[BlueSky: 162] 進歩の制御 Re:159 新しい形質の導入


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 23 Jul 1999 10:57:01 +0900

中澤です。こんにちは。

小宮さん:
> 僕が子供の頃、公害で地球が汚染されていると聞いて、怖くて震え
> 上がった事がありました。今ではすっかりこの生活に慣れてしまっています。
ぼくも小学校6年生のときに大ベストセラーになった有吉佐和子さんの
「複合汚染」と,それによって知ったレイチェル・カーソンさんの「沈黙の春」
を読んで震え上がりました。SFでは小松左京さんの「静寂の通路」も怖かったです。
#「複合汚染」は,ぼくが人類生態学研究を志した原点です。

> 科学技術は恐ろしい速度で進歩して、公害は加速され、今では人間の
> 種を絶滅させるかもしれない所まで来ているのに、それでも我々は
> 経済発展のことを考えて環境破壊を続けています。僕も電気会社で、
> 数々の電気製品の開発をし、環境汚染物質をばらまいています。
もちろん良くなっている面もあるんですけどね。リオ宣言に
しても,COP3にしても,ともかく国家レベルでも環境への影響
を考えるようになったわけですから。田尻宗昭さんが公害Gメン
として孤軍奮闘していたころに比べれば,多様な判断基準が
取り入れられるようになってきていると思いますし,規制も
強化されてはいます。1970年代の汚染よりは今の方がまし,
という人は多いです。
#制御が汚染に追いつくかどうかは問題ですし,楽観はできませんが。

> います。そのうち、脳のない人間を遺伝子操作で生み出し、臓器
> 提供用にやしなう時代が来るかもしれません。このような遺伝子操作
小説では既にあって,帚木蓬生: 臓器農場 【新潮文庫】は,遺伝子
操作ではありませんが,臓器移植用無脳症児テーマで書かれています。
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/cgi-bin/bookres/0409170506.html
に書評を書きましたが,なかなか考えさせられます。

技術の進歩は好奇心にしたがって自由意思で起こるので,これを
止めようとする規範は,社会による自由の抑圧と似た構図になる
ことに,昨日気が付きました。篠田節子さんという作家の「小羊」
というSF作品(角川ホラー文庫「ゆがんだ闇」というアンソロジー
に所収)のおかげです。昨日書評に書いた文章を再掲します。

===(ここから)
ある種の宗教は他者への奉仕などの構造的抑圧を目的化するが,通常それは思考
停止を伴い,ある意味では人間としての生を放棄することにつながる。ぼくが,
とくに信じろ系の宗教が嫌いなのは,思考停止を強いるからである。構造的な自
由の抑圧には,この連想から,思考停止のイメージが濃厚につきまとっているよ
うに思う。実は,環境問題に関してことさらシニカルな態度をとろうとする人の
存在も根は同じではなかろうか。たとえ,「このまま活動していたら地球が生命
を支えきれないから,持続的生存のために開発や進歩を制御するべきだ」という
予測の元にであっても,社会による構造的抑圧が自由な人間活動を妨げるのは,
どうにも気持ちが悪くなるのかもしれない。もしこれが当たっているとすれば,
多くの人の共感を得て環境問題を解決するためには,開発や進歩の制御を自由の
抑圧と感じないための,新しい考え方が必要になるだろう。一つの解としては,
自意識の及ぶ範囲を拡大することが浮かぶ。このことは情報インフラの整備とと
もに,個々人へのインプットの増大として,ある面では実現に向かっているが,
ここで問題になるのはノイズやループバックもまた増大することである。
===(ここまで)

まとまりがなくて済みませんが,つまり,自由意思の放棄=思考停止
ではなくて,自由意思によって自己がその一部を構成する生態系を
適切に制御することが自然に起こるようにする,という夢物語です。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[青空ML過去ログ]http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bluesky2.html
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