[BlueSky: 169] トリプトファン事件 Re:161 医原病では?


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 23 Jul 1999 19:11:34 +0900

中澤です。

長峰さん,森さん,情報ありがとうございます。トリプトファンについては,
昭和電工,事件とキーワードを足したところ,詳細な資料に辿り着けました。

WEBでは,
http://www.noda-hs.noda.chiba.jp/nodatei/hoken98/tayori/1999/kumikae14.htm
とか,
http://www.synapse.ne.jp/~shinji/jyajya/wadai/tripto.html
などに情報がありました。

英語ですが,被害者同盟のサイトにあった論文
http://www.nemsn.org/ems/html/mckinley.html
や,PSRAST (Physicians and Scientists for Responsible Application
of Science and Technology=「科学技術の応用に責任をもつ医師と
科学者たち」?)という非営利団体のサイトでJOHN B. FAGAN博士が書いた
まとめhttp://www.psagef.org/jftrypt.htm(他にもいろいろなサイトに
転載されています)にも詳しい情報がありました。
#PSRASTという団体は,遺伝子組み換えについて継続的に監視しているようです。

FDAのサイトにも,昭和電工製L-トリプトファンを販売制限した経緯が
まとまっていました。http://vm.cfsan.fda.gov/~dms/ds-tryp1.html

上記いろいろなサイトの情報をまとめると,

昭和電工製のトリプトファン製剤中に,増産効果を狙って追加組み込み
された枯草菌の遺伝子が原因でできてしまった不純物が原因で好酸球増多・
筋肉痛症候群(EMS)を発症し,約30人または36人または37人または38人が
死亡したということのようですね(何故か論文によって死亡人数の記載が
違うのですが)。

とすれば,まさに,これは影響評価が不十分なままに遺伝子組み換えを
実用したせいで起こった事件といえますね(FAGAN博士のまとめによれば
組み換えが原因かどうかは,黒に近い灰色らしいですが)。
失礼しました>小宮さん

引き続き,BSTの方も,詳しい情報(源情報でも結構です)をお待ちしています。

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以下は補足資料です。参考まで。
論文としては,
[1] Kilbourne, E.M., R.M. Philen, M.L. Kamb and H. Falk (1996) Tryptophan
produced by Showa Denko and epidemic eosinophilia-myalgia syndrome.
Journal of Rheumatology - Supplement, 46: 81-91.

[2] Williamson, B.L., K. Klarskov, A.J. Tomlinson, G.J. Gleich and S. Naylor
(1998) Problems with over-the-counter 5-hydroxy-L-tryptophan. Nature
Medicine, 4: 983.

[3] Hill, R.H.Jr., S.P. Caudill, R.M. Philen, S.L. Bailey, W.D. Flanders,
W.J. Driskell, M.L. Kamb, L.L. Needham and E.J. Sampson (1993) Contaminants
in L-tryptophan associated with eosinophilia myalgia syndrome. Archives of
Environmental Contamination & Toxicology. 25: 134-142.

がありましたが,枯草菌遺伝子の件は書かれていませんでした。
#[1][3]はAbstractしか読んでいませんが。

[2]によれば,1989年の事件でトリプトファン製剤のドラッグストアなどでの
市販が禁止されたあと代わりに売られている5-OH-トリプトファン製剤にも
同様な不純物"Peak X"があり,6-hydroxy-1,2,3,4,4a,9a-hexahydro-beta-
carboline-3-carboxylic acidと同定されたとのことです。ただし,1991年に
5-OH-トリプトファン製剤を飲んでいてEMSを発症した28歳の女性が飲んでいた
製剤に含まれていた"Peak X"の量に比べると,現在市販されている5-OH-
トリプトファン製剤が含んでいた量は2.9-14.1%で,かなりレベルは低い
とのことです。ただし,この論文によると,「自然の原料から抽出」と
書かれている製剤からもこのPeak Xは検出されたそうですから,この物質が
原因だとすると,遺伝子組み換え原因説は,やや怪しくなります。

しかし,30人以上の死亡を引き起こしたと見られる昭和電工のトリプトファン
製剤を調べた[3]によれば,当該製剤には,他の製剤には見られない微量な
不純物が60種類以上混入していて,そのうち6種類がEMSと関連していたとの
ことなので,やはり昭和電工の製剤工程に何か問題があったことは確かなの
でしょう。

なお,もしやと思って,市川定夫「環境学」藤原書店,1993を見直したら,
p.406に記載がありましたが,たんに「不純物の混入」とされていました。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[過去ログ検索]http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bluesky2.html


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