[BlueSky: 4450] Re:4343  反原発のページに疑問を呈す


[From] "ICHINOSE,Takeshi" [Date] Sun, 30 Jun 2002 21:53:11 +0900

一ノ瀬です。

 gengorouさんが#4343で紹介してくださった、原発に関するホームページをよ
うやく読みました。

 この文を書いた平井さんという方は、既に亡くなられたものの実在の人物のよ
うですが、この文章は、本当に平井さんご本人が生前に書いた文章そのままなの
でしょうか?(5年前に亡くなられている)

 私は強い疑問を覚えました。なぜなら、いやしくも技術屋の端くれなら、絶対
に犯すはずのない誤りが、堂々と、それも山ほど記されているからです。
”住民の被曝と恐ろしい差別”という項もありましたが、これはもっとひどい。”
エイズ患者に触るとエイズがうつる”的な話を堂々と書いています。差別は、正
にこういう全くの偽りを垂れ流す人によって、作り出されていると言えます。

 しかし、良くできているとも言えます。
 すくなくとも、”オウムの科学”とは同レベルにはあるかも知れません。
 オウムの科学を疑いもなく信じた人々をたくさん出した日本人ですから、この
テの怪しげな文章に騙される人々が出るのも無理からぬことかも知れません。な
にせ、我々の体にも、彼らと同じ様な血が流れているのですから。

 けれども、原発を本当に批判するならば、真っ当な科学技術に基づいた、質の
良い議論が必要です。このホームページのような内容が平気で流布され、信じら
れているとしたら、道は遠いと言わざるを得ません。

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 以下、参考までに明らかな誤りのうちの一部を指摘しておきます。余りに誤り
が多すぎて、全ては解説しきれないので。


例1.「原発にある高い排気塔からは、放射能が出ています。出ているんではな
くて、出しているんですが、 二四時間放射能を出していますから、その周辺に
住んでいる人たちは、一日中、放射能をあびて被曝しているのです。」

 ここでは、技術面での知識が亡くても、”おかしい”と気づいて欲しい。
 原発の内部では、何が行われても隠蔽されてしまう可能性がありますが、この
場合は、外に排出して居るんだから、もし放射能を出しているとすると、誤魔化
しようがありません。ちなみに、電力会社は出していないと言っていますが、そ
れが本当かどうかは、測ってみればすぐ分かる。そういう、すぐバレるようなと
ころで、嘘を付く人間は普通は居ない。
 更に、原子炉の基本的な構造が分かっている人間ならば、少なくともこの部分
では放射能は出ていないであろうことは、簡単に予想が付きます。やや不正確な
表現になりますが、この誤りを喩えて言えば、「原子力発電所で作った電気から
は、放射能が出ている」と唱えるのと五十歩百歩です。


例2.「1993年に、女川原発の一号機が震度4くらいの地震で出力が急上昇し
て、自動停止したことがありましたが、この事故は大変な事故でした。なぜ大変
だったかというと、この原発では、1984年に震度5で止まるような工事をしてい
るのですが、それが震度5ではないのに止まったんです。」

 この部分も、”おかしい”と気づくのに技術面の知識を要しません。
 自動車で制限速度100km/hとは、100kmで走ることではなく、
100km以下で走らなければならないことを意味します。
”震度5で止まるような工事”とは、震度5で止まる様にしたのではなく、震度5
以下で止まるような工事をした、と見るのが常識です。震度5ギリギリで止まる
様に狙って設計をした場合、その狙いがはずれれば、震度5を越えなければ止ま
らなくなる恐れがあることは、誰にでも分かると思います。

 ここでは、「5で止まるように設計されているものが4で止まったということ
は、5では止まらない可能性もあるということなんです。」とも書かれていまし
たが、屁理屈がものすごく素人臭い。
「震度5で倒れるように作って置いた花瓶が、震度4で倒れたと言うことは、震
度5では倒れない可能性もあると言うことなんです」
と言い換えれば、この記述の馬鹿馬鹿しさが分かるでしょうか?特にこの部分
は、設計を全く知らない人間が書いた文章としか思えないのです。
 上の例2の部分には、他にもおかしな記述が含まれていますが、その説明は省
略します。


