[BlueSky: 4123] Re:4116 環境と文学


[From] "suka" [Date] Sat, 11 May 2002 02:53:31 +0900

みなさん

   須賀です。

> 英語圏には「ネイチャーライティング」という文学の分野があるそうです。
> 自然と人間のかかわりをエッセイなどのかたちで表現した作品をくくる
> ことばのようです。

うろおぼえでこう書いたので気になって、調べてみました。
文学・環境学会編『たのしく読める ネイチャーライティング 作品ガイド120』
(ミネルヴァ書房、2000年)
という本があります。

はしがきから大事そうなところを引用してみます。

<本書は、英米文学および日本文学の領域において、自然がどのように
表現されているかを検証することをめざして編集されたものである。
   ・・・(中略)・・・
 英米文学において「自然」はもっとも重要なテーマの一つであった。イギ
リス文学についていえば、パストラルと呼ばれる田園文学の長い伝統が
あり、さらに近代においては、ロマン主義をはじめとするさまざまな自然観
がそこに織り込まれている。アメリカ文学の場合は、社会と文化の成り立ち
そのものに北米大陸の広大な自然が深くかかわってきた。自然というテー
マを抜きにしては、英米文学は語りえないとさえ言えるほどである。地球
規模の環境危機に直面する現代社会に生きる者として、自然と人間との
よりよい関係に目を向けようとするならば、自然を主題とする文学はたん
なる過去の遺産ではなく、新たな価値の源泉となるだろう。
 アメリカ合衆国では、1980年代以降、人間と自然環境との関係をテー
マとした作品が、文学研究の対象として盛んにとり上げられるようになった。
アメリカには、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの作品を原型とする自然文学、
いわゆるネイチャーライティングの系譜がある。それらを文学ジャンルの
一様式として学問的に認知する作業が進められる一方、それを基盤とし
て、人間と自然環境との関係を再検討する方向で、文学研究が実践され
てきた。エコクリティシズムと呼ばれるこうした方法論は、広く文学と自然
環境とのかかわりを考察し、文学研究の立場から深刻化する環境破壊へ
の提言を模索する試みだといえる。・・・(中略)・・・
 ネイチャーライティングとは何か、環境文学とはいったいどのようなもの
なのか。もっとも基本的な定義に従えば、ネイチャーライティングとは、自然
と人間とのかかわりを省察する「一人称形式によるノンフィクション」を指し
ている。また特に環境文学という場合には、ノンフィクションから詩や小説
や演劇まで、自然がクローズアップされるすべての文学を含むことになる。
このような定義をめぐって、研究者の間で議論が深められつつあるなか、
ネイチャーライティング、環境文学とは何かという疑問に答えられる作品
ガイドが待ち望まれていた。・・・(後略)・・・>

というわけで、この本の本文には、「おもに英米文学から100点、日本の
自然文学から代表的なものを20点」収録して、解説がなされています。

収録されている本の一部をあげてみます。

アイザック・ウォルトン『釣魚大全 瞑想する人のレクリエーション』(1653)
ギルバート・ホワイト『セルボーンの博物誌』(1789)
チャールズ・ダーウィン『ビーグル号航海記』(1839)
ハーマン・メルヴィル『白鯨』(1851)
ヘンリー・デイヴィッド・ソロー『森の生活 ウォールデン』(1854)
チャールズ・ダーウィン『種の起源』(1859)
マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』(1884)
イザベラ・L. バード『日本奥地紀行』(1885)
W. ヘンリー・ハドソン『ラ・プラタの博物学者』(1892)
アルド・レオポルド『野生のうたが聞こえる』(1949)
レイチェル・カーソン『われらをめぐる海』(1951)
アーネスト・ヘミングウェイ『老人と海』(1952)
ヴァン・デル・ポスト『カラハリの失われた世界』(1958)
レイチェル・カーソン『沈黙の春』(1962)
エドワード・アビー『砂の楽園』(1968)
ゲーリー・スナイダー『亀の島』(1974)
ゲーリー・スナイダー『野生の実践』(1990)
松尾芭蕉『おくのほそ道』((1702)
国木田独歩『武蔵野』(1901)
南方熊楠『十二支考』(1914−23)
宮沢賢治『注文の多い料理店』(1924)
石牟礼道子『苦界浄土 わが水俣病』(1972)
有吉佐和子『複合汚染』(1975)
野田知佑『日本の川を旅する』(1982)
池澤夏樹『母なる自然のおっぱい』(1992)

うえに引用したはしがきをよむかぎり、ネイチャーライティングや
環境文学とされる作品は、英米文学のなかでは「特殊なジャンル」
(BlueSky: 4116 での須賀の表現)なんていえないくらい大きな
ながれのなかに位置づけられているようですね。

しかもそのなかには実際に環境運動に大きな影響をおよぼして
きた本もふくまれています。

文学・環境学会というのが日本にもあるんですね。この学会は
アメリカで1992年、日本で1993年に設立されたそうです。

・・・知らなかった。

   須賀 丈






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