[BlueSky: 795] Re:771 共有地の悲劇:乱獲、外部性、利子率


[From] Minato Nakazawa [Date] Tue, 07 Sep 1999 13:57:43 +0900

ながみつさん,青空MLのみなさん,

中澤@東京大学人類生態です。こんにちは。
面白くて,よくわかる事例をありがとうございます。
しかし,難しいですね。

(件名:[BlueSky: 771] 共有地の悲劇:乱獲、外部性、利子率に於て)
Mon, 6 Sep 1999 09:14:15 +0900頃,Nagamitsu Teruyoshiさん:
> 1)乱獲(共有地の悲劇)
この答えは,Feenyらの解でいいのではないでしょうか。共同体所有
にすれば,「いーや,わしらのもんじゃ。取るのは許さん」といえます。

> 2)外部性
業者が他所者であれば,共同体所有による排除は可能でしょう。
業者が地元に金銭を落としていたとしても,地元民の総意が
金銭よりも,換金できない多面的価値を重視して(環境経済学
でいうCVMならば,海水浴や潮干狩りの機能などに,資源としての
砂に対してよりも,高い値段をつけるということになりますが),
砂の保持を選ぶ限り,業者を排除することはできます。

> 3)利子率
さて,難しいのはこれです。1)2)は長い目でみると
砂を残す方が得だというのが前提ですが,これは,砂を
取る方が金銭的には得だという場合ですよね。ヒトの一生を
こえるようなスパンは,意思決定の際には無視されそうです
から,所有者全体が砂の換金を望んでしまうかもしれません。
この場合は,やはり,文化的規制しかないのではないかと
思います。秋道さんが,自然への畏れの復権の重要性を主張
しているのも,この場合が念頭にあるのだと思います。
#もしかすると微妙に議論がずれているかもしれませんが,
#そうでしたら済みません。

「たたりがあるかもしれん」と説得するのは難しいですが,
「科学にはわかっていないこともたくさんある」ことをきちんと
認識してくれるといいわけです。砂を取ったときには予想できな
かった災害が起きて,補償にいくらかかるかわからない可能性
とか。予測モデルが立って一定のリスクに対して保険をかける
ようなシステム([789]坂田さんのRe:3)ができればいいですが,
それだと,保険料を払っても取り尽くす方が金勘定が得だったら
取り尽くされてしまいますね。
「予想外のことが常に起こりうる」という意味で自然への畏敬の
念をもっておく,というのは伝統社会でなくとも広めることが
可能と思いますし,意味のあることと思います。つまり,
環境内分泌攪乱物質にしても,フロンによる成層圏のオゾンの
減少にしても,PCBの悪影響にしても,当時の科学では予測でき
なかったわけですから。

また,文化的規制としては,価値観の転換を迫るという方法も
たしかにあると思います。
「そんなに金ばかり稼いで,それであんたはしあわせなんか?」
とか。賢者の贈り物みたいに,金は得たけれど使い途がない
という事態が馬鹿馬鹿しいことに気づけばいいのでは?
価値観なんて,確固とした個人や集団の属性ではなくて,状況
に応じて揺らぐものですから,いろいろな体験をしてもらって,
砂をとったらあかんことがあるかしれんなあ,と思う瞬間を
増やしていくことは可能と思います。甘いでしょうか。

まとまっていませんが,この辺で。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[過去のまとめ]http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/bssummary.html
↑初期の約200件分のまとめを追加しました。


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。