[BlueSky: 138] 土地に対する権利 Re:135 倫理基準、評価基準、意志決定


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Mon, 19 Jul 1999 18:55:19 +0900

ながみつさん、みなさん
             須賀です。

ながみつくん、おひさしぶり。こんなところで会えるとは!
(ながみつくんもわたしも、大学院でハリナシバチという熱帯のハチの研究を
 していました。)

ながみつさんの問題関心は、わたしにはよくわかります。出身分野が同じで
同じようなことに関心をもって仕事をしているせいでしょう。それだけに、
ながみつさん同様、この話題の意外な広がりと奥行きに印象づけられます。

この話題をめぐるこれまでのやりとりの全体像をきっちりフォローできている
わけではありませんので、「自然がのこっている土地を利用するときの合意形
成」というながみつさんの関心に関連して思うことだけを雑感的に書いてみま
す。

わたしは、たまにですが、地域の具体的な自然保護問題について、地元の方と
お話しする機会があります。「合意形成」などという大それたことではなく、
もっと漠然と、その地域の自然環境をどうみるか、というような一般的なお話
です。地元の方は、地域の具体的な問題について関心をもっておられ、わたし
などは生態学上の一般論のお話をする、といったはなはだ歯切れのわるいやり
とりになります。

そのときにいつも思うのは、そういう地域の具体的な問題になったとき、土地
に対する権利関係がいかに大きな問題かということ、そして、そういう問題が
生態学の研究者がふつうにあつかえる問題領域からいかに遠くへだたったもの
であるかということです。

これは、もし仮に外部の専門家が必要とされるとすれば、別の領域の専門家に
でてきていただかなくてはならない問題です。さまざまな立場の関係者が互い
の役割をどのように認知し合うか、という問題です。わたしの考えでは、まず
この部分での合意形成の努力を社会的にもっと広げていかなくてはなりません。

生態学的な見方がそういう場面で独自性を発揮できるとしたら、それは逆に、
土地に対する人間の権利関係をいったん無視したときにその場所の自然環境が
どんなふうにみえてくるか、という視点を提供できるところではないかと思い
ます。流域・地形・植生区分といった視点や、システムとしての生態系の機能
の持続可能性などの視点です。

しかしこれらの見方が「合意形成」に役立つかどうかは、まずそういう視点の
提供を関係者からもとめられるかどうかによると思います。そのために生態学
の研究者の側があらかじめ考えなくてはならないことは、自分たちの手持ちの
札がどういう性格のものであるかを社会に対してわかりやすく説明すること、
そしてそれらの札のもつ意味を社会的なコンテキストとすりあわせて位置づけ
る努力をつづけていくことではないかと思います。

はなはだ抽象的・一般的で歯切れがわるいですが、わたしはとりあえずいまの
ところ、このように考えています。

話はちょっととびますが、

ながみつさん:
> 1)倫理基準:小宮さん[103]
> 「土地の価値や利用法の評価にあたっては、
> 科学的な論理やデータより倫理を優先させるべきである」
>
> との発言には、胸がすかっとしました。
> これで、議論やデータなどすっとばして、
> 理想の土地利用ができる(とおもいこむことができる)んですから。
>  たかい倫理感を共有する人たちが共同体をつくってしまい、
> そのなかで倫理にしたがって生活すること、そのメンバーをふやすことは、
> あれこれ論理やデータをいじくりまわすことより、
> はるかに実践的な解決策かもしれません。

これはたしかに面白い発想ですね。具体的にいうと、保護したい土地をまず
お金で買ってしまう、ということでしょう? 現在の日本では中部山岳など
の原生的な場所には法律による保護の網がある程度かかっていると思います
が、むしろ問題になりやすいのは、もっと生活環境に近い小面積の土地です
よね。そういう場所は、とにかく買ってしまうのが実践的なのかもしれませ
ん。口でいうほど簡単ではないでしょうけれど、場合によっては、まじめに
考える値打ちのある選択肢になるかもしれませんね。

それではまた。

Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp



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