[BlueSky: 1163] Re:1162 放射性物質


[From] ymizuno@yo.rim.or.jp (水野義之 Y.Mizuno) [Date] Wed, 1 Dec 1999 03:44:05 +0900

池田@のっぱら研究所さん、はじめまして、水野義之@京都女子大学というものです。

>人工の放射性物質と自然のものとの違いについて、
>誰か正確なレス付けるだろうと思って見ていたのですが、
>誰も付けないので、わたしのあやふやな知識で良ければ読んでください。

私の専門は核物理ですので、ちょっとだけ、コメントをさせていただきます
不十分ですが、ご参考にでもなれば、幸いです。


>生成される元素の種類と、量が違う。
> 天然に存在するものは、カリウム系やカーボン系だったと思うのですが、

正しいです。但し、ウラン系やトリウム系も、自然にかなり、存在しています。
それらの放射性崩壊(アルファ崩壊が大部分+その後のベータ崩壊とガンマ崩壊)
により、放射性の気体(稀ガス)であるラドンなども生成されています。

> 人工的に生成されるものは、このほかにヨウ素系、セシウム系、プルト
> ニウムなどさまざまです。特にプルトニウムは天然で地球上には存在し
> なかったと記憶しています。

これは、完全に間違いというわけではないですが、誤解を招くでしょう。
人工的に(つまり、核分裂によって)生成されるものに、ヨウ素系、セシウム系、
ストロンチウム系、クリプトン系、キセノン系などがあります。こうなる理由は、
またよくわかっています(非対称に核分裂するので、ちょっと重いあたりの
質量数135くらいの核と、ちょっと軽いあたりの質量数90くらいの元素が
出来ます)。

プルトニウムは天然で地球上には存在しませんが、生成の方法としては、
原子炉で作るわけですね。これはトリチウム(3重水素)も同じです。

>
>人間の生理による人体内での動態が違う。
> 人間の体は・・いやちがった、生物は、放射性物質を選別して排出する
> ことができません。
> でも、天然に存在する放射性物質でも、有害性は質的には同じです。

同じ核種(同じ元素と言ってもいいですね)では、当然、その通りですね。

> では、どうしたか?
> 「集中使用・蓄積しないようにする」のです。
> そのためにカリウムなどはたくさん使う割りに常に排出するようにして
> います。

そうですね。

> すると「環境中の濃度と体内濃度がほぼ同じになる」ことによって無視
> しうる(というか仕方ないというか)状態になるように、生物が進化し
> たと理解しています。

そうだと思います(思います^^;;)。


> では、人工のものはどうなるか?
> その元素に、天然中の放射性同位体がすくない(というかほとんど全く
> ない)元素の中には、「集中利用・蓄積」され、カリウムのように循環
> していないものがあります。(そのように生物が進化した)
> 甲状腺に蓄積される「ヨウ素」、骨にたまる「カルシウム」などです。

ここの解説にはちょっと無理があると思います。例えば、カリウムが
循環している理由が、その放射性(カリウム40が放射性ですね)とは
関係がないと思います。

> セシウムは体内ではカルシウムのように扱われます。
> 極微量であっても生物の体はそれを蓄積してしまうわけです。
> それが全身に薄まればまだしも、一箇所に集中する働きになってるので、
> すなわち微量ではなくなり、甲状腺障害、白血病の原因になります。

これは、例えば、サマリウムなども、骨に蓄積するという意味では、同様
ではないでしょうか?(でも、それは、放射性かどうかとは関係ないですよね)。


>環境内での量の偏りが違う。
> あまり長々とは説明しませんが、発電所だけではなく、廃棄物のこともあります。
> 人体内で行われていることが、あたかも環境中でも行われているように感じます。

お気持ち、わからかくはないですが、ちょっと考えすぎかも。
実際、廃棄物は、人間の理性と判断により、原理的には対応が可能な問題
です(社会的にどうか、は、また別ですが)。

>
>質量と半減期が違う。
> 特にプルトニウムは万年単位、どうしようもありません。

天然に存在するもので、例えば、ウラン234(235ではない)というのが
ありますが、これの半減期は、確か20万年くらいだったと思います
(天然には0.0055% だったか、存在しています)。ということで、半減期
において、天然と人工の区別は難しいかも。

>
>責任が本来は発生する
> しかし、
> その物質に発電所の名前が書いてあるわけではありませんので、
> 誰か特定の人が責任を取ることにはなりません。
> 私たち全員(原発の恩恵に預かっていない人も巻き込まれる)が責任をとらなけ
> ればいけない物質だということです。
> 自然のものにはそういう責任を取る必要はありません。

これはその通りですね。但し、化学物質(産業廃棄物)も、同様の問題があり、
核の廃棄物だけの問題ではありません。「敵」は多いと思わねばなりません。

>
>以上。むかし憶えたかすかな記憶です。

ご立派です。本当にそう思います。

なお、これ以上は、おそらく、これで勉強されるといいと思います。
みなさんにも、ぜひ、お勧めしておきます(大きい本屋にしか、置いて
ないと思いますが)。

石川友清編「放射線概論」(通商産業研究社)


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Yoshiyuki MIZUNO 水野 義之(大阪府 茨木市) ymizuno@yo.rim.or.jp
 Office: mizuno@kyoto-wu.ac.jp Tel/fax 075-531-7104 (京都女子大学)


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