[BlueSky: 4348] なぜ自動車を手放せないのか


[From] "IWAO, Keisuke" [Date] Wed, 5 Jun 2002 10:51:06 +0900

みなさん、こんにちは。巖@桃山です。

中澤さんが提起された「人はなぜ自動車を手放せないのか」について
つらつらと考えてみました。

簡単にまとめてしまえば、要するに
 一度手に入れた自動車は自分の手足の一部となり
 その手足を失うのはイヤだ
ということではないかと思いました。

以下、ホームページに掲載するつもりで書いた文書なのでやや冗長ですが
ご笑覧ください。
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◆拡張された身体

 生身のヒトは、いくらがんばっても10秒で100メートルしか進まない。2時間で40
キロしか走れない。自分の体だけに頼るかぎり、この限界が大きく書き変えられる可
能性はない。ヒトの体の能力は、残念ながらたかが知れている。

 ところが、ヒトはひ弱な自分の脚を補う道具を作り出した。この「拡張された脚」
を使えば、1時間に60キロも移動して、まったく汗もかかずにさらに移動し続けるこ
とができる。ついでにその際、お米30キロとビール2ケースとタマネギとじゃがいも
までかついでいける。この力強く素早い「拡張された脚」のことを、ヒトは自動車と
呼ぶ。

 一度この拡張された脚を手に入れると、ヒトはそれを容易には手放せなくなる。な
にしろそれは、頼りない自分自身の身体を補完し増強してくれるのだ。一度それを自
分の一部にしてしまうと、今度失うときは自分の手足を奪われるように感じてしまう。
一度手に入れた力を失い、かつての無力な裸の自分に戻る、その恐怖に耐えられない
のだ。

 こんな話をするには訳がある。日本が京都議定書を批准することになり、二酸化炭
素の排出を10%以上カットしなければならなくなった今、国民的な取り組みが必要で
ある。そのときの一つの課題が、マイカー使用の削減だ。狭い国土にひしめく自動車
は、二酸化炭素排出の大きな部分を占めている。これを大幅に減らすことが対策とし
て不可欠なのだ。しかし、マイカーの使用制限は大きな反発が予想される。だから、
なぜヒトは必ずしも便利でも効率よくもない自動車から降りようとしないのか、それ
を理解する必要がある。「拡張された脚」というとらえかたは、そのための試論なの
だ。

 ヒトが車を手放さない理由が、合理的なものではなく、拡張した身体を失いたくな
いからだとすれば、どうやってあきらめさせればいいのだろう。その拡張された身体
がジャマでしかたがなくて、ダイエットしたいと思わせればいいのかもしれない。つ
まり、都市部を車にとって不便で不便でどうしようもない場所に作り変えるのだ。そ
うすれば、邪魔な脚を捨てて、裸の自分が小回りの効くけっこう優秀な乗り物である
ことに気づく、のだろうか?
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拡張された身体は、べつに自動車に限りませんけどね。
あらゆる道具は大なり小なりそういう面があるのでしょう。
パワードスーツとかモビルスーツとかバイオニックなんとか(古い…)とか、
手に入れたら手放せなくなるんだろうな、と思います。
この手の話はSFではよく題材になるのでは?

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巖 圭介(いわおけいすけ)
桃山学院大学社会学部
iwao@andrew.ac.jp
http://www.andrew.ac.jp/letter/iwao/


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