[BlueSky: 2106] ウイルス進化論


[From] "Y.Kuzunuki" [Date] Fri, 30 Jun 2000 16:13:25 +0900

こんにちは、葛貫です。

小宮さん【2103】:
>いくらリスクとベネフィットの比較といっても、どれほど大きなリスクが
>あるのか分からないので、適用には慎重な議論が必要だと思います。

リスクについては、「やってみなきゃ、わからない」が正直な所なのでは
ないでしょうか。

以前に「ウイルス進化論」ーダーウィン進化論を超えてー
(中原英臣・佐川峻;早川書房,1996)という本を読んだことがあります。

「ウイルス進化論」とは、ある個体の遺伝子が、他の個体へとウイルスを
介して移動し、その個体の子孫でなくとも、ある個体の性質を引き継ぐ
ことがあり得る。従来からの親子間の「垂直遺伝」のほかに、ウイルスに
よる「水平遺伝」があり得る、というものです。

赤痢菌に溶原化していたファージの中に、赤痢毒素遺伝子が、いつの
時点からか組み込まれ、溶菌サイクルに入り、ファージが菌体外に飛
び出す。それが、遺伝子の類似性からみれば赤痢菌の同族と考えら
れる大腸菌に感染し、そこで溶原化することにより、ベロ毒素産生大腸
菌(O157)に変えてしまう 。O157を取り込んでしまった人の腸内の条件
により、O157の発育やベロ毒素遺伝子の活性化、更にはファージ遺伝
子全体の溶菌サイクルへの転換などが起こり、作り出されたファージは
周囲の正常大腸菌へと感染し、ベロ毒素産生菌の大量発生につながる。
という、とても嫌な実例を思いついてしまいました。

ベクターにファージを用いた遺伝子操作は、このような水平遺伝を起こ
す危険性はないのでしょうか。
ベクターとして用いるファージの宿主特異性の幅とか、ファージ自体の
変異しやすさを評価しなければ、何ともいえないと思うのですが、もし、
ベクターが宿主からでて行く事態が発生し得る場合、組み込み時に持
って入った遺伝子だけではなく、近隣にある遺伝子までくっつけてでて
きて、宿主の同族に感染してしまう可能性はないのでしょうか。

開放系で用いると、制御不能な事態に陥るのではないか、心配です。





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