[BlueSky: 3087] Re:3082 ミーム


[From] "suka" [Date] Sun, 11 Mar 2001 04:49:28 +0900

ゲンゴロウさん 識さん みなさん

   須賀です。

ゲンゴロウさん:
> 遺伝子の実体を「遺伝子情報の伝達」と捉えていること
> で,memeにもgeneと同じような存在が生まれるように思
> います。つまり,もしもmemeが現象であるなら,geneも,
> 現象と言わざるをえない様な気がします。

識さん:
> ドーキンスさんは「基本的には保守的でありながら、ある種の進化を生じうる
> 点で、文化的伝達は遺伝的伝達と類似している」ことに着目し、文化(例えば
>言語)のような自己複製子に、ジーンと似た単音節のミームという名を付けた
>のですよね。脳から脳へと伝わって自己複製するものというわけです。

ゲンゴロウさんの「集合生物」論は、こういう話しを実は
おさえているからうかつにコメントできないんですよね。
(うかつさは僕の得意技ですが)

問題はこの世界の「現象」を物質界としてみるか情報系
としてみるかということではないでしょうか(とうかつにも
口をすべらす)。

広木さんのように考えると、ミームは物質として特定できない
(化合物のようには)。せいぜい脳のなかのある「状態」と
して推測できるにすぎない。脳のなかの状態とは、外界から
の反応を自己の身体がうけとめる「窓口の対応」みたいな
もんですから、責任は情報の側にではなく、自己の側にある。

遺伝情報は物質レベルと情報レベルがつながるしくみが解明
されているからいいけど、文化情報の脳内システムの解明は
まだなので、

# 「ミーム」とは、実体として存在するものではありません。 ##

という広木さんの「脱ミム宣言」にはリアリティーがあります。
(だがいかなるリアリティー?)

それに対して人間社会におけるミーム間淘汰の過程を何か
巨大な生命体の遺伝情報の発現の過程としてとらえる?
ゲンゴロウさんの観点は戦慄すべきSF映画のようにも思え
ます(たぶんこれはまちがっているので反論してください)。

やっかいなのは、こういうことを考えようとする脳自身が情報
処理システムである、というより、より一般的な意味では生命
活動自体がある種の情報処理システムとして進化してきたと
いうことです。

その進化の過程には、個体間や異種間の情報処理システムの
共進化もふくまれます。けれどもそこには自然淘汰がはたらいて
いる。というか自然淘汰というのはもともとそういうレベルで理解
するべきものだと思います。

ゲンゴロウさん:
> あの本では,文化伝搬現象としてmemeが考えられている
> 程度だったのですかぁ,,そうですか。。
> 私は,もっとすごいことが書かれているのではないかと
> 想像していました。

これがわかりません。memeは文化伝搬現象を説明するために
考えられたものだと僕は思いますが、それよりすごいことって
何ですか? 自然科学は「現にある」ことを説明する解釈の
モデルをだすだけであって、それよりすごいことがあるとしたら、
それは説明の仕方がすごいのではなくて、それよりすごい現象
がもともと対象自体にあるのでなくてはなりません。

意味、わかりますか?

> >結果として生じた各文化の伝播経路を、
> >「ミーム」としてみているのです。
> >## すなわち、「ミーム」というのは、現象論に過ぎない! ##

という広木さんのご説明はそういう意味だと僕は理解
しました。先だってご紹介した梅棹忠夫『文明の生態
史観』(中公文庫)のなかに、宗教を伝染病みたいな
ものとして考えてみようという過激な論文がありますが、
ミーム論と同じだと僕は考えています。

ゲンゴロウさん:
> 私は,人間という意識生物の脳を経路の一つ
> にして,人の手を放れて増殖伝搬するものと
> して,memeを捉えていました。

これは僕のとらえ方とちがいますね。人間の手をはなれて、
ではなく、人間の「意識的な脳の活動を通じて」だと僕は
思います。たしか『利己的な遺伝子』ではキリスト教の教え
が例にあがっていましたよね。

ゲンゴロウさん:
> お酒の席で,オジサンが若い部下に,トクトクと
> 物事を語っているのを見ると,
> 「あれは,meme的な生殖行為だよ・・・」なんて
> 思っていたりしました。

これは「比喩」としてとらえるかぎりはよくわかります。
そのおじさんは「自分で考えている」つもりなのです。
いや、実際にそうなのですが、言語あるいは文化と
いうシステムを自覚的に対象化してあやつれないと、
言語や文化にあやつられているようにみえてしまう。

ゲンゴロウさん:
> そういう意味での,「新しい考え方」だと私
> は思ってました。(てっきり,そういう事が
> 書かれているのだと思ってました。)

僕は『利己的な遺伝子』のミーム論をよんで上にのべた
ような理解をしました。ミーム論自体よりも、もともと人間
社会に起こっていること自体がすごいので、ミーム論の
迫力はそこに由来しているのだと。

広木さん:
> >まとめます。「ミーム」というのは、あくまで、現象論にすぎません。
> >文化の伝播はあくまで人間の行動学的特性に帰結しています。
> >過度に「ミーム」に依存した議論は、物事の表層をなぞるだけで、
> >本質を見誤る恐れがあります。
> >## この事さえ認識していれば、便利な言葉なんですけどねぇ..

広木さんのこのことばはこの意味でよくわかります。
つまり言語や文化を相対化して、そこからちょっと距離を
おく、そうかといって自分を単なる物体とみなすのでも
ない、情報系の進化のプロセスのなかでうまれてきた
自分という体温を「情報の洪水」から守り、台風の目の
なかで静けさを保つ知恵のような考え方ではないかと。

わけがわかりかねるというご感想は甘んじてお受けいたし
ます(笑)。

   須賀 丈




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