[BlueSky: 2754] Re:2752 洗濯用石けんについて


[From] Akifumi Murase [Date] Tue, 16 Jan 2001 02:32:16 +0900

邑瀬です。鈴木さん、こんにちは。

Mitsuru Suzukiさん:
> 「あるプランテーション。落下した衝撃で散らばった果実をはき集め、それを自分の
> 胴体ほどもある袋に入れてかついだり、工事用一輪車で運ぶ5歳と9歳の姉妹がい
> た。ボロボロの服を着て、(以下略)

これはヤシ農園に限らず、東南アジアでは残念ながら珍しい話ではありません。
バナナ、エビ... 長い目で見たとき、儲けるのはいずれも外資系の商社であり、
実際の労働者ではないですね。(ヤシ農園の話も確か昨年本で出ていましたが、
書名を失念してしまいました。なお、食品全般の概論的な本としては、「現代
たべもの事情」山本博史著(岩波新書)がお奨めです。)

ただ、私のいる土壌学の世界では、マレーシアなどのヤシ農園は「持続的」で
あるといわれています。ヤシ農園は熱帯林を伐採して作るわけですが、油ヤシ
は有名なココヤシと違い葉が茂り地面を十分に覆うので、雨による表土の流出
が他の作物に比べて起きにくいそうです。つまり、畑や牧草地として切り開く
のではなく植林しているのと同じ。高く売れる商品作物でもありますし、ほか
の作物と比較するなど総合的に考えると、油ヤシの栽培が特に悪いとは思わな
いです。

実はヤシ油のほとんどは洗剤ではなく食品に使われています。例えば、食品産
業の揚げ物にはヤシ油が多く使われているので、お昼にハンバーガー屋でフラ
イドポテトを買かったり、夜食にインスタントラーメンを食べれば、洗剤の場
合と同じことをしていることになります。

自分が良いと思って選択したことに実は問題があった。記事を読まれて本当に
ショックだったとお察しします。しかし、劣悪な労働の問題は特に生産の場で
はよくあることです。(肯定しているわけではありません。)また、禿げ山や
先住民との対立などは、最近の急激な需要増に答えるため(悪く言えば、儲か
るから)、伝統的栽培に詳しくない人々が新規に参入したり、手をつけてはい
けない土地に入り込んだりしたために起こった問題でしょう。つまり、我々の
一つのブームが末端の現場に影響したということです。

教訓として、ブームすなわち"急激な"変化自体が実は環境に負荷をかけるもの
です。記事を読んで多くの人が洗剤の使用をやめれば、今度は商品が市場にだ
ぶつき、価格が低迷して、結果としてもっと多くの労働者たちが職を失うこと
になります。一部の人は焼き畑にはしるかもしれません。(焼き畑も本来は持
続的な手法です。)

我々にできることは、一つの情報で集団の行動が一気に変わるようなことがな
いよう、個々人がいろんな情報から最良と判断されることをしていくことだと
思います。いろいろな立場の人が集まるこのような場が益々大切になってきま
すね。
--
邑瀬 章文 (MURASE, Akifumi)
合資会社副産科学研究所 代表


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