[BlueSky: 2137] Re:2135 ケナフ


[From] "Hisao Fujii(藤井 [Date] Mon, 10 Jul 2000 19:10:41 +0900

小宮様、皆様
森林総合研究所 企画調整部 部付 藤井 久雄

 小宮様、お返事有り難うございます。

On Sat, 8 Jul 2000 00:29:35 +0900
can32960@pop07.odn.ne.jp (yuichiro) wrote:

> こんにちは、以下のURLの紹介をした小宮です。
>
> > ご紹介のあった森林総合研究所植物生態科のWebページ(
> >http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/peco/index.htm
> >の「よくある質問と回答」ページの内容には、明らかな誤謬点や偏りがあって、
> >とてもこの状態で公開していて良いものとは思えず、しかも森林総合研究所植物
> >生態科長等に再三申し入れをしてもなかなか訂正がなされませんので、勝手に誤
> >謬点の指摘記事を書かせていただきます。問題点と思っていますのは、次のよう
> >な点です(同じページのケナフ以外の部分についても若干記載します)。
>
> 藤井さん、詳細な御説明ありがとうございました。恐らく、ケナフの
> 問題も一面的に良い/悪いと決めつけられるものではないのでしょう
> ね。現存の生態系のことを何も考えずにケナフを植えるのもどうかと
> 思いますが、だからといってケナフを完全に悪者と決めつけて将来の
> 有効利用の可能性までつみとってしまう必要もないと思います。もし
> 森林保護に役立つ可能性があるのであれば、帰化しないよう注意して、
> きちんとした研究機関でその可否を検討すればいいのではないでしょ
> うか。以上、素人の感想でした。

 色々な議論は有って良いと思いますが、「ケナフを完全に悪者と決めつけ」た
ような偏った文章をそれも科学者が書くのは問題があるという趣旨で、先の投稿
は書いたものです。

 先にも書きましたように、途上国栽培は別ですが、日本の空き地や休耕田で植
えることについては、それによりパルプ輸入を減らせるならば、オーストラリア
のコアラの住む原生林の保護や、タイにおける農地へのユーカリ植林の問題を減
らすことにつなげられるはずで、そもそもケナフを日本で栽培しようと言う理由
の大きなものはそれだったはずです。そのようなことを考慮もせずに、しかも国
の森林総合研究所の植物生態科が「ケナフを完全に悪者と決めつけ」たあのよう
なページを書くなんて、許されないことで、同じ研究所の人間として大変恥ずか
しいことですし、内容も基礎的な誤りが多く、とても研究者が書いたレベルのも
のとは思えません。

 他方、日本における現状のケナフ栽培にもまだ思うようにいかない点も多いら
しく、重量の割にかさばりまた引き受けてくれる製紙工場が少ないので運搬・保
管等にコストがかさむ(製紙工場でユーカリのような比重の高い材が原料に選ば
れるのもこの辺に理由があるそうです)、環境教育として行われる場合には、外
側の靱皮繊維の部分しか使わない場合が多いため無駄が出たり(製紙工場で製紙
する場合には心の部分も含めて茎全体が利用されるのが通例だそうです)、水酸
化ナトリウムで繊維を取り出す場合には薬品処理等に面倒が出る(これも環境教
育の場合にのみ問題になることですので、水につけて腐らせる方法で繊維を取る
等で回避する手もあります)、台風等で折れる等の問題点が指摘されているよう
です。

