[BlueSky:06769] シンポジウム「信州の草原:その歴史をさぐる」のご案内


[From] SUKA Takeshi [Date] Wed, 9 Sep 2009 16:33:33 +0900

青空メーリングリストのみなさま

以下のとおり、草原の歴史についての公開シンポジウムを
開催いたします。開催日間近のご案内で、恐れ入ります。
みなさまのご参加をお待ちしております。

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シンポジウム「信州の草原:その歴史をさぐる」のご案内

総合地球環境学研究所プロジェクト 『日本列島における
人間-自然相互関係の歴史的・文化的検討』(通称:列島
プロジェクト)では,最終氷期以降,日本列島の自然が人
間活動の影響でいかに変遷してきたか,また,自然や個々
の生物に関する人間の認識・知識・技術はいかなるもので
あったかを歴史的過程として復元すべく研究をおこなって
います。今回のシンポジウムでは,「人間-自然相互関係」
が育まれたひとつの場として「草原」を取り上げ,列島プ
ロジェクトの成果にもとづいて,霧ヶ峰をはじめとする信
州の半自然草原の歴史にアプローチする視点を広く紹介し
ます。

1 日  時  2009年(平成21年) 9月12日(土)
        13時から17時まで(12時30分受付開始)

2 場  所  長野県諏訪市 片倉館2階大広間
        (上諏訪駅から徒歩5分)

3 対 象 者  どなたでも(事前申込み不要)

4 プログラム
  挨  拶  湯本貴和(総合地球環境学研究所)
  趣旨説明  須賀 丈(長野県環境保全研究所)
 「阿蘇の草原と火事の歴史」   
        佐々木尚子(総合地球環境学研究所)
 「土壌に残された野火の歴史」  
        岡本 透(森林総合研究所)
 「中世の狩猟神事とその盛衰」  
        中澤克昭(長野工業高等専門学校)
 「長野県におけるニホンジカの盛衰史」  
        小山泰弘(長野県林業総合センター)
  総合討論

5 参 加 費  無料

6 主  催  総合地球環境学研究所プロジェクト
「日本列島における人間-自然相互関係の歴史的・文化的
 検討」

7 共  催  長野県環境保全研究所

8 問い合わせ先  
  総合地球環境学研究所 第4研究室 湯本貴和   
  〒603-8047 京都市北区上賀茂本山457番地4
  Tel:075-707-2470 Fax : 075-707-2507
  http://www.chikyu.ac.jp/
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(参考:シンポジウムの趣旨説明  文責:須賀 丈)
温暖で湿潤な気候にめぐまれた日本は「森の国」であると
普通は考えられています。しかし一方で、日本の伝統的な
暮らしや文化のなかには草原と深くむすびついてきたもの
も少なくありません。『万葉集』で数えあげられたハギ、
ススキをはじめとする秋の七草は、人が手を入れ、利用す
ることで保たれる野草地の植物です。人が手を入れること
で保たれるこのような野草地のことを、半自然草原ともい
います。ススキはかつて屋根をふくカヤとして用いられ、
ススキ草原の植物は他の山野の植物とともに刈り取られて
田畑の肥料や牛馬の飼料として利用されました。ハギ・オ
ミナエシ・キキョウなどは盆花として供えられ、ススキは
オミナエシなどを添えて中秋の名月に供えられてきました。
野草地とむすびついて営まれてきたこのような文化を、日
本の生態系のなかにどのように位置づければよいのでしょ
うか。またその歴史はどのような歩みをたどってきたので
しょうか。

明治時代後半に国土の約13%を占めていたとされる日本の
半自然草原は、過去1世紀のあいだに大きく減少し、近年
では1%に満たないとされています。その結果、半自然草
原をすみ場所とする植物や昆虫の多くが絶滅のおそれのあ
る状況に追い込まれる結果となりました。秋の七草のキキ
ョウとフジバカマは、絶滅のおそれのある種としてレッド
データブックに掲載されています。またレッドデータブッ
クに掲載されているチョウの多くが半自然草原を生息地と
するものです。半自然草原の減少は、生活の近代化によっ
て自然と人間との関係が変化したことの結果です。皮肉な
ことに、身近な自然環境を直接利用することが少なくなっ
たことが原因で、古来人と共存してきた草原の生き物たち
が姿を消しつつあるわけです。このことは、最終氷期がお
わった縄文以降の温暖・湿潤な約1万年にわたる長い時代
を、草原の生き物たちがどのようにして生きのびてきたの
だろうか、という疑問をもあらためてよびおこします。

