[BlueSky:06233] 悪人礼賛


[From] "genngorou" [Date] Wed, 17 Nov 2004 00:44:08 +0900


ゲンゴロウ。。。

 文学とは不条理を著すことであるといっても過言ではなく、
その不条理は、往々にして「善に疑いを持たない善人を自称
する善人がひき起こす不条理」が、やたらに多いと言っても、
過言でない。 
善意さえあればと、「善を武器」にしてやまない人間の多い
こと。。。自分の行為に疑問を持てぬ脳の恐ろしさ。。。。

もし、「お前の想いを示せ」と言われたら、私も、これ↓だな。

−−−悪人礼賛−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 「ぼくの最も嫌いなものは、善意と純情との二つにつきる。」

 「善意、純情の犯す悪ほど困ったものはない。」
「最もいけないのは、彼らはただその動機が善意であるという
だけの理由で、一切の責任は解除されるものとでも考えている
らしい。かりにぼくがある不当の迷惑を蒙ったと仮定する。開き
直って詰問すると、彼らはさも待っていましたとでもいわんばか
りに、切々、咄々としてその善意を語り、純情を披瀝する。
 驚いたことに、途端にぼくは、結果であるところの不当な被害
を、黙々として忍ばなければならぬばかりか、おまけに底知れぬ
彼らの善意に対し、逆にぼくは深く一揖(いちゆう)して、深甚な
感謝をさえ示さなければならぬという、まことに奇怪な義務を負
っていることを発見する。
驚くべき錦の御旗なのだ。もしそれ純情にいたっては、世には
人間四十を過ぎ、五十を越え、なおかつその小児の如き純情を
売り物にしているという、不思議な人物さえ現にいるのだ。
 だが、四十を越えた純情などというのは、ぼくにはほとんど精
神的奇形としか思えないのである。
 それにしても世上、なんと善意、純情の売り物の夥しいことか。」

 「金はいらぬ、名誉はいらぬ、自分はただ無欲でしてと、こんな
大それた言葉を軽々しく口にできる人間ほど、ぼくをしてアクビを
催させる存在はない。」
 「金がいらぬという男は怖ろしい。名誉がいらぬという男も怖ろし
い。無私、無欲、滅私奉公などという人間にいたっては、ぼくは逸
早くおぞ気をふるって、厳重な警戒を怠らぬようにしてきている。
いいかえれば、この種の人間は何をしでかすかわからぬからであ
る。・・・・そうした警戒をしておいて、後になってよかったと思うこと
はあっても、後悔したなどということは一度もない。」

           中野好夫『悪人礼賛』ちくま文庫から、部分引用

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 上記の文章、文部省の「一般高校教科書」の多くに掲載され
ているのだから、感心してしまう。この文章は柔らかな文章表現
だが、私などは過激で、自分に酔っている者を見ると、その害を
感じて、「てめぇーは人間じゃ〜ねぇ」と言いたくなってしまう。
と、いくら多くの人間がそれを言っても、当の本人には悪意がなく、
善人なのだから、自分の害にとんと気が付かないわけで、それが、
中野好夫の言う「善意の善人」だから、始末に悪い。
この文章が50年の歳月を越え消えずにあるのは、それが普遍的
な事実だからだろう。はやい話が、要注意人物ということだな。。。







__________________________________
Do You Yahoo!?
Upgrade Your Life
http://bb.yahoo.co.jp/


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。