[BlueSky: 3021] Re:3020 銃・病原菌・鉄


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Thu, 1 Mar 2001 21:23:48 +0900

広木さん akiraさん みなさん

   須賀です。

反応しやすい話題にばかり反応することをおゆるしください。

わたしは、今西学派の日本流動物社会学・人類学と欧米の
進化生態学・社会生物学のちがいは、大局的にみれば一般
に思われているほど大きなちがいではないのではないかと
思っています。

akiraさん[2999]:
> 最近強く思うのは、科学・学問の分野です。数学や物理・化学など、純粋に論理的
> なものはともかく、生物学、医学、社会学、心理学、歴史学、などなど、文化的な
> 精神風土に大きく関わっている学問分野では、その国独自の学問体系が構築
> されてしかるべきだと思います。
・・・(中略)・・・
> なぜ生物学や医学もそうなのかというと、
> 日本人がサルを見る視点と、欧米人がサルを見る視点では、まったく異なると
> 思うからです。

広木さん[3020]:
> 遅ればせながら、話題の本、「銃・病原菌・鉄」
> (ジャレド・ダイアモンド著、倉骨彰訳、草思社)
> 読んでみました。
> 「なぜ、インカ帝国がスペインを占領したのではなく、
> スペインがインカ帝国を占領したのか」
> という問いに集約される、人類史における出来事の要因を、
> 生物地理学的アプローチによって検証しています。
・・・(中略)・・・
> 今後人文系の人に本書がどのように受容されて行くか興味深いところです。
>
> むろん著者は現在の地域間不均衡を容認しているわけでは有りません。
> たんに因果関係を示しただけ。

「銃・病原菌・鉄」は、上巻の半分くらいまでよんでその後
時間がなくておいたままにしてあるので、まちがっているかも
しれませんが、今西錦司の高弟である梅棹忠夫の『文明の生態
史観』(中公文庫)や中尾佐助の『栽培植物と農耕の起源』
(岩波新書)に着眼点がよくにていると思いました。

脱線ですが、梅棹忠夫の『文明の生態史観』は僕が高校生の
ときによんで感激し、とても影響を受けた本です。この本を
批判的にのりこえようと試みて最近注目を集めた(と思われる)
本に川勝平太『文明の海洋史観』(中公叢書)があります。
とても面白い本ですが、「歴史観について」という章で
「ダーウィンとマルクス」のパラダイムを批判して今西錦司
をたたえている部分にはかなりナンセンスな議論がふくまれて
いると思いました。むしろこの部分はもっと「ダーウィン化」
するべきだというのが僕の考えで、その意味でダイアモンド
の本に注目しています。この話題に興味をおもちのみなさん
には、梅棹本、川勝本をあわせておよみになることをおすすめ
します。参考までに、僕は登山家、探検家としての今西錦司
は面白いと思っており、感情的にはきらいじゃありません。

僕が日本の動物社会学と欧米起源の社会生物学を「意外に
近い」と感じるもうひとつの理由は、僕が昆虫の社会の勉強
をしたことにありそうです。社会生物学を提唱したウィルソン
はアリの研究者です。日本ではこの分野は昆虫社会学と
しておこなわれてきました。この分野でも日本は世界的な
学者を輩出していますが、それらの研究は欧米の昆虫を
研究対象とする社会生物学者たちからも高く評価されて
います。たとえばハナバチの社会の研究で世界的に知られ
た坂上昭一は、今西錦司の影響を受けていますが、一方
では著書のなかで血縁淘汰説のハミルトンを「ビリー」
と親しげに呼んだりしています。またハミルトンも坂上を
とても尊敬していたそうです。

その分野をうみだした文化が異なっていようもと、自然を
対象とする科学研究としておこなわれる以上、それらを
になう研究者集団の見解は次第に収斂するのが当然だし、
そうなるのがのぞましいというのが僕の基本的な考えです。



Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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