[BlueSky: 1319] Re:1261,   1295, 1317, 1318 遺伝子操作と農薬


[From] Kimio OTSUKA [Date] Sat, 22 Jan 2000 21:13:30 +0900

こんばんわ 医科歯科大の大塚です

小宮さん[1295]
> 米で殺虫作用ある遺伝子組み換えトウモロコシ栽培に制限 (1/17朝日新聞)
> http://www.asahi.com/0117/news/international17008.html


 毎日新聞にもこの話題が出ていましたが、どちらかといえば「他の殺
す必要のない昆虫を殺してしまう」に重点が置かれていました。が、短
い記事の中で「オオカバマダラ」と「綿花」も出てきたので私は何のこ
とだか分からず、混乱してしまいました。

 いわおさんが[1318]で教えてくださったEPAの PRESS RELEASE を各
々の新聞社が自分なりに消化して(し切れずに)記事にしたのでしょう。
朝日の「アゲハチョウ」はちょっと悲しいですね。monarch butterfly
は手元の CD-ROM辞書(ランダムハウス,リーダーズ+プラス)のいずれにも
載っているのに。人が足りなくて、丁寧に調べている余裕がないことが
見えてしまいます。
 いつぞやも話題にのぼりましたが、科学ジャーナリズムをもっと育て
ないといけませんね。
 

 やっと本題に入りますが、

一ノ瀬さん[1317]:
>「農薬を使ったら、殺す必要のない虫だって死ぬ」

 は確かにその通りですが、農薬はそうしょっちゅう散布するものでは
ないですよね。くだんの Bt トウモロコシはどうも体のあちこちでのべ
つまくなしに Bt 毒素を作っているようです。
[1261]で
> BT トウモロコシは葉にだけ発現するような品種にすれば、生態系への負
> 荷や人体への害に関する危惧はずっと小さかっただろうに残念です。
 と書きましたが、こういう私から見たら不完全なものを大々的に売り
出したので、農薬として Bt 毒素をまくよりもずっと問題となってしま
うのだと思います。


 もう既に投稿されているかも知れませんが、 Bt 毒素、Bt トウモロコ
シなどについておさらいをしておきます。いわおさん、間違っていたら
訂正してくださいね。

 Bt 毒素の Bt は Bacillus thuringiensis という桿菌のことで、これ
はチョウやガの仲間の病原体です。その Bt が産出して宿主に病原を来
すのが Bt 毒素です。この Bt 生きている菌を農薬として散布する事が
日本でも行われています。
 Bt 毒素も農薬として使わていたような気がしましたが、
 
 Bt は、チョウやガの仲間にしか害がないですし、もともと自然界にも
いる生き物ですので、これまでの殺虫剤に代わる生物農薬として期待を
持って使われてきたと思います。
 Bt トウモロコシは、この Bt の毒素を作る遺伝子を組み込んで作った
品種です。このところ物議を醸している品種は葉ばかりでなく、根や花
粉でも Bt 毒素を作っていて、思わぬ影響が懸念されています。


 農薬の抵抗性は、農薬の存在化では、農薬では死ににくい個体が有利
であることから、農薬抵抗性の遺伝子が集団の中に広がっていることで
生じます。自然選択と同様のプロセスです。

 抵抗性の進化が進まないように、農薬の使い方には工夫が必要です。

 たとえば、半端な量を散布すると、普通より少し死ににくい個体が生
き残って、徐々に抵抗性が上がっていく可能性が生じます。全部死ぬぐ
らい撒いてやれば、選択が生じないわけですから、撒くときにはしっか
り撒く方がよいです。
 農薬の抵抗性を持った個体は、農薬が存在しないときには、抵抗性を
持たない個体よりも生存率や繁殖率が低いことがよくあるようです。つ
まり、当該の農薬を使わないと、抵抗性の個体の割合が下がっていく事
が期待できます。

 このように計画的な散布が必要であるのに、隣のトウモロコシ畑から
Bt 毒素を含んだ花粉が飛んでくるのは困りものなので、綿花畑の近くで
の Bt トウモロコシの植え付けに制限が加わったものだと思います。


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