[BlueSky: 182] Re:155 ターザンごっこのできる町


[From] "Kaz. Yokoyama" [Date] Mon, 26 Jul 1999 18:02:58 +0900

後藤さん,MLのみなさん

和尚です。

以下後藤さんの問いかけ[BlueSky: 155]への長文の反応です。

>ちょっととりとめがないのですが、ここ帯広でもうだるような暑さ。この暑さに
>免じて、ごめんなさい。

それと,ここつくばは帯広より遙かに暑く,ゆで上がった脳味噌(鱈の白子状態)
での独白です。下らないとお思いの向きは消去して下さい。

>科学は真理の発見(知識や法則の発見)。いわゆる「科学技術」はテクノロジー
>という響きのある言葉で、「科学」とは大きく質の異なる言葉になっていますね。

 科学と技術を分けて論じる人がいますが,これは実質上無意味だと思います。
もっと素朴に「科学する心」のような探求心を言う場合は別でしょうが,私たちが
職業として行っている科学は当人の希望の有無に関わらず技術に直結します。
ですから,私は科学と技術は常にセットで考えています。

>科学は知識を創造して来ていますから、知的行為レベルでの「複雑度」や「知の
>多様度」は(西洋的知の世界総体として)着実に増加してきた、と思います。た
>だし、人類総体としての「知の多様度」は逆に減少して来ているのでしょう(主
>として西洋文明の侵略による土着民族文化の終焉などをイメージしています)。

 半ば同意します。
 というのは,科学が知識を創造するとき,往々にして同時に非科学的智を排除する
からです。私のイメージでは,これは夜の闇の中に光が灯る姿に似ています。原始,
我々は一日の約半分は闇の世界に生きていました。闇は無限でした。その闇の中
で人間は想像力を働かせ,闇の底を心に描いたことでしょう。描かれた世界は,厳密
に言って描いた人の数だけ有ったはずです。そしてそれが許される社会でした。

 そこに光が灯ったとします。光の中では闇は遠ざけられ,照らし出された世界を皆が
共有します。光によって闇の世界から,確かな知識を一つ手に入れ,同時に無数の
想像の世界を失ったのです。
 やがて人間は灯す光の数をどんどん多くしていったとしましょう。もう闇などどこにもない。
遠からず世界の全てを知ることが出来る。近代以降,文明の名の下に犯した私たちの
数々の過ち(環境破壊もその一つ)もこの様な意識状態から引き起こされたのでしょう。

 しかし本当でしょうか?原初の闇は無限だったのです。無限から有限を引いてもやっぱり
無限が残るのです。ちっぽけで賢しらな知識で,都合良く世界を推し量った結果が今の
問題山積(地球の気候変動と人口増加による食料逼迫,その結果起こる更なる環境破壊,
経済性のみを重視して脳天気にばら撒かれた多くの人工化合物の問題は既にお話し
しました)です。これは,有限の知識をもって無限の想像世界に替えた行為です。
 複雑さは減少していないでしょうか?

>和尚の前段四行にわたる状況説明と「容易に解けない」理由の意味が、僕にはう
>まく理解できませんが、個人の社会的力の減少に伴う、社会的存在感の減少、社
>会的無力感の増大は、明治維新以来、わが国でも着実に進行して来ていると思わ
>れます。

 後藤さんの水平的多様性の減少についての分析には私も同感です。
 ただ,私が「容易に解けない」として申し上げたかったのは,中高生の方々が感じる
現在社会が,唯一の正解を要求する厳密な世界ではないかという私の個人感覚です。

 そういう厳密な世界(これは現在科学の得意とするところですが)では,高度に論理的
思考や厳密な知識をベースにした洞察力を必要とします。残念ながらそう言う教育を
彼らは受けていませんから,解答困難→「世界は複雑」→科学技術への負の態度へと
繋がったのではないかと考えています。

 興味深いのは,その解答困難感覚が容易に思考停止状態に至り,誰かが作った超自然
イメージいわゆるオカルトの世界への親和性→ますます思考停止という悪循環を生んで
いるようです。

 誠に皮肉なことですが,闇を照らし出す筈の科学の知が,適切な教育を怠ったために
かえって心の中に内的闇を作り出しているのです。

 念のため言っておきますが,私は科学技術否定でも,原始生活礼讃者でもありません。
私たちや,次世代が直面する問題の多くは残念ながら私たちの世代の想像力の欠如
によって引き起こされた可能性が高いと申し上げたいのです。今まで手にした科学的
知見の多さを誇るなら,同時にそれと同等以上の注意力を未だ見ぬ世界に向ける必要
が有ります。そこで働くのは,今でもやはり想像力ではないでしょうか。

 夏の夜,原始の闇とそこで不安がるひ弱だった人間の姿を想像して見ませんか・・・・
 科学技術の使い方を考える良い機会になるかも知れません。

Kazunari Yokoyama, Ph.D.
Soil Microbial Ecology Lab.
National Institute of Agro-Environmental Sciences, Japan
Phone:+81-298-38-8300
Fax:+81-298-38-8199


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