[BlueSky: 203] Re:174 BSTに関するURL


[From] Minato Nakazawa [Date] Thu, 29 Jul 1999 15:38:03 +0900

中澤@東京大学人類生態です。こんにちは。

いろいろrecombinant bovine somatotropins(遺伝子組み換えウシ成長
ホルモン)の情報ありがとうございました。>小宮さん。

小宮さん:
> これらを見る限りにおいては、遺伝子組み替えによるBSTには安全上問題
> があるとはいえません。合成BSTの問題点はむしろ、なぜ天然で完全な
> 食品であるものに、人為的な操作を加えなくてはならないのか?牛乳の
> 供給は需要に対して過剰なのに、なぜ合成ホルモンが必要なのか?企業の
> 利益のみで消費者には何のメリットもないものを、なぜ受け入れねばなら
> ないか、といった多少倫理的問題にもからむ所にあるように思えました。
そうですね。この問題の場合は,組み換え技術そのものに
危険があるというよりは,ホルモン投与という手段で牛乳
生産を増やすことが必要かどうか,という経済的・倫理的
側面が強いようですね。外部からホルモンを投与すれば,
それが遺伝子組み換えによるものだろうが,天然のものを
抽出したものだろうが,生体に大きな影響が出るのは当然
ですから,論点は組み換えということではないように思います。

遺伝子組み換え食品の問題点については,以前紹介したPSRASTという
団体による10項目のまとめ(http://www.psrast.org/decl.htm#scifacts)
があります。項目だけ列挙しておきますと(私訳),

1) 遺伝子工学は基本的に育種と異なる。
2) 今日の遺伝子工学は技術的に未熟である。
3) 予期しない,新しい物質ができてしまうかもしれない。
4) 完全に信頼できる安全性評価方法が存在しない。
5) 安全性評価の現在のルールは,ひどく不適当である。
6) 高度に発展した遺伝子組み換え食品は,人間にとっての重要性をもたない。
7) 生態的影響についての知識がきわめて不完全である。
8) 新しい,危険な可能性があるウイルスが出現するかもしれない。
9) 遺伝物質,DNAについての知識は,きわめて限られている。
10) 遺伝子組み換えが世界の飢えを減らす助けになるだろうという主張は,
科学的証拠によって支持されていない。

1)を説明しておきますと,育種の場合,遺伝子がランダムに挿入されるわけ
ではないので,元からもっていた遺伝子配列は乱れないけれど,遺伝子工学
ではそれが起こるので,どういう影響が起こるか予測不可能であって本質的
違いがあるということだそうです。

5)は,安全性検査の感度が低いから健康に害をなす食品を見逃すかもしれない
ということです。ただし,ぼくは,短期間で信頼できる安全性評価をすること
自体が原理的に不可能と思いますが。

6)は,商業的価値があるだけだ,と続いています。

10)も6)と通じますが,食物の絶対量が不足しているのではなく,貧困が飢えの
原因だからという論旨のようです。

食品としての遺伝子組み換え産物については,1)から3)がもっとも
本質的問題で,これが99%解決されたような枯れた技術になったら
従来の育種と同等に見ることができると思います。
しかし,食卓にのぼる前には,自然環境中に存在するのですから,
7)や8)の問題にも答えられないとまずいわけで,解決は難しいよう
に思います。

=====
以下はbSTの参考資料です。例によってabstractしか見ていませんが。

1) Etherton, T.D. and D.E. Bauman (1998) Biology of somatotropin
in growth and lactation of domestic animals. Physiological Reviews,
78: 745-761.
☆家畜の成長と乳汁分泌に成長ホルモン投与が与える生物学的影響のレビュー。

2) Huber, J.T. et al. (1997) Administration of recombinant bovine
somatotropin to dairy cows for four consecutive lactations.
Journal of Dairy Science, 80: 2355-2360.
☆ホルスタイン39頭に遺伝子組み換えbST 500 mgを2週間ごとに注射したら
同間隔で偽薬を打った対照に比べて,ミルク生産量が平均して14%多く,
体重増加が37%多かったという論文。副作用にはabstractでは言及されて
いません。

3) Centner, T.J. and K.W. Lathrop (1997) Legislative and legal
restrictions on labeling information regarding the use of
recombinant bovine somatotropin. Journal of Dairy Science, 80: 215-219.
☆乳および乳製品に,組み換えbST投与したウシからのものかどうかを
任意表示することについてのFDA見解の話らしいです。
小宮さんが紹介してくださったサイトの4番目にある話が詳しく書かれている
ものでしょう。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
【過去ログ】http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bluesky2.html
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