覚(無知といったら失礼かな)および健康や環境についての不安を
利用した(やや−相当、の間にスペクトルのある)悪質な商売だなという
自分なりの結論を得ました。明白に悪質なものは放置できないと思います。
「風化造礁サンゴ」はただのサンゴ砂です。これは古い化石礁の部分から
わざわざ取り出しているとは思えません。風化という言葉がトリックです。
造礁サンゴの死んだ骨格が侵食、破砕され、砂となったものですから、
サンゴ礁の海底にはそれこそ無尽蔵にありますし、浜辺では観光客の
皆さんが踏みつけています。
ただのサンゴ砂に付加価値をつけて資源として利用するアイデアは許容でき
たとしても、わざとらしい名前をこしらえて、怪しげな効能を並べて売ることは
見過ごせません。営業妨害として訴えられないとも限りませんが、啓蒙運動
を始めたいと思います。そこで、自分なりの理論武装が必要になりました。
サンゴ砂はほとんどすべてが炭酸カルシウムであって、少量のマグネシウムや
他の元素が混ざっています。そして生育環境によっては水中にあった腐食酸
や様々な安定的な物質をごく微量ですが取り込んでいます。骨格形成中には
微量なたんぱく質なども含まれているでしょうが、砂となってからは残っている
かどうか、わかりません。データは砂になる前のサンゴの骨格からしか見て
いません。
「風化造礁サンゴ」はミネラルの種類が豊富であって健康によいという宣伝
をもとに、ご飯を炊く時に一緒に入れるティーバッグ式の商品がありました。
無機のカルシウム塩などが本当に健康的かどうか、またわざわざサンゴ砂
からとるのがよいのか、などの点もありますが、このご飯の栄養強化?の場合
健康被害に結びつく可能性はどうでしょうか。体内で結石形成を促進してしまう
かもしれないと、私なんか恐れますが。
マイナスイオン発生器に組み込まれたものでは、「風化造礁サンゴ」の砂だけ
でなく「珊瑚セラミック」という摩訶不思議なものが出てきました。さて、これは
何でしょうか。ほぼ純粋な炭酸カルシウムとセラミックがどのようにつながるの
か、推理する手がかりも見つかりません。サンゴ砂を高温で焼けば炭酸ガスが
抜けて石灰が残るはず(もっと高温では?)ですが、石灰とセラミックは一体
どのような関係になるか、教えていただけないものかと望んでいます。
(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。