[BlueSky: 2025] ダイオキシンと出生性比


[From] Minato Nakazawa [Date] Thu, 01 Jun 2000 16:45:37 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

昨日の夕刊に報じられていましたが,Lancetという医学系の一流誌
の最新号に,19歳未満でダイオキシンに曝露した男性の子どもには
女の子が多いという論文が掲載されました。これまでも,ダイオキ
シン曝露が出生性比に影響するというデータはときどきありました
が,これほどはっきりしたものは,たぶん初めてだと思います。

だからといってダイオキシンだけに過敏反応をしても仕方がないの
でしょうが。

参考までにSourceとSummaryの私訳をお送りします。
=====
Paolo Mocarelli, Pier Mario Gerthoux, Enrica Ferrari,
DonaldG. Patterson Jr., Stephanie M. Kieszak, Paolo
Brambilla, Nicoletta Vincoli, Stefano Signorini, Pierluigi
Tramacere, Vittorio Carreri, Eric J. Sampson, Wayman E.
Turner and Larry L. Needham (2000) Paternal concentrations
of dioxin and sex ratio of offspring. _Lancet_, 335:
1858-1863.

背景:2,3,7,8-テトラクロロディベンゾ-p-ダイオキシン(TCDDま
たはダイオキシンと呼ばれる)は,人間が作り出した中で最も毒性
が強い物質であると一般に考えられている。我々は既に,イタリア
のセベソで,両親の血清TCDD濃度が高いことと,1976年に流出した
ダイオキシンに両親が曝露した後で生まれた女性の数が相対的に増
加してきたこととの関連を示してきた。その後,子どもの性比に両
親の性や曝露時の年齢が影響しているかどうかをはっきりさせるた
めに,その研究を継続してきた。

方法:1976年と1977年にダイオキシンに曝露した可能性がある両親
からの血清サンプル中のTCDD濃度を測定し,その子どもの性比を調
べた。

新知見:血清サンプルは男性239人と女性296人から集めた。1977年
と1996年の間に,彼ら曝露した可能性のある両親に生まれた,女児
346人と男児328人は,父親の血清サンプル中のTCDD濃度が高いほど
女児の出生確率が高くなる(性比が低くなる)ことを示していた
(p=0.008)。この効果は体重1 kgあたり20 ng未満の濃度で始まっ
ていた。19歳より若いときに曝露した父親は,男児より有意に多く
の女児をもっていた(性比0.38,95%信頼区間0.30-0.47)。

解釈:男性のTCDDへの曝露は,その子どもの男/女性比が低くなる
ことと関連していて,このことはおそらく曝露後何年たっても継続
して成り立っている。本研究の父親のダイオキシン濃度の中央値は,
ラットに精巣上体の損傷を引き起こす投与量と同等であり,工業国
のヒトで現在見られるTCDD濃度の推定平均値の約20倍である。これ
らの観察データは,公衆衛生的に重大な示唆をもっている可能性が
ある。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


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