[BlueSky: 1080] ボルネオの生物多様性調査


[From] suka@nacri.pref.nagano.jp (SUKA, Takeshi) [Date] Wed, 10 Nov 1999 22:26:37 +0900

青空MLのみなさん
          須賀です。

ごぶさたしておりました。しばらくマレーシア・ボルネオ島
サバ州の熱帯林の調査に行っていました。マレーシアの生物
多様性調査の片鱗をかいまみることができたので報告します。

この調査は、サバ州立公園管理局、国立マレーシア・サバ大学
、国立マレーシア・サラワク大学の3者が合同で企画し、海外
からも研究者が参加しておこなわれたものです。場所はクロッ
カー・レンジ国立公園で、ボルネオ島サバ州のキナバル州立公
園の南にあります。この公園の広さは淡路島の2倍程度で、サ
バ州で一番大きな国立公園です。期間は10月15日から23日ま
ででした。ボルネオ島は、世界でも最も生物多様性の密度が
高いとされる「生物多様性ホットスポット」のひとつにかぞえ
られています。調査の主な目的は、ここの生物多様性の現状を
少しでもあきらかにし、今後の公園管理に役立てることです。

参加人数は、研究者だけで200名以上(うち約60人がオース
トラリア、デンマーク、日本、米国など外国からの参加者)
で、このほか賄いや車の運転、新聞やテレビの取材などで数十
人のマレーシア側スタッフが現地に滞在しました。参加者は今
回の調査のために用意されたキャンプに入って、テントのなか
のハンモックで眠り、ときには川で水浴びや洗濯をするという
生活をしました(シャワーもありましたが)。食事は毎食用意
してくれました。

多くの研究者と共同生活ということもあり、捕獲されたコウモ
リや鳥、ヘビ、カエル、採集された植物などをみることができ
ました。野生のラフレシアの花や、アカエリトリバネアゲハな
どの美麗なチョウが飛翔する姿、板根やツル植物など熱帯雨林
を特徴づけるものや、夜間の灯火に集まってくる珍奇な昆虫類
などもみることができました。かなり日焼けしているわたしは
マレーシア人にみえる、と何人ものマレーシア人に太鼓判を押
され、実際、後日空港やホテルなどで数回マレー語で話しかけ
られました。

今回の調査であつかわれた分野は、土壌微生物学・動物学・植
物学から、公園周辺地域の伝統文化に関する民族植物学的研究
や社会学的調査にまでおよんでいました。デンマークが多くの
若い学生をおくりこんで社会学的調査にとりくんでいたのが目
をひきましたが、もともとデンマークは環境問題に熱心な国で、
これまでにもいろいろなかたちでボルネオの環境保護のために
支援をしてきているそうです。

地元の大学で民族植物学の研究を手がけているマレーシア人
研究者の話をきくことができました。公園周辺域の村々をま
わり、伝統的に薬などとして利用している植物についてきき
取り調査をおこない、植物採集をおこなうと言っていました。
地元の博物館には屋外にethnobotanical garden(植物園)
があり、このようにして採集された有用な植物がいろいろ植
えられていました。このような植物を薬学的に分析すること
も視野にいれているようです。

また、環境教育の仕事をしていて、これまでに多数のマレー
シアの一般のひとびとを熱帯林へ案内しているというひとに
も会いました。

熱帯林というと日本人には縁遠く、ただ自然の宝庫といった
イメージしかないかもしれませんが、地元の人々にとっては
身近な環境であり、有用な生物資源の宝庫でもあり、エコツ
アーなどを通じて現金収入につなげられる可能性のある場所
でもあるのだ、ということがわかりました。興味深かったの
は、こうした調査の企画が外国の研究者やNGOなどでなく、
マレーシア国内の関係機関・大学の主導でおこなわれている
ということでした。それから、調査に入っているマレーシア
の研究者や学生に女性の割合が多い(日本のこうした分野の
場合とくらべて)という印象もうけました。

熱帯林の生物多様性やその周囲をふくめた公園管理、住民の
福祉まで考えるというテーマはあまりにも大きく、このよう
な短期間の調査でわかることは、そのごく一部をかすめるも
のでしかありません。こうした調査に対する評価も、すぐに
くだせるようなものでないと感じます。しかし、生物多様性
の保全というテーマへのとりくみがこのようなかたちでエネ
ルギッシュにおこなわれている様子をじかに体験できたこと
はわたしには新鮮で、日本ではあまりしられていないことで
はないかと思いましたので、ご報告した次第です。


Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp



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