[BlueSky: 1984] Re:1981 少年犯罪


[From] Kimio OTSUKA [Date] Tue, 16 May 2000 11:19:59 +0900

医科歯科大の大塚です

 このメイルは一ノ瀬さん[1981]と同趣旨で少し補足するのを目的とし
ています。が、講義や日常生活でかいま見る学生・生徒の様子から教育
改革国民会議での河上委員の発言にあるような、「最近のこどもは少し
違う」かもしれないという印象も一方では持っています。(念頭にある
川上発言は http://www1.kantei.go.jp/jp/kyouiku/dai2/2gaiyou.html
の最初の方です)

>  犯罪白書のような、客観的な統計データを見る限り、少なくとも殺人事
> 件に限って言えば、少年犯罪は増えていません。

 長谷川真理子・寿一夫妻が最近その手の統計データを解析しています。
彼女らに聞いた話ですが、

・一般に青(少)年期に殺人を犯す事が多く、歳を取るとその頻度は下
 がる。
・そのため、年齢と殺人事件を起こす割合をグラフにすると、その年代
 にピークがある折れ線が書ける。
・この傾向は広くみとめられ、比較的安全なロンドンと比較的犯罪の多
 いシカゴでも折れ線の形状は同じである。
・日本のグラフは敗戦直後は同様の形をしていたが、だんだんピークが
 はっきりしなくなり、現在はなだらかな折れ線になっている。

 例えば昭和一桁とか、団塊とか1960年代生まれといった各々
の世代の
中では青年期に殺人を犯す確率が最高になるという傾向は共通している
そうです。しかし、そのピーク時の率が昭和10年代生まれを最大として
年々減少傾向にあるために上記のようになったということです。

 もしかしたらごく最近になって少し増加しているということもあるの
かもしれませんが、敗戦後の傾向としては「若い世代ほど人殺しをしに
くい」と言えるようです。

 喧伝される「多発する少年の凶悪犯罪」を受けて、教育改革国民会議
などにも提言が求められると思いますが、委員の方々には雰囲気に流さ
れず「自分たちの世代の方が人殺しを多く出している」という冷静な認
識を持って審議してもらいたいと思います。

 教育改革国民会議座長緊急アピール:
http://www1.kantei.go.jp/jp/kyouiku/0511appeal.html
では「青少年による衝撃的な事件が続いている。」で始まっていますが、
 教育改革国民会議 http://www1.kantei.go.jp/jp/kyouiku/
によると配付資料には犯罪の発生率に関する基礎的なデータが含まれて
いるわけではなさそうです。


 付録
 長谷川真理子さんには、進化とはなんだろうか(岩波書店)、雄と雌
の数をめぐる不思議(NTT出版)といった良くできた進化学の本があ
ります。最近は上記のような仕事の他に、生命表データの解析から戦前
に行われていた女性に対する差別が女性の死亡率を高めるほどであった
ことを明らかにしたりといった興味深い成果を挙げています。
 生命表の解析というのは元々生命保険などの必要から発展して生物学
(個体群生態学など)に取り入れられた経緯があるのですが、今度は動
物学者がその手法を使って人の社会を研究しているのですから面白いで
すね。

大塚公雄
東京医科歯科大学
(滞っているコスタリカ次回報告はやたらと乾燥したサンタローザです)


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