大塚です
忘れてしまわれた方も多いと思いますが、[BlueSky: 1820]の続編で、
ようやく保護区へ出かけます。
人様へは「まずは INBioへ」と薦めましたが、私自身はサンホセ着の
翌々日の早朝5時頃のバスでサンタ ローザ(Santa Rosa)に出かけました。
ここと次に訪れたエル カカオ(El Cacao)は保全生態学では有名なジャ
セン(Daniel H. Janzen) が中心となって広げている一連の保護区に含ま
れています。
ジャンセンらが作ろうとしているのは大規模な「回廊(コリドー)」
です。
生物はその生息場所を分断されて、いくつもの狭い場所に閉じこめら
れてしまうと絶滅しやすくなります。けれども、それらがある程度つな
がっていると、生息地間の移動が容易になって、一つの生息場所でたま
たま絶滅しても他から移住できるために種全体の絶滅危険率が下がりま
す。
一方、複数の場所に保護区を置くことで、生態系の多様性や、種内で
の生息地間の多様性が守りやすくなります。
ジャンセンらはいくつかの保護区とそれをつなぐ地域をも保護して上
記の目的を達しようとしています。以前の須賀さんの投稿にあったと思
いますが、コスタリカでは、既に牧草地としてかなりの森が失われてい
ます。それらの牧場が現在ではかなり放棄されたり、赤字に苦しんでい
たりします。ジャンセンらはこのような牧場を買い取って元々生えてい
た植物を植えて二次的ながらも自然に近い植生を復活させています。
このように植生を再生した地域を点在する国立・私立の保護区をつな
ぐように作っていけば、生物のための回廊として機能すると期待されて
います。
ジャンセンは(多分)アメリカ出身の生態学者で、ラテンアメリカを
舞台に旺盛な研究を展開してきましたが、このところ保全に力を入れて
います。年に半分を合衆国で過ごして啓蒙や資金集めを行い、半分をコ
スタリカで過ごすという生活をしているそうです。合衆国では一般の人
にも有名らしく、たまたま出会ったアメリカ人旅行者が「コスタリカと
半々の生活をする学者」を知っていました。
サンタ ローザはジャンセンがコスタリカに滞在するときの家がありま
す。私たちはちょうど入れ違いでジャンセンに会うことができませんで
した。既に会っている櫻井さんによるととても気さくで親切に彼の研究
に協力してくれたそうです。
サンタローザは疎林です。森というより、雑木林といった感じの大き
さと密度で木が生えていました。
ごく一部の常緑樹を除き木々は葉を落として林床には落ち葉が重なっ
ていて、歩くとカサカサ・パリパリと乾いた心地よい音がします。まさ
に冬の雑木林を散歩しているような気分にひたれそうですが、重大な違
いが一つあります。
やたらと 暑い。
サンホセは標高1000mを超えていて涼しかったのですが、ここは数十
メートルしかなく、数キロで海です。熱帯の日差しがほとんど真上から
照りつけます。日本の落葉樹は冬が寒いので葉を落とすのですが、こち
らの落葉樹は乾燥するので葉を落とすのです。頃は乾期の終盤。あと一
月ほどで雨期が来る一番乾燥したときだったのです。以前は水の流れが
あったという川も完璧に干上がっていました。本やテレビでみた乾期と
いうものを実感しました。なにしろ午後になって洗った服が夕方には乾
いてくれました。
おかげで蚊などもほとんどいませんでした。ベッドのマットの下から
はサソリが出てきましたが。
夜灯火に集まる虫を見るのは結構楽しいものですが、さっぱり来ませ
んでした。
櫻井さんの研究対象はオトシブミ。甲虫のなかまで、新しい葉っぱを
巧みに折り畳んで幼虫のための食糧製の住みかを作ります。けれどもこ
の乾燥状態では、若葉など望むべくもありません。早々に見切りをつけ
て明日の朝にはエルカカオに向けて出発することになりました。
実質半日の滞在でしたが、面白いものもいくつか見ることができまし
た。銀色に光るアリ(直射日光の下を歩き回る数少ないアリでした)、
イグアナ、アカシアの仲間と共生関係を結んで、住みか(大きな中空の
棘)を提供してもらう代わりに虫などの外敵を攻撃するアリ(私も噛ま
れた)等など。
明日の朝はタクシーをチャーターしてエルカカオへと出発です。
大塚公雄
東京医科歯科大学
(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。