[BlueSky: 1396] NPO、NGOについて


[From] "Takashi Goto" [Date] Sun, 6 Feb 2000 15:22:31 +0900

喜多さん

 こんにちは。環境NPO研究会の後藤です。

 NPOについて本質的でたいへん大事なご質問が喜多さんからありました
ので、ご説明させていただきます。ちょうど自分の会の研究誌に基本的な
論文を書いたので、それを叩き台にします。

 NPOとは、Non-Profit Organizationの略で、喜多さんも書いていたように
もともとはアメリカの税法(内国歳入法)の用語です。日本では「非営利組織」
と訳されます。
 内容の説明と前後しますが、同じような言葉にNGOがあり、こちらはNon-Go
vernmental Organizationの訳で、「非政府組織」と訳される国連上の定義で
す。日本では市民団体を表現する言葉として一般的に使われてきました。
 NGOの方が言葉としての歴史が長いですし、特に市民活動というと、かつて
は市民運動、反対運動というイメージが強かったため、NPO=NGOととらえる
と、「得体の知れない組織」ととらえられがちです。
 この分類は難しいところですが、特に「事業」に注目した組織立てをNPOと
考えれば少し理解できると思います。政策提言など、社会的に欠かせないけ
れど金になりにくい活動がメインの環境市民団体に、NPO法人格(後述)を取
得するところが少ないのはこうした理由が大きいと思っています。

 さて、社会におけるNPOの活動のあり方を考える時、まずわかりにくいのが
ボランティアといかに区別するかです。一般にはNPO=ボランティアととらえら
れがちですが、これは正確ではないが誤りではありません。そもそもNPOの
基本的な定義として「非営利」「ボランタリー」「独立性」がよくあげられることか
らも分かるように、活動の対象とするところはほとんど同じです。
 ただ、社会にはNPOが収益を一銭もあげてはならないという誤解がまだ多くあ
て、こうした誤った認識が日本のNPO及びNPO活動全般に対する認識をも立ち
遅れさせている感があることからも、NPOとボランティアは便宜上にしろ区別し
ておかなくてはなりません。
 喜多さんの懸念も、こうした誤解をもとにすればごく当たり前に出てくるもので
すので、ここについてご説明しましょう。

 NPOが収益をあげてはならないという誤解が生じるのは、NPOの最大の特徴
である「非営利性」と、ボランティアが内在する「無報酬性」が混同されているため
です。というのは、NPOは、企業が株主に配当するように関係者に分配さえしな
ければ、収益をあげて一向にかまわないのです。ただ、その上げた収益を自分の
懐にいれず、定款に書かれた公益性の高い事業に投資しなくてはなりません。
 整理すると、ボランティアが、社会奉仕のために無償で労働力を提供する行為、
または個人を指す言葉であるのに対して、NPOは組織化された、団体もしくはセ
クターをさす概念です。端的に言えば、ボランティアベースで活動を続ける個人が
、社会的な目的をより効果的に達成するために組織化されたものが、NPOである
といっていいでしょう。
 
 ぼくがNPOに一番近いと感じているのは、ベンチャー企業です。やる気のある
数人の同じ目的を持ったベンチャーが、組織化して大手や国ではできないことを
スキマ的に行う。違うのは、「営利」か「非営利」かだけですね。
 では、なんで今の資本主義の世の中にNPOなんてものが必要になるのか。
それは、大きく分けて「政府の失敗」と「市場の失敗」がその原因とされます。

 公共事業重点施策をみても分かるように、日本に限らずどこの政府でも福祉
や環境の予算は後回しにされがちですが、現実の社会ではそうした施策・サービス
を求める人は大勢います。こうした政府の手の届かない部分を、NPOは補うことが
できますし、誰かが「すぐに」それをやらなくては、誰かが不利益をこうむります。
 また、資本主義、自由主義経済は、基本的には妥当な経済・社会システムなん
ですが(後藤私見)、どうしても市場は「売れる」モノやサービスしか受け入れず、
その結果、いわゆる企業の論理が社会的な中間層以下にも押し付けられることに
なりがちです。

 かつては、これに対抗するものとして社会主義や共産主義があったらしいですが、
これらもどう改良しても使えないようです。今必要なのは、こうした「・・・主義」ではな
く、地域や個人の実情に根ざした、自由で流動的な取り組みなんです。
 NPOは市民の声を直接吸い上げ、国や自治体の膠着しがちなシステムのスキマ
を縫って、適法かつ自由に活動することができます。

 つまり、NPOとは、けっして資本主義の根本に反する概念・存在ではなく、その
足りない点を市民自らの力で合法的に補うための、なくてはならない組織体なので
す。こうした性格から、最近では「小さな政府」や「地方分権」の動きとあいまって、
社会的に注目されているのです。かといって、NPOを行政の下請け的に使おうという
考えは棄てなくてはいけません。なぜなら、NPOは「公益性」の高い事業活動を、役
所や企業にかわってボランタリーを基調にしながら行っているわけで、しかもあくまで
それは金のためではなく、「市民」と「社会」のためなのです。

 自民党の老害の中には「NPOなんてワケの分からんものを認めたら、政府の思う通
りの施策ができなくなって大変だ」という超保守的な意見がややあるようですが、早晩
死に絶えるでしょう。

 最後に、NPOに関する法律の話をしましょう。
 こうしたNPOの活動を法的に担保するために制定されたのが、NPO法(特定非営
利活動促進法)です。NPO法は、、もともと「市民活動推進法案」という名前で市民側
から建議されたもので、それが、阪神淡路大震災やナホトカ号の時の市民団体の活躍
を受けて、早期成立のため各党ずいぶん努力しましたが、すべて「運」が悪く寸前で成
立せず、98年にやっと公布され、12月に施行されました。日本ではめずらしく、議員が
ちゃんと勉強した議員立法です。今の「循環型社会法」とは大違い。
 NPO法では、NPO法人は公益法人の一部です。また、「認可主義」ではなく「認証
主義」で、書類審査で問題が無ければ認証しなくてはなりません。
 このほか社団法人や財団法人との違いに、運営資金が不用であること、主務官庁が
ないことなどがありますが、残念ながらNPO法人への税制優遇は未整備です。

 というわけで、喜多さんはじめみなさまに総論部分をお届けしました。


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      後 藤   隆 [ Takashi Goto ]
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