[BlueSky: 3542] Re:3539 欠陥議定書


[From] "Hisao Fujii(藤井 久雄)" [Date] Wed, 18 Jul 2001 05:43:10 +0900

皆様、一ノ瀬様
森林NGO緑友会 事務局 藤井久雄

 一ノ瀬様の議論の書き方は客観性を欠いていると思いますので、少し書かせて
頂きます。

On Tue, 17 Jul 2001 00:19:21 +0900
ICHINOSE-Takeshi <Nose@t.email.ne.jp> wrote:

> 尼崎市の一ノ瀬です。
>
>  小泉首相は、アメリカを”ギリギリまで説得する”立場を鮮明にして、アメリ
> カ抜きの議定書発効を主張する、フランス、ドイツや、一部メディ
> アから批判を浴びています。
>  私は、小泉政権は支持していませんが、この件に関しては、首相の方針が正し
> いと思います。
>  ものすごく遅くなってしまいましたが、#3443の須賀さんの発言へのコメント
> になります。
>
>  理由は非常に簡単です。
>  世界最大の排出国が参加しない議定書など無意味です。
>
>  京都議定書を根本的に書き直すことになったとしても、アメリカの参加を実現
> させるべきです。
>  アメリカに大幅に譲歩することになったとしても、野放しにするよりは遥かに
> ましです。

 取りあえずアメリカ抜きでも京都議定書を発効させるのと、なんとかアメリカ
を加える努力をするのと(それでもアメリカが加わるかどうかはわからないです
し、とにかく現在アメリカは具体的数値目標を設定する気はないような発言をし
ています)、どちらが全世界での排出量を少なくできるかという判断の問題で、
アメリカが入らなければ無意味ということでは無いでしょう。

 アメリカが喜んで加わる様な骨抜き条約を新たに作るより、京都議定書が発効
した方が、アメリカへも削減圧力が掛けやすいという判断は、多分に有り得ると
思いますが。

 それに、小泉内閣や日本の姿勢を擁護するのは根本的におかしいと思います。
日本がアメリカ抜きでの批准を渋っている背景には、アメリカもCO2削減をし
なければ温暖化が止められないということより、アメリカが批准せずに日本だけ
が批准すると、日本の産業のアメリカ産業に対する競争力が落ちるという近視眼
的怖れが作用していると思われます。



> ”日本の面子が丸つぶれになる”という意見もあるようですが、面子など、温暖
> 化防止とは関係のない事柄です。
>
>  最近ワガママの目立つアメリカは、CTBT(包括的核実験停止条約)につい
> ても離脱を表明しています。
>  CTBTを、”アメリカ抜きで発効”させても全く無意味であるのと同じ意味
> で、アメリカ抜きで議定書を発効させても無意味です。
>
>  アメリカは怪しからんのですが、それに義憤を感じたところで何の足しにもな
> らない。この条件下で、どうやれば温暖化ガス排出を削減できるのか、柔軟に手
> 段を考えるべきです。
>
>  それに、京都議定書には、致命的とも言える大きな欠陥があります。
>  EU諸国は、タダでその欠陥の恩恵に与れるから京都議定書に賛成していて、
> そうでないアメリカは反対している。
>  実に単純な構図です。
>
>  対立と混乱の原因が京都議定書にある以上、議長国の責任において、日本は自
> らの手で欠陥品を葬るべきだと考えます。

 もし京都議定書に欠陥があると考えるならば、それを是正する建設的提案をし
て行けばよいのです。そうしてこなかった日本やアメリカを擁護する理由はあり
ません。アメリカは離脱表明後未だに十分な具体的提案が出来無いままです。ア
メリカや日本や川口環境大臣が、今までにしてきた主張は、森林吸収による抜け
穴を増やし実際には森林への人為活動が吸収に貢献していようがしていまいがと
にかく沢山削減量に算入せよ、原発輸出もCDMに認めろ、排出権取引や共同実
施やCDMやといったメカニズムを出来るだけ活用して自国内削減は最小で済む
様にしろ、目標が達成できなくても罰則はなくせ、等々の、全く削減義務を出来
るだけ逃れて議定書を骨抜きにしようという産業優先の姿勢の発言ばかりだった
のではないかと思いますが。そのような、環境を守ろうという姿勢の不足した不
誠実な交渉姿勢を正当化する理由は無いと思います。自国のエゴばかり主張する
のではなく、少しは、客観的・公正な立場から、地球環境を守るためにはどうす
ればよいかを発言すべきでは無いでしょうか。


>  欠陥議定書の欠陥を放置したまま、京都議定書の発効を主張する人々が、一体
> 何を目指しているのか−−本当に地球温暖化を防止する意志があるのか−−私に
> は大変疑問感じられます。

 あなたやアメリカの様に、何の建設的提案もせずに京都議定書はつぶせという
のが、「本当に地球温暖化を防止する意志がある」ということなのですか?ふざ
けた発言はしないでもらいたいです。


On Tue, 17 Jul 2001 22:52:57 +0900
ICHINOSE-Takeshi <Nose@t.email.ne.jp> wrote:

> 尼崎市の一ノ瀬です。
>
> 松尾さん#3538<
>  致命的とも言える大きな欠陥とはどういうところなのでしょうか?
> >
>
>  温暖化ガス排出削減は、一朝一夕に実現できることではありません。技術開
> 発、インフラの再構築、人々の生活様式の変更、等様々の課題をクリアして行か
> ねばなりません。
>
>  多分、非常に長い間、場合によっては今後数十年以上の息の長い取り組みを続
> けることで、初めて真の温暖化回避が実現できます。しかも、そのような長期間
> に亘って、地球上の全人類がこの目的のために協力し続けなければなりません。
> 地球環境問題と呼ばれる所以です。
>
>  そのためには、一体何が最も重要なのでしょうか?
>
>  私は、「公平性の確保」こそ、最も重要だと考えています。
>  
>  にもかかわらず、京都議定書は、区々たる数字のつじつま合わせばかりで、こ
> の根本が欠如しています。
>  そして、根本を定めないまま、目先の「**%削減」という表面的な数字に拘
> ったために混乱を引き起こしました。
>

