[BlueSky: 1508] Re:1499  遺伝子操作と農薬


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Fri, 10 Mar 2000 20:15:25 +0900

一ノ瀬さん、こんにちは。
             
須賀です。ご返事ありがとうございます。(このメールは長いです。)

わたしも、遺伝子組み換え作物の可能性と問題点を考えるにあたって、
「政治的利害関係の問題」と「安全性の科学的評価の妥当性の問題」を
区別して考えなくてはいけないと思います。問題を混同し、いたずらに
混乱をまねくのをふせぐためにです。この点では一ノ瀬さん、葛貫さん
と一致しています。しかし、どちらか一方だけしか考えないのも不十分
なのではないかと思います(これは直感にすぎませんが)。できれば、
その相互関係をふくめ、両方の問題を考えたい。そのうえで、どちらか
(あるいは両方)に問題点がのこるなら、それをどう解決していくかに
ついてのみなさんのお考えをきかせていただきたい。わたしは、教える
立場ではなく学ぶ立場です。

一ノ瀬さん(1494):
>  GMをやめて既存農法に戻すと、農薬の使用量が増すか、収穫が減少し
> ます。
> ・・・・・・
>  結局、世界のどこかで新たに飢える人が出る。

須賀(1495):
> それではなぜ、途上国の政府は遺伝子組み換え作物の輸出入規制をつよく
> もとめたのでしょうか?

あまりこまかくきくとお答えいただくうえでご負担になるかもしれない
と思って上記のように質問を圧縮したのですが、ご指摘をうけたように、
かえって意図がぼやけてしまったようです。そこで、質問の内容を補足
します。わたしが一ノ瀬さんにおたずねしたかったのは、途上国にとっ
ての「政治的利害関係の問題」をどう理解したらいいのか、という問題
でした。

一ノ瀬さん(1499):
>  政府の政策決定においては、利害、権力、面子、エゴ、等々の、様々な
> 要素が影響します。複数の国が絡めば尚更です。環境問題は、それら多数
> の要素の内の一つであるに過ぎません。

そのとおりです。そしてこの問題でのEUの立場について、一ノ瀬さんは
(1494)でかなりはっきりとした判断をのべられました。そこでわたし
は、一ノ瀬さんならこの問題に関する途上国の立場についても何らかの
お考えをもっておられるのではないかと思ったのです。

ですから、わたしがおたずねしたかったことを言いなおすと、
「遺伝子組み換え生物の輸出入規制をつよくもとめた多くの途上国は、
どのような政治的利害関係にもとづいてそのような立場をとるに至った
と理解すればよいのか?」
ということになります。

この問題について考えられる解釈は、この青空MLでもすでにいくつか
だされています。わたしの理解のおよんだ範囲で整理すると、次の4つ
くらいになるかと思います。これらは途上国の「政府」の立場に対して
直接だされた解釈ではありませんが、「先進国」に対する「途上国」と
一般化したかたちで利害関係の解釈にあてはめることができそうなもの
(あるいはその紹介)です。

1)食糧の増産よりも、分配の不平等をなくすことの方が重要である。
(中澤さん、1455;須賀、1477)

2)多国籍農業資本による発展途上国の農民の支配につながる可能性
がある。(小宮さん、1458;山崎さん、1475;永光さん、1489)

3)輸出国でおこなわれる安全性の科学的評価の公平性に疑問がある。
(ムラセさん、1465;葛貫さん、1485、1502)

4)途上国には輸入国として独自に安全性の科学的評価ができるだけ
の体制がない。(永光さん、1489)

これらを途上国政府の立場を理解するのに役立てられるのではないか
と考えたのはわたしであって、うえにお名前をあげた発言者のみなさ
んではありませんので、誤解のないようにお願いします。

少なくとも3と4に関しては、1月末にバイオセイフティ議定書が
できるまで、途上国側に対抗手段がなかったのではないかというの
がわたしの推測です(まちがっていたらご指摘ください)。1月に
青空MLで一度遺伝子組み換え作物の話題がもりあがりましたが、
その時点ではこの議定書はできていませんでした。ですから、その
ときと今とでは政治的な状況がすこしかわっています。議定書採択
のニュースにわたしが(1490)でふれたのは、みなさんにその点
を意識していただきかかったからです。

