[BlueSky:06397] 環境権


[From] SUKA Takeshi [Date] Thu, 03 Mar 2005 14:38:57 +0900

青空メーリングリストのみなさん

フランスの国会が憲法を改正し、環境権と環境保全の義務を
前文に明記し、環境権を基本的人権のひとつとして位置づける
ことになったそうです。(朝日新聞の記事↓)
http://www.asahi.com/international/update/0302/003.html

興味をもってしらべてみたら、いろいろ興味深いことがわかって
きました。広く社会的に対話を深めるべきテーマではないかと
感じましたので、いくつかのサイトをご紹介します。

環境権については、こちらに簡単な用語解説があります。
http://www.eic.or.jp/ecoterm/?act=view&serial=503
http://eco.goo.ne.jp/word/ecoword/E00328.html

1972年のストックホルム会議で採択された人間環境宣言
http://list.room.ne.jp/~lawtext/1972Environment.html
にももりこまれているとのことです。

日本弁護士連合会は1973年に「環境権の確立に関する決議」
をおこなっています。
http://www.nichibenren.or.jp/jp/katsudo/sytyou/jinken/70/1973_2.html

日本の憲法のなかに環境権を位置づけようという動きも
あります。笹山登生さんの論説は勉強になりました。
http://www.sasayama.or.jp/opinion/S_21.htm

読売新聞は、憲法改正試案のなかで環境権をもりこむことを
提案しており、
http://www2s.biglobe.ne.jp/~law/law/ldb/H06KENYM.htm
http://www.yomiuri.co.jp/teigen/1994/94main.htm
それをめぐって議論があります。
http://www.mirai-city.org/blog/archives/000036.php

自民党も検討をおこなっており、
http://news.tbs.co.jp/20050224/headline/tbs_headline1139087.html
護憲の立場から反対する意見もあります。
http://kenpou.exblog.jp/1676897/

憲法がらみの話になってくると、連動していろいろな政治的
問題がかかわってきて話がややこしくなりますね。

北海道大学総長 中村睦男さんの解説の末尾にある次の指摘も
示唆に富んでいるように思われました。
http://epc.eng.hokudai.ac.jp/centerhou/nakamura.htm
「……しかしながら、環境権の法的権利性を確立するためには、
 単に憲法に規定するだけでは不十分で、環境権の内容や権利者に
 関する国民の間のコンセンサスや権利性を判定するシステムを
 構築しなければならない。…(中略)…環境権の権利性を判定
 するシステムとしては、最終的には裁判所であるが、多様な人の
 価値観に関わり、しかも科学的な判断を必要とする問題を審理する
 能力はまだ裁判所に十分には備えられていない。裁判システムの
 構築は、21世紀の当面の大きな課題である。」

単に憲法にうたうだけでなく、権利のなかみやコンセンサス、それ
にかかわる多様な価値観や科学的判断を裁判システムのなかでどの
ようにあつかえるようにしていくかが課題だというわけですね。

このことに関係してくると思うのですが、上記の笹山さんの論説で
は、「今後検討を要する課題」として次の10項目があげられています。
http://www.sasayama.or.jp/opinion/S_21.htm

1. 憲法上に規定される環境権は、抽象的権利か、具体的権利か
2. 実質的な環境権の確立か、司法救済を目的とした環境権の行使か
3. 環境権は、人間中心主義か、生態系中心主義か
4. 国家に環境保護義務を求めるか
5. 現世代が、後世代のために環境の受託者として果たす責任を、環境権にもりこむか
6. 公共益と環境の公共益との、利益の比較衡量は、可能か
7. 環境権の権利主体は、なにか
8. 憲法上規定の環境権に、補完的立法措置は、必要か
9. 「自然享有権」を、憲法上に位置づけられるか
10. 公共信託の概念は、日本で定着しうるか

その上で、「国境を超え地球公共財をまもる『開かれた環境権』の
位置付けを」と訴えてしめくくられています。

個人的に、ざっとよんでちょっと気になったのは、10項目のうちの
3.と5.でした。「人間中心主義」と「生態系中心主義」といった
立場の分け方は、一見わかりやすいですし、事実いろいろな議論で
よくみられるのですが、この2分法でうまく切り分けられない立場
があって、それが大事なのではないかという気がしています。うまく
いえないのですが、生態系のはたらきの重要性とそれがもたらす
大きな価値について、従来の経済中心の価値観だけではとらえられ
ない広い視野から人間のとっての意味を再評価する、というような
考え方です。それから、現在の法律とか制度のなかで世代間の問題を
あつかうのがむずかしいのはわかるような気がするのですが、持続
可能な発展が実現するような社会制度を将来にむけてつくっていく
ためにも、現世代の将来世代に対する責任を環境権のなかにうまく
位置づけられるような工夫をなんとかさぐる方向で考えるべきなの
ではないかと思いました。

みなさんはどんなふうにお考えになるでしょうか。


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須賀 丈(SUKA Takeshi)
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