霧ヶ峰には本州で最も広大な草原が残されており、草原を
すみ場所とする植物や昆虫が生き残る貴重な場所となって
います。霧ヶ峰ではかつて肥料や飼料としてもちいるため
の草刈りや、草原を保つための火入れがなされていたとい
われています。現在、霧ヶ峰の草原の一部では森林化が進
みつつあり、火入れによって草原を維持する活動もおこな
われています。霧ヶ峰の草原の少なくともかなりの部分は、
人が利用することでつくりだされてきた半自然草原です。
周囲にみられる、霧ヶ峰と同じくらいの標高の山々の多く
が森林に覆われていることからも、そのことがうかがえま
す。霧ヶ峰の草原の歴史をくわしく知ることは、霧ヶ峰の
美しい景観やそこをすみ場所とする生き物を守り、将来の
世代に伝えていく上でも大きな意味をもっているはずです。

今日の公開シンポジウムでは、総合地球環境学研究所(文
部科学省)のプロジェクト「日本列島における人間-自然
相互関係の歴史的・文化的検討」の成果をもとに、霧ヶ峰
をはじめとする信州の半自然草原の歴史にアプローチする
視点を、広く地域のみなさんにご紹介します。このプロジ
ェクトでは、多くの大学や研究機関から研究者が参加し、
最終氷期以降の日本列島の自然と人間のかかわりの歴史に
ついての学際的な研究がおこなわれています。

●日本列島の本州以南で最も広大な草原地帯が阿蘇にあり
ます。この阿蘇地方では、最終氷期からずっと火災によっ
て草原が維持されつづけてきたことが、土壌中の炭の破片
・粒子やプラントオパールとよばれる植物の硬い組織の分
析からわかってきました。このような火災は、縄文人など
による火入れによって生じた可能性が指摘されています。
これらの研究は、信州の半自然草原の歴史にも多くのヒン
トをあたえてくれます。植生の歴史の研究者である佐々木
尚子さんから、このような阿蘇地方での研究の成果をご紹
介いただきます。

●黒ボク土(黒色土)とよばれる土壌の分析からも、火災
によって維持された草原の歴史にせまることができます。
この土壌は、草原が火災によって長い時代にわたって維持
された場合に生成されると考えられています。この土壌の
生成は多くの場所で縄文時代にはじまり、縄文時代の遺跡
の分布や遺物の調査などからその生成には人間活動が強く
関わっていると考えられています。また、その全国的な分
布は古代から近世の馬の放牧地と重なるといわれています。
霧ヶ峰から八ヶ岳山麓にかけての地域は、阿蘇周辺などと
ともに、この土壌が特に広くみられる地域のひとつです。
この分野の専門家である岡本透さんに、最新の研究動向を
ふまえて解説していただきます。

●中世の諏訪大社では、盛大な狩の神事が八ヶ岳山麓(上
社や霧ヶ峰(下社)でおこなわれていました。同じころ、
阿蘇には草原への火入れをともなう狩の神事があったこと
が知られています。諏訪の神事はどのようなものだったの
でしょうか。中世の狩にくわしい歴史学者の中澤克昭さん
にお話いただきます。

●こうした神事で狩られたと考えられる動物のひとつにシ
カがあります。シカは縄文人にとっても重要な狩の対象で
した。近年、シカの増えすぎによるニッコウキスゲなどに
対する被害が霧ヶ峰でも問題になっていますが、シカは最
終氷期以降、人やオオカミに狩られつづけてきた動物であ
り、そのバランスがくずれたことが近年の増えすぎにつな
がっているともいわれます。歴史学の専門誌に論文を書か
れている小山泰弘さんにこのようなシカの歴史をふりかえ
っていただきます。

これらの講演を通じて、半自然草原の歴史の深み、その研
究の多様な広がりのおもしろさを感じていただければさい
わいです。

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須賀 丈(SUKA Takeshi)
長野県環境保全研究所
自然環境部 研究員



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