例3.「東京で就職して恋愛し、結婚が決まって、結納も交わしました。ところ
が突然相手から婚約を解消されてしまったのです。 相手の人は、君には何にも
悪い所はない、自分も一 緒になりたいと思っている。でも、親たちから、あな
たが福井県の敦賀で十数年間育っている。原発の周辺では白血病の子どもが生ま
れる確率が高いという。白血病の孫の顔はふびんで見たくない。だから 結婚す
るのはやめてくれ、といわれたからと。」

 私の知る限り、日本で被曝と白血病の関係が世に知られるようになったのは、
被爆地広島で白血病が多発したことからです。
 けれども、白血病というのは、元々希な病気であるが故に、発生すると目立つ
のです。すなわち、放射線の影響の有無をチェックするための、高感度の指標に
なるのです。だから、原子力発電所周辺で住民に放射線の影響が出ているかどう
か調べる際に、白血病という指標がよく使われます。
 このために、被曝=白血病、という思いこみができあがったのですが、実際に
は、被曝によって誘発されるガン(白血病はガンの一種)の内、白血病は全体の
3分の1を占め、残る3分の2は白血病以外のガンです。被曝=白血病、と言う
単純な思いこみは正しくありません。

 何より、放射線被曝によってガンにかかるには、相当量の放射線を浴びなけれ
ばなりません。
 歴史的には、放射線と白血病との関係は、第二次大戦前の時代に、米国の放射
線科医で見つかりました。彼ら放射線科医達は、当時、年間1000mSv程度
の放射線を「毎年」浴びていたと推定されています。これに匹敵する被曝量は、
日本では広島、長崎の被爆者に見つかります。
 これらどちらの例も、被曝としては究極的な条件で、一般には起こり得ませ
ん。日々、遮蔽設備もない中で、X線を扱っていた放射線科医や、核爆発に直接
晒された人々と、原子力発電所周辺の一般住民が同じ条件だ言えば、それは真っ
赤なウソでしか有りません。
 これは簡単に証明できることです。なぜなら、原発周辺で生活しているだけで
それほど大量に被曝してしまのが本当ならば、簡単な放射線計を用意すればすぐ
に検出できます。何より、(デジカメでない)銀塩写真のカメラも、放射線で
フィルムが感光してしまって、まともには撮影できなくなるという現象が起こる
筈です。原発周辺の町には、カメラなど幾らでもあるはずなのに、私はそんな馬
鹿げた話は、未だかつて聞いたことがありません。

 問題が起こるとすると、原発で働く人々ではないかと私は思っていました。年
間50mSv(当時。今では20mSv)、一日では1mSvを越えてはならな
いとする職業被曝量の制限は、非常に厳しいものであるが故に、作業現場では
却って守られないのではないかという疑いを持っています。年間1000mSv
までには達しないまでも、300mSv程度になれば、悪影響が現れる恐れがあ
ります。
 けれども、この平井さんの文章を読む限り、アラームメーターのスイッチを
切ったりはしていないし、一人当たりの被曝量を減らす為に大量の人員を投入し
たりと、実にきっちりと管理されています。少なくとも、平井さんが働いていた
現場に関する限り、放射線被曝に起因する傷害は起きようがありません。少々の
被曝よりも、深酒や喫煙の方がケタ違いに大きく発ガンリスクを高めることを、
平井さんは知らなかったのでしょうか。
 このような、被爆者やその子孫に対する差別や偏見を生み出すようなデマが、
一部の団体によって流布され、しかもそう言う無法な行為が、実質野放しになっ
ていることは非常に問題だと思います。

 なお、「レントゲンなら何十枚もいっぺんに写したくらいの放射線の量に当た
ります」という記述もありました。これもウソです。
 レントゲン撮影に伴う被曝量は、技術の向上によって年々減らされてきていま
すが、現在でも、胸部X線撮影なら1回で1mSv程度被曝します。胸部X線
CTなら、通常で10mSv、精密撮影で30mSv程度になります。上に記し
た様に、職業被曝量の上限は年間50mSv、一日では1mSvですから、「何
十枚分」なんてのはデタラメです。


 他にも、まだまだおかしな点はいっぱいあります。
 ああ、疲れた。




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