[BlueSky: 1091] Re:1082 ボルネオの生物多様性調査


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Fri, 12 Nov 1999 20:33:01 +0900

星野さん みなさん
           須賀です。
星野さん:
>  須賀さん、他のMLでのご活躍は闇のルートで拝見させて
> もらっています。

ありがとうございます(笑)。このMLは公開されていますので、
闇のルートでなくてもだれでもみることができます。公開か非公開
かによって、話の内容や議論の雰囲気にちがいがでてくるとしたら、
そのことのよしあしは問わないとして、面白いことですよね。

星野さん:
>  しょうもない質問かもしれません。まず、生物多様性の調査
> 結果をもとに公園管理をどのように運用していくのかなという
> 単純な疑問です。やはり、生物多様性の面から言えば、生態学
> 的な管理方法が取られたりするんでしょうか。日本の環境アセ
> スメントにその手法や考え方は参考にできないんでしょうか。

むずかしいご質問です。まず、わたしの説明のしかたがまずかった
と思いますが、今回ボルネオでおこなわれた調査は、生物多様性だ
けを対象としたものではありませんでした。川の水質や周辺の村々
のひとびとの生活も調査の対象となっており、それらとともに生物
多様性もまた重要な関心事となっていた、ということです。

調査結果をまとめたものは、約1年後に出版される予定です。それ
をみないと、わたしにもおこなわれた調査自体の全体像さえわかり
ません。さらに公園管理の運用の問題となると、今回の調査の主催
者のひとつであるSabah Parks(サバ州立公園管理局)など関係者
が調査結果をどのように利用するかという問題になってくると思い
ます。

ボルネオ島サバ州には、キナバル州立公園という有名な公園があり
ます。ここは生物相の調査もよくすすんでおり、写真入りのきれい
なガイドブックなどもたくさんあります。わたしは行ったことがあ
りませんが、公園管理もいきとどいており、たくさんのツアー客が
おとずれるという話です。それに対し、今回の調査地であったクロ
カーレンジ国立公園は、生物相の調査もこれまであまりなされてい
ないようです。まずは現状をよく知ろう、ということではないかと
思います。

調査終了日に記者会見があり、その時点で成果のはっきりしていた
主なものが公表されました。その内容を報道した翌10月24日づけ
の地元のふたつの新聞New Sabah TimesとDaily Expressの記事
から、わたしの興味を引く内容をひろって要約したうえで紹介しま
しょう。まず生物多様性関係から。

●1989年に発見されて以来記録のなかったシダの1種が再発見さ
れた。
●2種のラフレシアの新しい個体群がそれぞれ発見された。
●マカランガ(植物の名前)の新種が発見された。
●これまでボルネオで記録のなかった2種のバンレイシ(植物の
名前)がみつかった。
●きれいな川にしかすまず商品価値の高い魚の1種がみつかった。
●2種の希少種をふくむ230種の鳥類が記録された。
●薬用植物28種、有毒植物3種、森にはえ食用になる果実37種、
森にはえ食用になる野菜11種が記録された。
●全北区に分布しスンダランドではみつかったことのないオドリ
バエの属の1種がみつかった。

社会科学的な内容では、

●公園の周囲の村人は外来者(不法伐採者などか?)に対する
ある種のバリケードとなってきつつある。
●これからの公園管理は「参加型」のものになるだろう。
●生物多様性の大きな脅威のひとつとされてきた移動耕作の文
化はおとろえつつあり、コーヒーなどへの転換がおこっている。
●森林をこわす移動耕作にかわって、オルタナティブな生計の
立て方を提供しなくてはならない。Sabah Parksがキナバル
州立公園でうまくやってきたようなエコツーリズムがヒントに
なるのではないか。
●クロッカーレンジは広いので、不法伐採者をとりしまるのは
むずかしい。村人や地方の行政官による侵入の防止は成果をあ
げている。しかし彼らは逆に不法伐採者の脅迫をうけてもいる。

・・・なかなか考えさせられる内容です。後半の社会科学的な
内容は、調査そのものの成果だけでなく、記者会見での議論の
内容もふくんでいます。

今回の調査は、行政上は保全することがきまっている国立公園
が対象ですから、開発行為の妥当性をしらべる環境アセスとは
目的が異なると思います。しかし住民へのインタビューを重視
する姿勢にはみならうべき点がありますね。

Sabah Parks(公園管理局)は専門の生態学者をやとっており、
Sabah Parks Nature Journalという紀要も発行しています。
又聞きですが、今後社会科学系の研究者をやとう計画もあると
いう話です。

日本の場合にたとえるならば、環境庁の自然保護局が専門の研
究者をかかえて紀要も発行しており、ほかの大学と共同で沖縄
あたりの貴重な自然の残る場所で国際的な調査プロジェクトを
主催し、日本や外国のさまざまな大学から多数の研究者が参加
する、そしてその様子がテレビや新聞で報道される、といった
状況ではないかと思います。

ひとことではいえませんが、参考になる点はいろいろありそう
ですね。それではまた。

Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp



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