[BlueSky:06126] Re: 遺伝子と選別教育


[From] "IWAO, Keisuke" [Date] Wed, 22 Sep 2004 16:49:47 +0900

こんにちは、巖です。
すみません、言いっぱなしにしたまま皆さんのコメントに反応もせずに。

最初に[BlueSky:06117]に書いたように、
私の興味は「選別教育は是か非か」ということより、
「遺伝子で選別が可能なのか」という点でした。
で、私はそれはムリだと思う、と書いていたわけですが、
みそのうさんが[BlueSky:06119]で指摘されたとおり、
IQに関わる遺伝子というのが第6染色体上に見つかっていました。
私の不勉強でした(別の本で読んだことがあったというのに!)

そういうことで、私の最初の主張はいきなり腰砕けになってしまいました。
でも、まだなんとなくしっくりきていないので、よく考えようと思いつつ今に至ります。
それで、まだよくわからないのですが、わからないままに少し書きます。

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知能のようなものでも遺伝的基盤があるのは当然です。
ヒトもまた進化の歴史の産物ですから。
しかし、そのことと「遺伝子を調べれば能力がわかる」ということは
ほんとうに同じなんでしょうか?

たとえば、上記の第6染色体上のIGF2R遺伝子についていえば
特定のタイプのこの遺伝子を持つ子供は、
平均してIQ値が4ポイント高かった、ということです。
統計的に有意な差であり、偶然とは考えられない。
しかし、その差はわずか。
当然、その遺伝子の持ち主がかならず持たざる者よりIQが高いわけではない。
平均値の両側には、環境や他の遺伝子の影響による
広大なばらつきのすそ野が広がるのです。

マット・リドレー著「ゲノムが語る23の物語」(紀伊國屋書店, 2000)によれば、
 知能の遺伝性には遺伝と環境の両方が同じぐらい関わっている
ということが最近の多くの研究がおおむね指し示すところらしい。
遺伝子の影響が半分あるのだから選別できると考えるのか、
環境の影響が半分あるのだから選別しても結果は出にくいと考えるか。

わずかな差をもたらす遺伝子がたくさんあるとすれば
そのすべてを持つ個体とひとつも持たない個体の差は
それなりに大きくなるでしょうが、
大半の人はいくつかを持ちいくつかを持たない
中間型になるでしょう。
ならば、分布の両端は選別できるにしても、
大半の人は選別不能の「凡百の民」となるのでは。


んー・・・、自分で話をどう展開したらいいかわからないのですが、
要するに、
 遺伝子で能力を選別して特別な教育をすることで、
 選別しない場合に比べてどれだけなにが達成できるのか、
ということでしょうか。

知能遺伝子をたくさん取りそろえている、ごくまれな天才を花開かせる
ということが目的なら、現状でもそういう人は
たいてい自力で道を切り開いているのではないのか。
それ以外の、多くの人が属するレベルでは、
選別したところで結果の違いは知れているのではないか。
という気がします。

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よく練れていないことをだらだら書いて申しわけありません。
また、「遺伝子で選別が可能か」という点のみ考えて書いたので
不穏当な表現もありますがご容赦ください。

ところで、上記の「ゲノムが語る23の物語」は
かなり面白い本です。
ヒトが持つ23組の染色体それぞれで発見されている遺伝子を取り上げて
人間と遺伝子の微妙な関係を絶妙の語り口で書いています。
分厚いのですが、止まらなくなります。おすすめです。


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巖 圭介(いわおけいすけ)
桃山学院大学社会学部
iwao@andrew.ac.jp
http://www.andrew.ac.jp/sociology/teachers/iwao/


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