[BlueSky: 3783] Re:3769 狂牛病と科学


[From] "Kaz. Yokoyama" [Date] Fri, 9 Nov 2001 23:28:58 +0900

佐藤さん、田中さん、青空の皆さん

和尚@ブエノスアイレスです。

私の青空での発言第一回が将にこの「食料」だったこともあり、ちょっと物言いが極端
かつ唐突すぎましたね。反省しています。

それから当地の超スローのネットスピードではスレッドをフォローするのがしんどくな
ってきました。また、視点と思考の時間スケールがずれてきましたので、発言はこれく
らいにします。

> ます。人口増加→食糧増産の必要性の部分では、生産が問題ではなく、分配が問題だ
> というのが現在の一般認識かと思います。いくらアメリカ、ヨーロッパ、カナダ、
> オーストラリアで食料生産が増加しようが、現在実際に飢えているバングラやアフリ
> カの片田舎の人の口に入るとは考えられません。

仰るとおり分配の問題ですが、現時点の生産量を倍加させて現時点と同等ですよ。減少
あるいは、減少するのでは無いかという危惧が生まれるだけでも今より更に分配が困難
になります。

> せば、それら貧しい国の農業を壊滅させます。日本のように食料を海外に依存して安
> 穏としていられる国それでいいのですが、外貨を稼ぐすべを持たないそれらの国々に
> とっては、より不安定な社会にならざるを得ません。食料を必要とする場所で、食料
> を増産する方向しかあり得ないと思うのですが、どうでしょう?

これもその通りですが、現実は佐藤さんの思考を遙かに越える深刻さで進行しています
。アメリカの穀倉地帯ミシガンに居れば無理ないですが・・・私もMSUに居たときは
そうだった。
途上国の農業を発展させるのと同じか、更に多くの労力をかけて世界的な食糧供給の長
期安定化を図らないとあっという間に市場が最貧国を飲み込んでしまいます。

佐藤さんの言われることを否定しているわけではありませんが、時間スケールと視点の
違いが意見の相違となっているだけです。私もただ食料輸出国の供給を増やせばいいと
は全く思いません。それと同時に途上国の農業も持続可能なものにしていかないと、緑
の革命みたいに結局悲劇を後回し、増幅するだけになります。

それは分かっていても、現場に立つと餓死者を放っておけない。全く悩ましいです。

> えば、米国や日本で無農薬野菜や無農薬穀類を生産し高く売れるなら、どんどん推進
> すべきだと思います。金持ちにはもっと食料にお金を払わせればいいのです。米国内
> の農家も助かるだろうし。それで米国の生産量が20%減ろうがかまいはしません。
> 逆に米国の穀物輸出力が落ちれば、国際価格が上がり、食料を輸出する途上国には吉
> 報となります。

ですから、お金持ちは除いてと申し上げたでしょう。葛貫さんが紹介されていましたが
、日本人は一般の主婦と言えども世界的視点では明らかに一握りのお金持ちです。です
が、日本が国際市場で買いまくる食料が国際価格の高騰を招いているとしたら、私の視
点では暢気ではいられません。市場の話はまた更に複雑ですから今回はしませんが、私
の立場としては日本も応分の責任を果たし自国でもっとちゃんと食料を賄うべきだと考
えています。現在では国内の農地の2.5倍もの耕地を海外で使用している訳ですから。

それと、無農薬にすると20%の減少なんてもんじゃないですよ。おそらく10%も出
来ないんじゃないかと危惧しますね。無農薬栽培○○が成立するのは、一つは周りの農
薬が系全体の害生物のバイオマスをコントロールしていることと、世間に他に食べ物が
いくらでも有るからです。つまり無農薬を成立させているのは、巡り巡ると農薬なんで
すよ。ちょっと悲しくなる話ですが、私の視点と時間スケールでは農薬がなくて食料生
産は全く成り立ちません。

ただ、ジャンジャン使えば良いとは思いません。必要最小限、しかも極力安全な使用を
心がけるべき、そして生産量を落とさない。こう言う研究が現時点では一番必要なんで
すよ。ここアルゼンチンでのプロジェクトもそのためです。

> 科学に関する件ですが。
> 田中さんの元投稿は科学と技術がごっちゃになっていて、僕にはあまりよく理解でき
> てないのですが、

こういう発言良く耳にしますし、ここでも何度か発言しましたから、私見を少しだけ。

科学と技術は最早不可分です。少なくとも科学者はそう考えておく必要があると私自身
考えています。

> 出てくる。でも、どんな結果が出てくるか、その範囲さえもわからないブラックボッ
> クス。そんなモノなら、最初っから放っておいた方がいいのでは? 概念をお教え頂
> けると幸いです。

私の考える複雑系の未来は決定論的厳密に予測できないですから人間が好む(あるいは
現代科学がと言う方が良い?)ような精緻なデザインは不可能です。ただ、確率的には
予測可能ですし、複雑系は明らかに持続的に仕事をします。それと、持続的の意味は、
内発的には非常に安定ですが、外部からの破壊には弱い面があります。私が望むのは、
放っておくのではなく、適度に刺激を与えつつ人間にとって望ましい範囲でうろうろし
て貰う(こう言うのはコントロールではなくハーネシングと言う)ことです。それと、
どうハーネスすればより頑健な複雑系ができあがるかも興味があります。


田中さん

> 私も参考のために、横山さんが「無農薬」を「不可能」ときっぱり言い切る理由を、
> 伺いたいと思います。

これは佐藤さんのところで述べました。
ところでご理解いただきたいのは、私の仕事にしている「土壌微生物群集の多様性を利
用した連作障害の抑止」は、業界では最も無農薬指向ですよ。土着の土壌微生物群集に
よって病原菌の増殖を抑止するものですから、土壌消毒にも否定的です。しかし食料の
安定生産の視点では農薬は必要です。人間がもっともーと少なければ良かったんですが
、それだと前提条件が崩れちゃいますね。それに、今生きている半分の人間に死ねとは
言えませんしね。

> 北海道のスケールと、農家さんのやる気が見えて素晴らしいですね。
> まだまだ足元にも及びませんが、いつかライバルになってやるゾ!(図々しい!)
> 今後ともご指導の程、よろしくお願いいたします。

こちらこそ宜しくお願いします。私たちでお役に立てることが有りましたら何でも仰っ
てください。協力は惜しみません。私たちもそうですが、こういう「小さな行動」が今
話題にしている「大局観」と全く同じくらい重要だと信じています。

> これが「償う」ということなのではないでしょうか?
> 無理なら、たぶん「従来型の科学技術」で償う必要はないのでしょう。
> 「悟り」の分野で償ってもいいのですから。
> と考えてしまうのは素人だけなのですか?

同感です。いつか別の機会にしますが、所謂現代の「複雑系」研究のメッカであるサン
タフェ研究所のマークはアメリカ先住民の砂絵です。研究所近くに彼らの博物館があり
、いろいろな部族の言い伝えが落書きされているコーナーがあるのですが、全く愕然と
するくらい鋭く現在私たちが直面している問題(食料、人口問題も含めて)言い当てて
います。そしてその解決法もね。これについては「危ない話」の部類ですので内緒にし
ます(笑)
では
また、長文になっちゃった・・・・


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