[BlueSky:06351] Re: 06345


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 14 Jan 2005 18:59:43 +0900

中澤です。
コメントありがとうございます>ゲンゴロウさん
# ちょっとメディアミックスの実験みたいな気分で面白いです。

> 庶民向けのニュースとして考えれば、下記のヤフーニュースの
> 様な表現で良いのではないかとも思います。
> −−−ヤフーニュース−−−
> 「全国の高齢者施設でノロウイルスによる感染性胃腸炎の発生
> が相次いでいる問題で、厚生労働省は十二日、全国の集団発生
> の集計をまとめた。今冬の感染性胃腸炎は全国二百三十六施設
> で発生している。感染者数の総計は七千八百二十一人で、うち
> ノロウイルスが検出された人は疑い例も含め五千三百七十一人
> にのぼっている。
> −−−−−−−−−−−−
この記事は,注意深く読めば,増えているとは言っていないの
ですね。ただ,「発生が相次いでいる」という表現と文章全体の
トーンが,今年になって急増したという印象を与えるのではないか
と懸念して,実態を説明する文章を書いてみたわけです。
でも,以下のゲンゴロウさんのご返事をみると,わかりやすい
説明にはまだまだ全然不十分でしたね。すみません。

> まず、このヤフーニュースが妥当と考えてみると、今までノロウイ
> ルスが検出されない為に発生が世間的に認識されていなかった
> ということがあり、過去に、発生があったのに、発生が認識されて
> いなかったということが、実際に、誤りだったということが浮かび
> 上がってきます?!
検出されないわけではなくて,検出率が低かった可能性があるのです。
イメージをつかんでいただくために細かい話を取っ払って例をあげれば,
平成11年までは5200人しかいなかった患者が平成12年になって8000人
に急増した原因として,本当に患者が増えたのではなくて,平成11年
にも8000人の患者がいたけれど,検査法の感度が低くて2800人は
見過ごされてしまっていたと見なすということです。

> 「現象の存在論」的な話になりますが、はたして「発生」とは如何
> なることか?ということなのかもしれません。存在しているのに見
> えなかった為に、発生が見逃されていた時と、今、その存在が、
> 一般社会に認識されるようになった時とを、元々、それらが見えて
> いた専門家の目で見ては、一般社会でノロウイルスの存在につ
> いては変になるような気がします。
なるほど。たしかに世間話ではその方が通りがいいのが現実ですね。
ただ,ぼくはそこを変えたいのです。というか,専門家と一般社会が
共通理解をもつようにしたいのです。つまり,

マスメディアが問題だと騒ぐ→政治家や官僚が国民の目を意識して
場当たり的に対策したポーズをとる→実効が上がらないか金の無駄

というよくある流れを減らすためには,メディアが騒ごうが
どうしようが,国民の方がしっかりと報道の中身を判断すればいい
のだと思います。今回の問題のターゲットはウイルス対策ですから,
(1)報道量が増えただけなのか,
(2)患者が増えたのか,
(3)これまで患者として数えられていなかった人が患者として認識
されるようになったのか,
この3者を誰もがはっきりと区別できるようになって欲しいのです。
感染症対策は疫学的な知見に基づいて行われるので,疫学的に重要な
この区別が共有されないと,対策の合理性について異なる立場から
議論することができません。
まあ,いきなり国民すべてにメディア・リテラシーとかリサーチ・
リテラシーを求めても難しいと思うので,まずはマスメディアの
報道の質を上げて欲しいと思うわけですが。
_____
Minato NAKAZAWA, Ph.D. <nminato@med.gunma-u.ac.jp>
http://phi.med.gunma-u.ac.jp/
at 17:48:53 on 14 (Fri) January, 2005


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