 帰化の問題も指摘されている問題の1つですが、詳しい危険性の情報がまだ得
られていない様に思います。反対している人の意見を聞いても、ケナフが特に危
険だと言われている理由は、成長が早く背が大きくなる(セイタカアワダチソウ
のようなことになったら困るということだと思いますが、種子散布能力や繁殖能
力がどうかがわからいとどのくらい危険か分かりません)、耕作地以外の所にも
植えられる(もし逃げ出してしまえばどこに植えても似たようなものでしょう)、
沖縄・奄美等では帰化する可能性が十分ある(帰化するなら植えてはいけないと
言うことではありません。お茶だって梅だってニセアカシアだってセイヨウアブ
ラナだってセイヨウカラシナだって皆日本で雑草化していますけど植えてはいけ
ないと言う人はまずいません。帰化する可能性だけでなく帰化した場合にどのぐ
らい広がりどのくらいの影響が考えられるのかも論じる必要があります)、既存
のヨシ等と立地が似ておりヨシ等の生息場所を奪う可能性があるといった現状
http://www.ne.jp/asahi/doken/home/charoko/kenaf/index.htm)のようで、
どのくらい危険性があるのかがはっきりしません。このWebページの姿勢など見
ていますと(明らかに科学的に間違っている前記森林総合研究所植物生態科Web
ページへも肯定的にリンクが張ってありますし)、科学的な客観性を欠いた感情
論になってきているような印象を受けます。「ケナフは,いまのところ経済効果
や実際のCO2削減,製紙による森林保全効果などよりも,教育的な啓蒙のシンボ
ルとしての役割が重要そうに見える」程度のメリットしかない(
http://www.ne.jp/asahi/doken/home/charoko/kenaf/koike.htm)と書かれると、
確かにケナフの日本での大規模利用を阻んでいるのはご指摘の「経済効果」とか
いうコスト問題でしょうけど、日本の植生に変化が有るかも知れないと言って安
易なケナフ栽培に反対し、他方オーストラリアでユーカリを伐ってコアラの生息
地を奪っている現状が、自然保護・環境保護なのかと考え込んでしまいます。

 雑草化した場合の生態系への影響を軽視して良いと言うつもりはありません。
しかし、未だかつて雑草化を理由に導入を見合わされた栽培植物というのは無い
と思いますし、植えもしない外来雑草が日常ものすごい数日本には侵入していま
す。遺伝子組換え植物以外は、防疫上問題のないまた麻薬にもならない外来植物
を植えることに法的には何も規制は無いと思います(雑草化問題どころか食品安
全性問題でも、放射線育種等で作った突然変異作物でさえ、植えるのにも食品と
して販売するのにも、規制がないのではないかと思います。どこを組み換えたか
分かっている作物には規制があるが、人為的に突然変異を起こしながらどこがど
う変異したかわからないものには規制が無いのですから、これは大変に問題なこ
とだと思います)。環境アセスも、一定面積以上の指定された開発以外は、アセ
スメント責任はありませんから、植えることへの環境アセスメント責任等も法的
には植える人に無いと思いますし、専門家でもないNGOや環境教育者がそのよ
うなアセスメントを行う能力も資力もないでしょう。

 従って、危険性があるなら、科学者が、感情的警鐘を鳴らしてばかりいるので
なく、どのくらいの危険性があるかを科学的客観的に予測して明らかにし、措置
を提言していくことが望まれると思います。

 生態学メーリングリスト(jeconet)での議論では、危険性についてのケナフ
の生態学的特性についての科学的議論があまりなされないままに、多量の危険性
指摘や、「‘二酸化炭素吸収に役立つとも言われる’というのは間違い」といっ
た偏った議論(現状では製紙原料等にしかなりませんが、将来セルロースのバイ
オマス利用等が実現すればケナフもその1候補作物になるかも知れません)もさ
れてきました。

 また最近、「科学」誌 6月号にケナフ批判記事(http://www.iwanami.co.jp/kagaku/jiji200006-2.html
が載りましたが、その記事内容もjeconetの投稿がかなり元になったもので、ケ
ナフのマイナス面を一方的に喧伝したものになっています。特に
> また,ケナフの収量が在来植物より劣るという報告もある.調査によると,
> 平均的なケナフの収量(4〜5t/ha)はヨシなどの在来植物(10t/ha)よりも低く,
> 一部のケナフ普及団体が推進するように在来の植生をはぎ取ってケナフを植
> 裁してしまうと,“環境にやさしい”という言葉を借りた生態系破壊になり
> かねない.
という一節は、jeconetの山本聡子さんの投稿が出典で、このケナフ収量は上越
市の職員からの伝聞情報で、「(運搬時、天日乾燥後)」とのことなので葉の重
量が入っていない可能性等ヨシと比較する上で十分と言えない点もあるかもしれ
ませんし、また新潟県上越市というおそらくは生育期間の短い日本海側のどちら
かといえば寒冷地の、生育期間のどちらかと言えば長いケナフにとって不利かも
知れない市での1栽培実績の数字をもって「平均的なケナフの収量」と書くのは
明らかに不正確のように思います。

