[BlueSky: 271] Re:269 Ecophobia


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 03 Aug 1999 14:08:25 +0900

中澤です。

後藤さん:
> エコ・フォビアを、より批判的な(冷静な)視点で検討すべきである(↓)とい
> う問題提起として受け止めましたが、「フォローアップがなされなければならな
> い」というのは極論のような気がしますが、どうでしょうか?

ぼくが最も言いたかったことは,
> > だからといって,「子どもに環境問題の提示をするべきではない」
> > と結論するのは尚早と思います。むしろ,「ターザンごっこの
> > できる町」と両方与えるべきではないでしょうか。目隠ししたって,
> > 問題がなくなるわけではありませんから。
にあります。「なされなければならない」というのは学問的な意味で
因果関係をいうための必要条件であるということだけをいいたかった
ので,それ以上の意味はありません。

> > 自然保護・環境保護の活動家に,幼い頃自然に親しんだ人が多い
> > というアンケート結果が,エコ・フォビア仮説の根拠の一つとして
> > あげられているのは,論理的には飛躍があります。
> どういうアンケート結果か教えてもらえますか?
具体的に集計結果が出ているわけではないのですが,次のように
書かれています(出典:川端裕人「動物園にできること」文藝春秋1999)

ケイティたちは,まず,米国内のナチュラリストや環境団体の活動家な
ど,自然を護る活動をしている人々に彼らの子ども時代に関するアンケ
ートを送付して,その一般的な傾向を探ろうとした。その答えは──

「彼らの多くは小さい頃に,親や兄弟といった指導者と一緒に,安心で
きる環境で森や川で遊んだ経験を持っている人たちだったの。そのこと
を通して,地元の自然に触れ,情動的な部分で一体感を感じるようにな
ることが,のちに熱帯雨林や遠くの湿地も護りたいという情熱につなが
っていくのではないか,それがわたしたちの今の仮説なの。(後略)」

これも,厳密に言えば,対照集団がないのでなんともいえません。
小さい頃から自然に触れていた人の割合が,活動家でない人に比べて
活動家で高いというのでなければ,この仮説を支持する論理構造には
なりません。

まあ,経験上肯けるので,そこは置いておくとしましょう。
(ぼくは東京生まれ東京育ちですが,それなりに自然の中で
遊んで育ちましたし,それが今の考え方に影響していることは
たしかです。)

しかし,これは,活動家(でなくともいいのですが,積極的に環境保護
に関わろうという人)の素因を示した結果でして,「環境問題を提示され
続けるとエコ・フォビアになる」という命題とは,論理的には無関係です。
補強事実のようにDavid Sobel論文でも使われていますが,そこに飛躍が
あると思うのです。自然に親しみつつ,環境問題を知れば,「この自然を
維持するにはどうしたらよいか?」と考えるのではないでしょうか?

そこで無力感につながるか,積極的態度を育てるかは,指導次第,仲間
次第,社会の雰囲気次第(つまり,広く言えば文化次第)ではないかと
思います。

> 僕が環境教育において最も恐れることは、環境問題が複雑で総合的な問題である
> のに対し、思春期前のこどもにとって、本来の問題関心が、より広い社会ではな
> く身の回りの社会だけなのだ、というギャップです。
ですから,身の回りの環境問題,でいいと思います。

> したがって、特に「小学生と環境」という点では、あくまでもローカルな課題で
> 「楽しむ=遊ぶ=学ぶ」という視点が重要だ、と思っています。
それはもちろんです。でも,問題があれば,それを意識することは
決してマイナスにはならないと思うんです。うーん,発達段階にも
よるでしょうが。小学校高学年なら,ただ楽しむだけでなくても
いいのではないでしょうか?

> ・・・「成績評価」や「総合的な視点」を導入すると、本来の子供の素直な問題
> 関心と現実の問題とが遊離し、環境問題について「頭でっかち」の態度を
> 養成してしまうのではないか、ということです。
この懸念はわかります。基本的に,点数をつけることには意味がない
と思っていますので。こういう科目でも成績ってつくんですか?

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[操作ガイド]http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/helpml.html


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