[BlueSky: 2158] Re:2137 ケナフ


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 18 Jul 2000 20:39:41 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 2137] Re:2135ケナフに於て)
Mon, 10 Jul 2000 19:10:41 +0900頃,Hisao Fujii(藤井久雄)さん:
>  従って、危険性があるなら、科学者が、感情的警鐘を鳴らしてばかりいるので
> なく、どのくらいの危険性があるかを科学的客観的に予測して明らかにし、措置
> を提言していくことが望まれると思います。
この点はまったくその通りだと思います。
無批判に,あるいは「環境にやさしい」と広報する目的で
のケナフ栽培が安易に進められすぎているという懸念から,
警鐘を鳴らさねばならないという責任感が生じたように
思います(わが身を振り返ってみると)。とくに一度
帰化してしまった場合に,ケナフが他の植物の成長を
抑制する物質を出している可能性が指摘されていること
(Russo VM, et al. (1997) Kenaf extract affects
germination ... _Industrial Crops and Products_,
6: 59-69.)を考えると,生態系へ与える影響が大きそうだ
と思われるので,慎重に考えざるを得ません。

しかし,データに基づかない批判では無意味な(ときには
有害でさえある)ことは,藤井さんのおっしゃる通りです。

>  また最近、「科学」誌 6月号にケナフ批判記事
>(http://www.iwanami.co.jp/kagaku/jiji200006-2.html
> が載りましたが、その記事内容もjeconetの投稿がかなり元になったもので、ケ
> ナフのマイナス面を一方的に喧伝したものになっています。特に
> > また,ケナフの収量が在来植物より劣るという報告もある.調査によると,
> > 平均的なケナフの収量(4〜5t/ha)はヨシなどの在来植物(10t/ha)よりも低く,
> > 一部のケナフ普及団体が推進するように在来の植生をはぎ取ってケナフを植
> > 裁してしまうと,“環境にやさしい”という言葉を借りた生態系破壊になり
> > かねない.
> という一節は、jeconetの山本聡子さんの投稿が出典で、このケナフ収量は上越
> 市の職員からの伝聞情報で、「(運搬時、天日乾燥後)」とのことなので葉の重
> 量が入っていない可能性等ヨシと比較する上で十分と言えない点もあるかもしれ
> ませんし、また新潟県上越市というおそらくは生育期間の短い日本海側のどちら
> かといえば寒冷地の、生育期間のどちらかと言えば長いケナフにとって不利かも
> 知れない市での1栽培実績の数字をもって「平均的なケナフの収量」と書くのは
> 明らかに不正確のように思います。
Science Citation Indexをkenafで検索してみましたところ(いずれも要旨しか
読んでいませんが),

1995年と1997年に北イタリア2都市(ボローニャとミラノ)の灌漑地域で
麻,ケナフ,トウモロコシ,ソルガムという4種の繊維作物の収量を比較
したデータがありました。乾燥重量でソルガムが26.2 t/ha(うち茎が18.1
t/ha),トウモロコシが19.0 t/ha(うち茎が10.8 t/ha),ケナフが15.7 t/ha
(うち茎が13.4 t/ha),麻は14.0 t/ha(うち茎が10.9 t/ha)だったという
ことです。ただし1995年のボローニャでは麻は不作だったそうですが。
なお,どの作物も灌漑地の方が天水地より7%バイオマスが多かったそうです。
(出典)Amaducci S, et al. (2000) Crop yield and quality parameters ...
_Industrial Crops and Products_, 11: 179-186.

ギリシャ中央部でのケナフ7品種(early maturity3品種=PI 3234923,
PI 318723, PI 248901;late maturity4品種=Everglades 41, Everglades 71,
Tainung 2, JT1)の作付け結果では,乾燥重量にして9.40 t/haから23.95 t/ha
だったというデータがあります。
(出典)Alexopoulou E, et al. (2000) Growth and yields of kenaf varieties
in central Greece. _Industrial Crops and Products_, 11: 163-172.

生育に適しているとされるフロリダでは,乾燥重量で27.1 t/haとか15.2 t/ha
とか18.1 t/haとか29.8 t/haとかいうデータが出ています。
(出典)Stricker JA, et al. (1997) Yield of kenaf grown ... _Soil and
Crop Science Society of Florida Proceedings_, 56: 35-37.

収量は品種によっても場所によっても年によっても変動が大きいそうですが,
藤井さんご指摘のとおり,4〜5 t/haが平均というのは,あまりに過小な値と
思って良さそうです。

ほとんどすべての環境問題,環境保護問題は,メリットとデメリットの
すり合わせによって妥協点を探るしか解決策(収拾策というべきかも
しれません)はないように思います。すり合わせの際に正確なデータが
必要なことは明らかで,偏ったデータや誤った解釈は有害だと思います。
これは自然科学的データに限らず,人文・社会科学的データについても
同様で,恣意的な世論調査の解釈だけが部分的に引用されたりして
言説を作っていくのは困りものです。このMLでも繰り返し指摘されてきた
ことですが,すべての市民が合理的に判断できるような能力を身に付け,
信頼できるデータが十分に公開されることが必要なのだと思います。

★まとめページ http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bssummary.html#14
にケナフ関連の議論を追加しました。フォローするのに便利かと思います。
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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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