 いずれにせよ、ケナフの生態系への悪影響危険性については、生態学者等が感
情的にならずに科学的・客観的に予測評価をして欲しいと思います。
 また、専門家が一方的に客観性を欠いた偏った言論をするのは謹んで欲しいと
思います。ことこの問題に限らず、専門家が自分の利益や研究費や所属する集団
の利権や業界・官界との癒着等から偏向した言動を行うことが多すぎると思いま
す。そのようなことで、専門家のアセスや委員会がちっとも正しい結論を出さず、
市民がコンセンサス会議でもやった方がずっとましという現状にはうんざりして
います。

 以下余談になりますが、前記森林総合研究所植物生態科Webページの大部分を
書いた垰田宏植物生態科長は、酸性雨・樹木衰退問題でも、「関東地方のスギだ
けに衰退傾向が残っている」とか「東北地方には樹木衰退は無い」とかの真っ赤
な嘘を書きふらして、林野庁酸性雨等森林被害モニタリング調査事業や林野庁の
偏った姿勢を形作っている責任者の一人です(この辺の詳しい説明・やり取り等
http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/kaigi.htm#sanseiなどご参照下さい)。
こういった森林総合研究所や学会の偏りのせいもあって、林野庁は、これだ
け全国的に広域化・深刻化している樹木衰退に対し、酸性降下物との因果関係を
恣意的に認めようとせず何の対策も取らないばかりか、最近は、昨年の林業白書
では樹木衰退そのものが起きてもいないかのような記述すらなされ、(私が事務
局を務めています森林NGO緑友会でも抗議をしましたら)今年の林業白書では
白書から樹木衰退の字そのものが姿を消してしまいました。

 実際の森林では、衰退は北海道・東北から西日本まで広域化して、亜高山等で
の枯死、低地のスギ・ヒノキ・マツ等造林樹種を含む大部分の樹の葉量減少、気
象害・病虫害等の多発(近年の風倒木やマツ枯れ・ナラ枯れ等は樹勢の弱りが背
景に有って起きていることが多いと考えられます)等の深刻な影響が起きている
にもかかわらず、また、石灰岩地での非衰退や強苦鉄質基岩地での少衰退、石灰
過用農地周辺やアルカリ性物質降下地での樹勢回復(大部分、藤井・大気環境学
会口頭発表)等からも、土壌酸性化がその主原因で有ることは明らかであるにも
かかわらず、何の対策も取ろうとせず、林野庁酸性雨等森林被害モニタリング調
査事業に千点以上の調査地を設け多人数の都道府県林試の研究者を関わらせて、
上記森林総合研究所垰田科長や立地環境科長その他森林環境部の研究者が設定・
指導にあたって恣意的設定・取りまとめを行い、「東北地方には樹木衰退は無い」
とかの全くの絵空事のような嘘を報告し続け税金の大無駄使いを重ねてきていま
す。

 今回の、ケナフ等についての無茶苦茶な植物生態科Webページも、上記酸性降
下物・樹木衰退問題の虚偽も、森林総合研究所の腐敗状態を端的に表している出
来事として、大変に問題だと思います。



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Hisao Fujii (fujiihi@ffpri.affrc.go.jp)
Forestry and Forest Products Research Institute
Ibaraki, Japan TEL 0298-73-3211(ext475)
森林総合研究所・企画調整部 藤井久雄(内線475)
 森林・林業・自然と研究環境を守るNGO緑友会
 (http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/)事務局
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