[BlueSky: 774] Re:749 DDT使用禁止に?


[From] Minato Nakazawa [Date] Mon, 06 Sep 1999 11:13:07 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

(件名:[BlueSky: 749] DDT使用禁止に?に於て)
Sat, 4 Sep 1999 10:21:52 +0900頃,Y.Kuzunukiさん:
> DDTは、使われない方が良いに決まっている。
> でも、一番必要としている地域は、貧しく、代替品を購入するのは困難。
葛貫さん,ご紹介ありがとうございました。マラリア研究に
片足つっこんでいる身としては,大変気になる話です。

本質としては,危険があるけれど役に立つものを「危険
だから使うな」といって良いのか? という問題ですね。
そう主張するとき,代替案を出すべきだとは思いますが,
ぼくは言うべきだと思います。なぜなら,DDTは,
途上国の伝統薬ではなく,西洋化学工業の産物だから
です。「木の根っこの魚毒は,河川を汚染するから使うな」
という場合は,もっと判断が難しいです。

DDTの場合に限って言えば,蚊の対策として,実はそれ
ほど有効ではありませんから,判断は難しくありません。

一つには,DDT耐性のある蚊が増えてきてしまうこと。
さらに,DDTの屋内残留噴霧では,蚊の吸血嗜好性や
マラリア媒介と無関係に,屋内繋留性の高い蚊を殺して
しまうこともその理由です。たしか,WHOの最近の
方針では,permethrinやdeltamethrinといった薬品を
水に溶いて,そこに蚊帳を浸すという作業を約半年毎に
することを勧めていると思います。これなら,環境への
分散は最小限で済みますし,ヒト吸血嗜好性の高い蚊を
選択的に排除することができます。また,微量な薬品に
ちょっとずつ曝露することによる人為選択がかかって
耐性ができる可能性も噴霧する場合よりずっと低くなります。
以上の理由で,ぼくはDDT禁止には賛成します。
#禁止反対派ってのは,いま「自国には売れない」DDTを
#途上国に売っている人たちではないかと……邪推でしょうか?

WHOは,蚊帳やpermethrinに関しては,かなり無料で
援助しているのですが,対象国内に入ってから,地元民の
手に届くまでには,地方政府や役人が運搬や配布で手数料を
とるので行き渡らない場合があるという問題点はあります。

もっとも,こうした「人道的な」援助によって,熱帯の
蚊の生物相を変えていることが,本当に自己満足でないのか,
形を変えたエゴイズムの充足でないのか,とは日々悩んでいる
ところです。
#ぼく自身は殺虫剤散布をしたことはありませんが,蚊帳を
#きちんと使えばマラリアにかかりにくくなるよ,とかいった
#ことは調査中,わりと積極的にいうので,これが伝統文化
#へのおせっかいではないのか? と自問しています。

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Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo


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