[BlueSky: 213] Re:193 科学技術への負の態度


[From] "Kaz. Yokoyama" [Date] Fri, 30 Jul 1999 19:03:20 +0900

後藤さん,青空MLの皆さん

和尚.横山@農環研です。
なんのなんの筑波も暑いですよ(笑),暑さ比べしても仕方ないですが・・・・
再び徒然につらつら書きます。

ところで,環境論MLと青空MLって闘ってるんですか?
原水何とかみたいに・・・・?

Ken Goto さんは書きました:
>確かに直結する分野もあるでしょう。しかし、生態学とか分類学とか、僕の専門
>の生物リズム学とか、、、技術とは直結しない分野もたくさんあります。ざっと、
>両者の違いを思い付くまま列挙しておきます。
(中略)
>また、科学技術に直結する科学分野は各種援助金が潤沢ですが、そうでない科学
>分野(一部、ビッグサイエンスを除く)は冷遇されてきたのが常態です。

後藤さんの言いたいことは分かります。(後藤さんは科学者だと認識していますから)
そこを敢えて言いますが,これは余りにも脳天気な考えです。
科学者の意志とは全く無関係に科学の成果は現に技術に直結しています。
純朴な科学者自身が知らないだけなのですよ。

そう言う意味で,(第三者的には)どんなに技術と縁遠そうな研究も,少なくともやってる
本人は技術に直結しているのだと考えて行う必要があると言いたかったのです。

>また【186】のような議論では、両者を厳密に区別しないと、混乱の素になり
>ます。

全く区別したがるのが科学(分けて学ぶ)者の良くも悪くも特性ですネ。
法的責任論ではまた話は別ですが,現実の世界では厳密な区別などないと考えた方が
良いのです。少なくとも環境問題のような複雑な問題を扱う場合はこの視点は不可避です。
そうすれば,
「科学は悪くない,技術が悪い」とか,「技術自体は悪くない,作った企業の責任だ」,
「否,企業は使う人間がいるから作るんだ」,「否,認可した国が一番悪い・・・・」,
などと言った不毛な議論をしなくとも済むのです。
問題が起きちゃえば,結局みんな当事者ですからね。

以下,後藤さんの意見良く分かりますが,敢えて違った視点で議論を楽しんでいます。

>でも、例えば、「解答困難」という把握であっても、そこから導かれるのは「逃
>避」だけではなく「挑戦」である場合もあるわけです。また、「世界は複雑」と
>思う人が「科学技術への負の態度」へ「短絡」する場合が仮にあるとしても、そ
>れは、その人が「世界は複雑だ」と認識しているからではない、と思います。

後藤さんくらい物事をじっくり考えることが出来れば,中高生も「解答困難(絶望)感」に
陥ることはなかったでしょう。しかし,残念ながら彼らはすぐに(しかも簡潔な)答えが
欲しいのです。これに対して殆どの現実世界がそうであるように,多くの要因が複雑に
絡み合って,因果則自体が崩壊しているような世界をみると,彼らは簡単に白旗を揚げ
ます。

「解りません,だって複雑すぎるんだモン」てな具合です。

これってむしろ単純系科学の得意な単純な世界観の弊害なんですよ。
大学でも日常的にやってるでしょう,「系を単純にしよう」って・・・・
それでもって結果は「単純に有意な差が有るか無いか」の積み重ねでしょう。
単純に出来ない対象は,研究に適さない対象としてませんか?

私が前述したような曖昧な複雑性なんかどんどん排除してるでしょう?
科学がしていることは無限の複雑性を一生懸命になって単純にしてる
行為なんですよ。最後は全部が単純になると信じてる素朴な人も少な
からず居ますしね。だけど,これは無理ですよ。無限から有限を引いても
やっぱり無限な未知が残っているのです。
私が仕事としている「土壌微生物群集」なんて将にその様な世界で,お陰で
重要さはみんな認識しつつもずっと放置され続けてます(笑)。

待てよ,後藤さんの一貫した発言を見るに,後藤さんは本当に人間が好きなのでは
ないですか?
視点が人間にどっぷり浸かってますね。悪い事じゃないけど,私はもう一歩引いて
自分自身の愚かさや悪行も含めて真っ直ぐに人間を見て行きたいと考えているのです。

そう言う意味で,「昔は良かった」的感慨は無いですね。昔も昔で人間は愚かだったと
考えています。ただずっと力が弱かった。だから,せめて本当に地球をぶっ壊す前に自ら
スピードダウンするくらいの賢明さを「殊更シニカルに」夢見ているのです。

何時の世も為政者は民衆に楽観論を植え付けようとしますが,少なくとも私たちの世代は
そんな甘い状況ではないことを間もなく嫌でも認識せざるを得ないでしょう。
(立場上あんまり詳しいことを書けないのがもどかしい)

>そうですね!科学技術が進めば進むほど、私たち自身は、(一個人として)どん
>どんひ弱になっていきますしね。

後藤さんと私の視点の違いが上の文に如実に現れています。
つまり,後藤さんは技術とそれに伴う社会の発達が,一人の人間をちっぽけな存在に
したと考えているようですが,私の意見は,そのちっぽけな存在が知らずに消費してしまう,
資源やエネルギー,他の生き物たちの未来の膨大さです。

私が言いたかったのは,私たちは既に十分強大なのだという自覚です。
私の目には人類は「酔っぱらった頭の良くない巨人」に見えます。
そう言う無自覚な生き物が60億匹地上を歩き回っているのです。

人間以外の地球の生き物は随分迷惑顔でしょうね・・・・

Kazunari Yokoyama, Ph.D.
Soil Microbial Ecology Lab.
National Institute of Agro-Environmental Sciences, Japan
Phone:+81-298-38-8300
Fax:+81-298-38-8199


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