[BlueSky: 2099] 本の紹介:池内了「わが家の新築奮闘記」


[From] Minato Nakazawa [Date] Thu, 29 Jun 2000 21:27:20 +0900

中澤です。

表記の本を昨日の帰りの新幹線で読み始めたのですが,あまりに面
白かったので今日の行きの新幹線で読みおえてしまいました。

池内さんは宇宙物理学者なのですが,新聞のコラムで1997年5月に
「核燃サイクル構想の終焉」という記事を書いて,「太陽電池パネ
ルをわが家の屋根に取り付けることに決めて,各社のパンフレット
を取り寄せている」と宣言してしまった反響が大きかったことから
後に引けなくなってしまい,家の診断をしたら10年しかもたないと
いわれたことが,新築のきっかけだったそうです。

環境にやさしくとかバリアフリーとかいろいろ考えながら,大工さ
んや設計士さんと人間的な交流を重ねつつ「家」というものができ
るまでを綴ったストーリーは,ノンフィクションの読み物として一
読の価値があると思いますが,なかでも共感したのは,LCA的な発
想です。

池内さんは,太陽光発電がプラスかマイナスかということをまず検
討するわけですが,一般に考慮される金銭的な損得勘定では故障な
しで25年動いて初めてペイすると言った後で,この損得勘定には物
価変動が考慮されていないことや,現在の発電所から電力を買う費
用には廃棄物処理が加味されていないことを指摘し,電気代ベース
でなく,太陽光パネル製作のために投入したエネルギーとパネルが
壊れるまでに太陽光発電によって取り出せるエネルギーの大小を比
較すべきであるといって,Energy Pay-back Timeをあげています。
長めにみても(パネルのシリコン結晶方式によって違うらしいで
す)10年もてばプラスなのだそうです。

同様に考えると,二酸化炭素ペイバックタイム(パネル製造が火力
発電で供給されたエネルギーを使っていた場合の発生二酸化炭素量
と,それは火力発電所で排出される二酸化炭素量の何年分である
か)を考慮する必要があって,石油火力の6年分に相当するので,
やはり10年もてばいいと主張されています。
(注)本文には二酸化炭素ペイバックタイムとしてこのように書か
れていますが,「火力発電所で排出される二酸化炭素量の何年分で
あるか」という文章は,おそらく,「太陽光発電をしなかった場合
の消費電力を火力発電からまかなった場合に発生するはずの二酸化
炭素量の何年分に相当するか」という意味だと思います。

池内さんは風力発電については触れていませんが,もし知ったら当
然関心をもたれるだろうと思いました。話をしてみたいと思いまし
た。青空MLに入ってくれたらなあ,と思うのですが……

● 書誌情報
池内了「わが家の新築奮闘記」晶文社,1999年2月25日初版
税別1900円,ISBN4-7949-6386-6

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。