 多くの国が知恵を出し合った結果、この方式になったのであって、それより良
い案が有ればお出しになれば良いのだと思いますが。現在の数字も、こういう問
題で公平は難しい中、出来るだけそれを目指して各国が交渉した結果だし、それ
がおかしいというなら、未だ交渉の余地は有ると思いますが。


> 「1990年の排出量を基準にして**%削減」という決め方自体からして、1
> 990年当時の排出量が少ない、発展途上国を著しく不公平に扱っています。
>  大きな欠陥です。
>
>  この矛盾を回避するために、「先進国のみが削減義務を負う」という論理が編
> み出されたわけですが、一度こう宣言してしまうと、その後に、発展途上国に削
> 減努力を促すことは非常に困難になります。だから、未だに具体的な実現の目処
> が立っていません。
>  これも大きな欠陥です。

 発展途上国に数値目標を定めることは極めて困難でしょう。何せこれから成長
するわけですから、数%といった値は平気で変動してしまいますから。

 矛盾回避のためだけに「先進国のみが削減義務を負う」と決まったわけではな
く、過去のCO2増加には先進国が非常に多くの責任を負っているという背景が
有ってのことだと思いますが。

 私も、途上国も出来るだけ何らかの形で削減枠組みに参加出来る方が良いとは
思います。しかし、京都議定書が発効しないより、取りあえず発効させて、その
後で途上国の参加の道も考えても良いのではないかと思います。何せ温暖化は一
刻も早く対策を強化すべき問題ですので、先進国だけでも対策に弾みをつけるこ
とが必要だと思います。


>
>  第一、第二の欠陥を補うために、結果として、排出権取引などの、様々の複雑
> な分かりにくいルールが付加されることになりました。
>  これも大きな欠陥です。
>

 これも、欠陥を補うためと言うより、このようなメカニズムを加えた方が地球
全体として低コストで効率的に削減が出来るという理屈を言う国が多かったから
では無いでしょうか。その際たるものは、自国削減を出来るだけ減らしたい、ア
メリカ等だと思いますが。


>  更に、EUは集団として削減を達成すればよい、という詭弁が導入されまし
> た。
>  EU内部には、旧東独地域が含まれています。旧東独地域は、破滅的な経済後
> 退から未だ抜け出せていませんが、温暖化ガスの排出は激減しました。EUの排
> 出削減は、大部分が旧東独地域の寄与です。失業や自殺を幾ら出しても良いとい
> う温暖化ガス排出削減など、欠陥以前の、非人道的やり口です。
>

 確かにいわばEU内は排出権取引が完全自由になっている点で不公平かも知れ
ませんが、その分EUは8%という高めの削減目標が設定されました。

 東独の排出減少は、あなたがお書きになったように大きなものではないと思い
ますが。すぐに出てくる手元のOECDの統計では、1987年から1997年の間にド
イツのエネルギー消費は5%減っているだけで、(すぐに出てくる手元の統計が
完備していないのですが)1987年から1989年の間でも5%近く減っているので、
1990年以降はあまり変わっていないかもしれません。他のEU国の1987年から
1997年の間のエネルギー消費は軒並み増えていますから、ドイツの削減でまかな
えるというような状況とはほど遠いと思いますが。


> ”理念無き各論の寄せ集め”それが京都議定書を評するに最も適切な言葉だと思
> います。
>  これら全て、京都議定書の欠陥です。
>
>
>  なぜ、「温暖化ガスを排出する人類は全て、無駄な排出を避けるために、経済
> 的技術的に可能な範囲で努力する義務を負い、究極的には排出量を削減させる義
> 務を負う」と謳わなかったのか?私にはそれが不思議でなりません。
>
>  京都議定書を巡っては、”先進国は努力が足りない”とか、”途上国が削減義
> 務を負わないのはおかしい”とかいった、見苦しい非難合戦が起こっています
> が、不毛だと感じています。上述のような、京都議定書の内容を放置していて
> は、進展は期待できません。
>
>  以前にも指摘したことがありますが、不公平で、しかも、肝心の温暖化防止へ
> の道筋が全く見えていない議定書に対して、民主主義国家がそれを批准しなかっ
> たとしても、むしろ当然であるといえます。
>
>  誤った議定書を改めるのを、ためらうべきではないと思います。

 理念をどううたうかよりも、実際の削減の中身をどうするかがより重要だと思
います。いずれの国も、公正でグローバルな視野から自国のエゴにとらわれずに
望ましい削減の在り方はどうあるべきか、建設的な提案をして行くべきです。あ
なたやアメリカの様に、京都議定書の欠点を言い立てて、京都議定書を壊してい
るだけでは、何も生まれません。アメリカや日本の様に、産業・経済を偏重して
環境をなえがしろにし、出来るだけ国内努力をせずに済む議定書にしようとして
いるのが本音で交渉されては、まとまりようが無いのではないでしょうか。


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藤 井 久 雄(fujiihi@nisiq.net)
森林NGO緑友会(森林・林業・自然と研究のためのNGO)事務局
http://www2s.biglobe.ne.jp/~ryokuyu/ E-mail ryokuyu@nisiq.net
TEL 090-1800-4721
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