[BlueSky: 3119] 開発の多面的影響(ソロモン諸島調査簡易レポート)


[From] Minato Nakazawa [Date] Fri, 16 Mar 2001 13:05:17 +0900

中澤@東京大学人類生態です。

前のメールで触れたソロモン諸島調査について,詳しい話はいずれ
レポートするつもりでいますが,簡単にご報告します。

なお,調査中の日記を,
http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/solomon2001.html
におきました。写真を別にしても65 KBほどの長文ですが,関心の
ある方はどうぞ。

さて,ソロモン諸島では,昨年のエスニックテンション(ガダルカ
ナル島出身の人とマライタ島出身の人の長年の諍いが噴出したもの
で,筑波大学関根さんのサイト
http://member.social.tsukuba.ac.jp/sekine/coup.htm
に詳しい情報があります)で,ほとんどの外国企業が国外脱出して
しまい,開発が一時停止状態になりました。

開発の停止自体は自然資源や文化遺産を保つ上では良い意味ももっ
ているのですが,しかし同時に歳入の多くをそれら外国企業に頼っ
ていた国の財政が破綻寸前になり,クリニックのナースや学校の先
生にも給料を払えなくなってしまい,生活の質が低下したと感じて
いる住民は多くいます(もちろん,近代化以前に戻ると考えれば,
悪いともいいきれないのですが,抗生物質で膿だらけの皮膚病が治
り,クロロキンでマラリアから子どもの命を救えると知ってしまっ
た住民にとって,クリニックの機能停止は生活の質の低下に他なり
ません)。

ニュージーランドの援助でエコツーリズム目的に作られたたくさん
のロッジにも全然客はこないし,ソロモンタイヨーから「まるは」
が手を引いてしまって操業停止が続いているために既に村人レベル
でもおいしい食べ物として定着しているカツオの缶詰が払底してし
まい,米とラーメンの味に慣れてしまっている,町で仕事をしてい
た人たち(テンションの影響で失職して村に帰ってきている)は,
芋と魚だけの食事には飽き足らなくなっています。

一方,マレーシア系の森林伐採・製材会社やアブラヤシのプランテ
ーション会社はかなり営業を再開していて,そこで働くマレーシア
人やフィリピン人を相手に芋や魚を売ったりすることで収入を得る
といった間接的な意味でも,直接そこで雇用されるという直接的な
意味でも大きな影響があります。以前はアブラヤシプランテーショ
ンといえば除草剤の環境影響も大きかったのですが,現在やってい
る企業は環境に配慮して,除草に薬品は使っていないと言っている
人がいました(裏はとっていません)。労働集約的なので,これに
従事する人は家族の住む村から離れたキャンプにウィークデイは住
み込んで長時間労働に従事せねばなりませんが,その収入のおかげ
で家族は米を食べられるわけです。一方,プランテーションはかな
り大きな面積を裸地に近い状態にしてから植え付けるので,ただの
伐採よりも環境影響は大きく,土壌流出による海洋汚染のような問
題も起こっていると言われています。また一方では,企業による伐
採を,焼畑として拓くのに必要な面積だけに制限して,うまく利用
している村もありました。

このように開発には多面的な影響があって,どうしたら住民が持続
的に幸せになれるかという問題は,簡単にはわかりません。多面的
相互影響をすべて考慮した複雑系として分析して,住民の生活と調
和した開発のあり方を探るというのが調査目的なのですが(詳細は
http://future.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/を参照してください),
これは相当な難題です。ただし,うまくすると,ソロモン諸島に限
らず,外部による開発と地域住民の生活の調和という一般的な問題
に対するアプローチの方法を提案できるかもしれないので,大きな
意義があると思っています。進展したらまたご報告します。

=====
Minato Nakazawa, Ph.D. <minato@sv3.humeco.m.u-tokyo.ac.jp>
Department of Human Ecology, Univ. Tokyo
[WEB] http://sv2.humeco.m.u-tokyo.ac.jp/~minato/index-j.htm


▲前の記事へ ▼次の記事へ △記事索引へ △青空MLトップへ

(注)この記事が最新である場合,上記「次の記事へ」はデッドリンクです。