[BlueSky: 2231] Re:2226 自然の価値


[From] "SUKA, Takeshi" [Date] Fri, 18 Aug 2000 21:55:45 +0900

須賀です。

佐川さん:
> 漂流者が可能な限り生き延びるためには、“持続可能”な行動でなけ
> ればならないでしょう。

そうですね。「持続可能な開発」とか「持続可能な利用」といったことば、
「自然保護」に関係する仕事をはじめるまではあまり深く考えずにフフン
と軽蔑しているようなところがわたしにはあったんですが、最近考えれば
考えるほどあなどれない考え方だなと思うようになってきています。

もっともそうなればなるほど、今度は自分自身がひとにあなどられやすく
なったような気もしているので、佐川さん、要注意ですよ!

小宮さん:
> 確かに、環境問題を考える際は、さまざまな視点や対立する概念
> が多くて、本当に難しいものだと最近思ってます。

まったくですね。ひとりひとりが自然に対して考えること感じることは
いろいろであっていいし、それがあたりまえの姿だと思うんです。でも
問題が生じて何か解決策なり、その方向なりを議論しなければならなく
なったときに、話をなりたたせるのが本当にむずかしくなってしまう。

でも何とかしなきゃいけない場面というのはたくさんありますよね。
そういうとき、せめて対立する立場どうしが同じテーブルにつける
ような共通の土俵みたいなものだけでも整えられないものか。そういう
お人好しなことをよく考えます。

「生物多様性の多様な価値」といった議論も、本来の趣旨は、ひとり
ひとりが、あるいはさまざまな社会的立場や文化に属するひとたちが
自然に対していろんなことを感じたり考えたりする、というあたりまえ
のことをみとめあおう、ということを了解しあうために出てきている
んではないかとわたしは思うんです。でも、実際にはそのこと自体が
まったく逆のかたちでうけとめられてしまうこともある。どういう
かたちでならひとは自然の価値についてのとらえ方を了解しあえるの
か、終わりのない道でしょうけれど、模索はつづくでしょうね。

小宮さん:
> ちなみに、先のメールのペリカンとバナナの出典を挙げておきます。
>
> 「環境倫理学のすすめ」(加藤尚武-丸善ライブラリー)

わたしも就職する少し前によみました。この本もそういう模索のひとつ
として、いろいろなことを考えさせてくれる本ですよね。

須賀:
> 興味深いのがもう一方の「利用しないことの価値」の部分の説明です。
> こう書いてあります。
>
> 「非利用的価値又は受動的価値は、友人・親類縁者・その他の人々に
> 対する利他主義(代償利用価値)、将来世代に対する利他主義(遺贈
> 価値)、ヒト以外の種や自然一般に対する利他主義(存在価値)に由
> 来している。これらは、道徳的、倫理的、精神的、宗教的思考によっ
> て動機づけられることがある。」

小宮さん:
> ご説明の広い意味を含んだ経済的価値のような、なんらかの尺度が
> 必要なのかもしれませんね。

ええ……、ただ、わたしは、こういう考え方でたとえば「全世界の
心やさしいひとびとの利他行動によってえられる環境保全上の収益
何兆ドル」というふうな試算を別に期待してはいないのです。そう
いう論文がジョークとして出たら自分でとりよせてよむだけでなく
面白がってひとにもすすめてまわったりするだろうとは思いますが。

上の説明をわたしが面白いと思うのは、経済的観点といいながら実は
ふつうの意味での経済について語っているのではないところです。
こんな人間のこころのやさしさから発する行動が、結果的に自然を
持続可能なかたちに保っていくのも役立つ、というようなことを
言っているのだろうと思うのですが、表現といい、理屈といい、
強引といえば強引ですよね。そのへりくつすれすれの(?)強引さ
が面白いというか、なんとかして立場のちがうひとたちのあいだの
橋渡しをしようとしているけなげさにキュンとくるのです。

葛貫さん:
> 目に見えた経済的な利益に直結しない精神や心の「遊び」の部分を
> 求めるのにも、科学的な論拠(?)が求められるとしたら、ずいぶん
> 生きにくい世の中になってしまうだろうなと思いました。

そうですね。ですから、わたしがうえで紹介した文も、そう深刻に
うけとめることはないんじゃないかな。などといったらお気楽すぎ
るでしょうか。重々しく紹介しておきながら、実はわたしはあたま
の体操くらいにしか思っていなかったのでした。ゴメンナサイ。

一見経済的に役に立たないし、科学的でもない、人間のことをどう
思っているんだ、と理屈の上ではつっこまれてしまうような素朴な
気持ちから発した自然を大切に思う気持ち。

実はこういう気持ちがもしかしたら「ひとにとっての自然の価値」
を一番よくあらわしているかもしれないんですよね。





Takeshi SUKA
Nagano Nature Conservation Research Institute (NACRI)
E-mail: suka@nacri.pref.nagano.jp


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