もちろん問題はあります。一番大きな問題は、上記のような一般化が
妥当かどうかというものでしょう。国によっても利害関係は当然ちが
うでしょうし。また、途上国政府が輸出入規制をもとめた実際の理由
は、このようなものではないかもしれません。けれども、多くの途上
国政府がほぼ同じ立場でかたまった背景には、(それが妥当なもので
あったかどうかは別として)なんらかの共通の判断があったと推測し
てもそれほど不自然ではないのではないでしょうか。

わたしは、このようなことについての一ノ瀬さんのお考えをおたずね
したいと思ったのでした。

もちろん、これらは「政治的利害関係の問題」です。わたしはここで
は、この問題にもふれたいと思ったのです。この問題と遺伝子組換え
作物の開発に関与するひとりひとりの科学者・技術者の良心の問題を、
混同してはいけないと思います。

質問内容の補足は以上です。
*******

以下は、一ノ瀬さんからいただいたこのほかのご意見とご質問への
お答えです。

一ノ瀬さん:
> ---------------------------------
>  日本人は、どういうわけだか、常日頃から隣近所の様子を気にして、ど
> うして良いか分からなくなると、ご近所のやり方を一所懸命まねようとす
> る。
>  基本に立ち返って、ゼロから自分で考える習慣がないからとしか思えな
> い。
>  でもそれではいけないと思います。
> ---------------------------------

一箇所をのぞき、おっしゃることはおおむね理解できますし、共感
する面もあります。もっとも、どのような文脈のつながりからこう
したご意見をここでさだれたのかはあまりよく理解できなかったの
ですが・・・。

基本に立ち返ってゼロから自分で考えるのは大事なことだとわたし
も思います。共感をおぼえるのはこの部分です。

あまり共感できない一箇所とは、「日本人は」と一般化されている
ところです。そうではない日本人もすくなからずいるのをわたしは
知っています。ここは「多くの日本人は」くらいにしていただける
と、わたしにも理解しやすくなります。もっともこれにも「妥協案」
めいたところは確かにあるのですが・・・(笑)。それに今の質問
の補足でさんざん一般論を展開してしまったので、えらそうなこと
をいうつもりはありません。

一ノ瀬さん:
>  須賀さんの質問に類似の例として、次のような質問を返したい。
>
> 「温暖化ガスの排出抑制は、中国やインドなどの発展途上国も取り組まな
> ければ、実効は期待できない。このまま温暖化が進めば、中国やインドも
> 大きな被害を被る。
>  しかし、中国やインドは、途上国への温暖化ガス排出抑制義務づけには
> 強く反対した。
>  なぜ、反対したのでしょうか?」
>
>  須賀さんは、この問いに答えることが出来ますか?

わたしですか? わたしにはできませんよ(笑)。いや、どうしても
とおっしゃるならにわか勉強して、ある程度到達した理解を要約して
ここにレポートすることくらいはできるかもしれません。でもそんな
めんどうなことはできればご勘弁いただいきたいところです。第一、
温暖化ガスの排出規制についてろくにしらないわたしが急にそんなこ
とをしてもみなさんにとって得るところは何もないでしょう(笑)。

しかし、こういう問いかけをすることが無意味とは思いません。実際、
わたしにはとても答えられないようなことに次々に答えていく有能な
ひとびとをわたしはいたるところで目にします。そのなかには多くの
日本人がふくまれています(これは日本人だけが特に有能とわたしが
考えているという意味ではなくて、わたしが知っているひとの多くは
日本人なので、わたしが答えられないようなことにも答えられる有能
なひと、とわたしが感嘆させられるひとびとがたまたま日本人である
ことが多くなるという意味です。念のため。)

うえで補足した一ノ瀬さんへのわたしからの質問も、ごめんどうなら
無理にお答えいただかなくてもかまいません。考えてみれば、一ノ瀬
さんは、この問題について政治的な思惑の問題ときりはなして考える
こと真剣に主張してこられたように思います。それはそれでひとつの
明確なお立場だと思います。

ただ、認識を共有するためにこうして多くの参加者を得て対話をすす
めていくうえでは、わたしが質問した政治的利害の問題もそれなりに
重要な論点になりうると思うのです。現実にそういう問題は存在する
のですから。一ノ瀬さんでも、そのほかのみなさんでも、このような
問題にお考えをおもちの方がいらっしゃるなら、おきかせいただける
とたいへんうれしいです。









Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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